難病患者の医療機器は常に電源を必要とする。このため災害時の停電などに備えた「防災用蓄電池」が開発された。しかし、蓄電池を医療機器に使う“リスク”を不安視する声もあったと開発者は言う。

難病患者に不可欠な電源

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治療法の確立されていない難病患者の多くは、病院ではなく自宅で医療機器を使いながら治療を続けている。このため災害などによる停電で医療機器がとまると死の危険にさらされることになり、直ちに電源のある場所に避難しなくてはならないのが現状だ。

「防災用の蓄電池」を開発

防災用蓄電池を開発した「KMTec」の久米祐介社長
防災用蓄電池を開発した「KMTec」の久米祐介社長

このような難病患者のために、停電時に非常用電源となる「防災用の蓄電池」を開発したのが、災害に強い街づくりにつながる製品開発に取り組んでいる佐賀市のメーカー「KMTec」。社長の久米祐介さんが佐賀大学大学院の学生だった27歳の時、18年前に創業したベンチャー企業だ。

開発のきっかけとなった親子

自宅で人工呼吸器を使用する医療的ケア児
自宅で人工呼吸器を使用する医療的ケア児

蓄電池を開発した当初、久米さんは医療機器への使用を想定していなかったと言う。
医療機器に使用する蓄電池を開発しようと思ったのは、佐賀市で暮らすある親子の存在を新聞で知ったことがきっかけだった。自宅で人工呼吸器を使用する医療的ケア児と母親が「非常用電源の必要性」を訴える記事が久米さんの気持ちを動かしたのだ。

KMTec 久米祐介社長:
もしも今すぐにでも地震が起きて電源がないと娘は死ぬから、そういうこと起きると私も生きていけないから私も死にます、という記事を見たときに、日本でこういうことが何で起きるのだろうと思った。電気はいくらでもつくれるのに

安心・安全な蓄電池を避難所に

防災用蓄電池「E-SAFE」
防災用蓄電池「E-SAFE」

ささいな故障でも利用者の命に関わるといったリスク面から医療機器に使用できる蓄電池がほとんどない中、久米さんは2018年に防災用蓄電池「E-SAFE」を開発した。
防災用のため長期間使用しない場合でも自然に放電する量が少ない製品で、国産にこだわり、佐賀で組み立てを行っている。

KMTec 久米祐介社長:国産で安全・安心な蓄電池を避難所に設置したいというのが一番の思いだった

”蓄電池”を導入した難病患者は

ALS(筋萎縮性側索硬化症)の中野玄三さん(69)
ALS(筋萎縮性側索硬化症)の中野玄三さん(69)

「E-SAFE」を自宅に設置している佐賀市の中野玄三さん(69)。
中野さんは、全身の筋肉が徐々に動かせなくなる難病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)を患っていて自宅で治療を続けている。

命をつなぐ医療機器は常に電気を必要とするため、妻の由美子さんは停電を心配する毎日を送っていた。

妻 由美子さん:
命に関係してくるので、これ(医療機器)が止まってしまったら大変なことになる

防災用蓄電池「E-SAFE」を自宅に導入したのは、中野さんが初めてのケースだ。

KMTec 久米祐介社長:
蓄電池が35時間持つということを中野さんに実証していただいた。我々は医療機器が手に入らないので実験できないんですよ

中野さんの使用実績が製品の信頼につながり、現在(2024年2月)は佐賀県内で20人の患者が「E-SAFE」を自宅に設置している。

“リスク”を不安視する声も

実は、防災用蓄電池を開発する際、蓄電池を医療機器に使うことについて社員からリスクを不安視する声も上がったと言う。
久米社長は「ほとんどの蓄電池メーカーは1つの失敗でも許されないというリスクからほとんど蓄電池を医療用機器には使わない」と現状について語った。

KMTec 久米祐介社長:
もちろんリスクはあるんですけど、ただ1人でも多くの困っている人たちに電気を届けたい。もし(防災用蓄電池の)電源がなければ1000人の人が亡くなるというときに、もしかしたら蓄電池を使っても(そのうち)1人は亡くなるかもしれないが、999人救えることを誇って、自分が責任を負うということです

「蓄電池があるだけで安心」

防災用蓄電池「E-SAFE」を自宅に導入した中野さんにとって大切なのは“安心”だという。

中野玄三さん:
使わなくても(防災用蓄電池が)あるだけで安心

妻 由美子さん:
災害時は、いつも通りでいられるかどうかわからないですよね。だからやっぱり即つなげられるもの(電源)があったらいいですね

KMTec 久米祐介社長:
(防災用蓄電池が)あるだけで安心、というのを聞いたときに、やっぱりこの電池を作った意味があったんだなと思った

全国の福祉避難所などに設置

久米さんが開発した防災用蓄電池は、自宅での利用だけでなく、専門職員が常駐する福祉避難所など全国で326台設置されている。

KMTec 久米祐介社長:
“子の世”のためにできることを考えて挑戦し続けるというのが理念なんです。死ぬ前の世界の“この世”というのが我々の世の中ではなくて、子どもの世の中だと思っているんです。我々のやる事業はすでに子どものためでないといけない

(サガテレビ)

サガテレビ
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