普天間基地の移設計画を巡り、政府が辺野古の大浦湾側の工事に着手して1カ月が過ぎた。

これまで例のなかった「代執行」という形で進む工事を、移設問題に向き合ってきたかつての名護市長はどのように見ているのだろうか。

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2024年1月10日に始まった大浦湾側での石材の投入。工事は、護岸の造成に必要な資材を置く海上ヤードの設置作業が進められている。

国は、2023年末に大浦湾側の工事に必要な「設計変更の申請」を代執行によって沖縄県の代わり承認。これまで例がない地方自治法上の「代執行」で移設問題は新たな局面を迎えた。

元市長・島袋氏「受け入れ容認は北部地域の振興のため」

「国土交通相の代執行は、しょうがないんじゃないかなと思っています」と話すのは、2006年から1期、名護市長を務めた島袋吉和さん。

条件付きで受け入れを表明した前の市長の後継として当選し、現在のV字型の滑走路とする案で政府と合意した。

島袋吉和 名護市長(2006年当時):
きょう、防衛庁が報告した内容は、これまで名護市及び宜野座村の要求にある民間地区の上空を飛行しないという事が示されていることにより、基本合意書を交わすことができました

島袋さんは、豊原地区の要望が集落の上空を飛ばないで回避してほしいということだったので、それを加味しV字でしかできなくなったのではないかと考えている。

一方で、受け入れを容認したのは、名護市を始めとする北部地域の振興を図るためだったと話す。

島袋吉和 元名護市長:
北部はやっぱり遅れていると思っているので、名護市だけじゃなくて地域全体のかさ上げ 振興をやらなきゃいけないということで、北部の12市町村が一緒になって交渉に当たっていたんです

市が、受け入れを容認して以降、国立高等専門学校や企業誘致の受け皿となる施設が整備されたほか、2007年からはアメリカ軍の再編に伴う影響を受ける自治体として再編交付金が交付された。

政府は名護市と振興策を話す枠組みを

島袋さんは、国の北部振興策を評価する一方で、思い描いた理想像にはまだ届いていないと感じている。

名護市は中学3年までの医療費と給食費が無料であるため、他の地域よりも良くなってきているが、名護の街はシャッター通りで、その状況が十何年も変わらないままだ。

工事が進む以上、島袋さんは「政府は名護市と振興策を話し合う枠組みを設置すべき」と力を込める。

島袋吉和 元名護市長:
振興策や基地に付随する問題等は、これから詰めていくということだったが、ずっとできなくなっています。基地を受け入れたけど、何一つ豊かになっていないという事になってしまったら大変なことになりますから

元市長・稲嶺氏「代執行は植民地政策の極み」

島袋さんが北部の発展、振興のために基地を受け入れるべきという立場をとる一方で、2010年から2018年まで名護市長を務めた稲嶺進さんは、「辺野古移設は沖縄への基地の押し付け」「今度の代執行なんていうのものは、植民地政策の極み・極め付きと言わざるを得ない」と批判する。

代執行訴訟では移設計画の「公益性」が争点の一つとなり、移設に反対する県民の民意について判決では「法律論として公益に考慮し得るとは言い難い」と認めなかった。

稲嶺進 元名護市長:
沖縄という小さな島の犠牲の上に成り立つ公益なんて、そんなのあり得ないと思う。「基地を受け入れるべきだ、というようなことを押し付けてきた経緯の中から生まれた公益」といような判断だと

稲嶺進 名護市長(当時):
辺野古の海にも陸にも新たな基地は造らせないという姿勢を日米両政府が断念するまで、断固として貫いていく事を改めてお誓い申し上げます

再編交付金のストップでマイナスからのスタート

市長の在職中、一貫して移設計画に反対する姿勢を明確にしてきた稲嶺さん。

政府はアメリカ軍の再編計画に協力的ではないとして、再編交付金をストップした。

稲嶺進 元名護市長:
全部抜き取られたので、ゼロからのスタートでなくマイナスからのスタートみたいなものでした。再編交付金に頼らないまち作りを訴えてやりましたので、各省庁のいろいろメニューを探し出してきて、再編交付金に代わる事業として充てられるものがないか調べました

国から露骨な圧力を受けながらも移設に反対する姿勢を堅持した稲嶺さん。

根底には基地問題は「生活の問題」という信念がある。

稲嶺進 元名護市長:
子どもの将来が豊かで安心して生活ができる。そういう地域社会を作っていくのが大人・親の責任なので、市民生活に直結する問題です

代執行で進められる工事は唯一の解決策か?

県は工事を中断した上で埋め立て申請の留意事項に基づく事前協議を求めているが、国はこれに応じず工事を続けている。

稲嶺さんは、辺野古の移設計画のように「国策」であれば自治体の意見が無視されることがまかりとおってしまい、地方自治は崩壊すると警鐘を鳴らす。

稲嶺進 元名護市長:
単なる代替の施設を作るか・作らないかの話じゃなくて、そこから派生してくる民主主義であったり、地方自治の問題なんですよ

戦後から続く過重な基地負担…

今も、そしてこれからも基地から派生するさまざまな問題に向き合う事を県民は余儀なくされている。

普天間基地の危険性を除去する唯一の解決策として代執行という「強権」をもって進められる辺野古の移設工事。

移設工事は2024年1月10日を起点に9年3カ月、そして移設完了までに12年かかる見通しの計画が、果たして「唯一の解決策」なのか。

政府は今こそ沖縄の声に耳を傾けなければならない。

沖縄テレビ
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