逆境を機に“逆転”狙う旅館の取り組み

新型コロナウイルスの影響で、休業を余儀なくされていた宿泊施設。
緊急事態宣言が解除された今、終息後を見据えて動き出した観光業界を取材した。

6月1日、新潟・南魚沼市六日町に、明るい声の響き渡る旅館があった。

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ryugon井口智裕代表:
ありがたいですよね。なんか安心しますね。やっぱり人が来てくださると

新型コロナウイルスの影響で休業し、ようやく迎えた営業再開の日。
しかし、そこに携わる人たちは、ただ再開の日を待っていたわけではない。

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、緊急事態宣言が全国に拡大された2日後の4月19日から休業していた南魚沼市六日町の旅館「ryugon(リュウゴン)」。

ryugon井口智裕代表:
まだまだ景気が良い時代は、某大きいホテルさんには敵わなかったかもしれない。だけど、今のこの変化って、1年・2年でもしかしたら逆転をするかもしれない

ryugonは、約50年前に市内の古民家を移築して建てられたが、経営が悪化。
2018年9月に、当時のオーナーから井口さんが経営を引き継いだ。

そして2019年10月にリニューアルオープンし、経営が軌道に乗り始めた矢先、新型コロナウイルスの影響を受けた。

ryugon井口智裕代表:
3月とか4月・5月というのは、すごく順調だったんですよ。一気にそのお客さんがほとんど消えた

予想もしていなかった事態…
しかし、立ち止まっている暇はなかった。
再開を目指して、この日従業員が取り組んでいたのは、ウイルスの感染拡大を防ぐ接客方法のトレーニング。

対応するときはマスクと手袋を着用し、必要な情報は予約の際に確認することで受付の時間を短縮する。
実践してみると、表情がマスク越しでは伝わりづらく、さらには…

指導係:
あまり離れすぎると、お客さんも「え?」って見えなくなっちゃうから。こっちに来てあげるとか…

客との適切な間隔の取り方にも悪戦苦闘…
しかし、こういう時だからこそ、自分自身の接客と向き合うきっかけにもなったという。

従業員:
どちらかというと早口になってしまうので。マスクをしていると、それこそ口や全体の表情が見えないので、ゆっくりしゃべるのを気をつけなきゃいけない

「価値上げる」投資で勝負かける

そして、この休業期間を逆手にとり、井口さんはハード面でも勝負を仕掛けていた。

ryugon井口智裕代表:
さらに価値を上げるための投資ということで…全部1部屋ずつ、こうやって(工事して)、ここが一番最後に残った改修工事です

客の減り始めた2020年2月から、20の客室で工事を開始。
より自然を感じられるようレイアウトを変えるなど、部屋の価値を高めるための改修を行った。

また敷地内には、地元の人も気軽に利用できるカフェのほか、散策用に自転車の貸し出しなどを行うアクティビティセンターも設置。
客が地元の人と交流し、「六日町の日常」という異文化を体験できる、新しい観光の形に挑戦していた。

ryugon井口智裕代表:
今までの観光は、旅館に泊まりに行くことが観光の目的だし、楽しみだった。これからの未来を考えると、まさに地方の時代だと思いますし、むしろ地域と宿を考えた時に、地域の過ごし方の方が旅の目的になりうる時代が来るだろうと

ただ旅館で接客を受ける観光から、より広い地域や文化圏で過ごす観光に変わる。
そう考える中で、井口さんには少し気がかりな地域があった。

ryugon井口智裕代表:
湯沢の方が、むしろ経済的なダメージは大きいのではないかなとは思っていますね…

ピンチの湯沢温泉…地域一体で個人客に焦点

六日町温泉から車で約30分のところにある、湯沢町の湯沢温泉。

5月14日に県内の緊急事態宣言は解除されたが、その後も湯沢町では宿泊施設などに町独自の営業自粛を呼びかけていた。
5月20日の取材時、温泉街の土産物屋にも、臨時休業と書かれた紙が貼られていた。

湯沢町 田村正幸町長:
新型コロナウイルスの感染拡大が東京都を中心として起こっておりましたので、これをなんとしても食い止めたいという強い思いから、そのようにさせていただいたところです

東京からは新幹線で最短70分ほど。
年間の観光客の約8割を関東圏の人が占める湯沢町では、観光業の再開により、町に感染が広がる恐れがあった。

松泉閣・花月 女将:
電気がついてないので…

湯沢温泉街にある旅館「松泉閣・花月」も、町の要請を受け4月13日から休業を続けていた。

しかし…

ーー自分たちの力ではどうにもならない部分が?

松泉閣・花月 富井松一会長:
もう絶対無理ですね

4月から休業を始め、ほとんど収入のない状態が続いている花月。
それでも、地域を挙げて感染拡大防止に取り組む今が、変革のチャンスと捉えている。

松泉閣・花月 富井松一会長:
ピンチなんですけど、湯沢全体がまとまりやすい環境になっているので

今後は感染拡大防止の観点から、宴会などを伴う団体客よりも、個人客の増加が予想されることから、地域が一体となった取り組みの重要性が増している。

松泉閣・花月 富井松一会長:
個人の嗜好(しこう)で宿を求めたり、地域を求めたり、観光地を求めたりしますので、そうした形を早く湯沢町でも作っていく

さまざまなニーズを持つ個人客。
その新たな観光のニーズに答えるためには、町全体で受け入れ体制を変えていかなければならない。

湯沢町 田村正幸町長:
一丸となる中でですね、この未曽有のコロナウイルスというものと戦っていって、町を持続していく、活気を取り戻すということを進めていかなければならないと思っています

新たな観光の形…オンライン相談サービス

始まったのは、新たな観光の形の模索。

ryugon井口智裕代表:
お越しいただいてありがとうございます

6月1日、約1カ月半ぶりに営業を再開したryugonでは、スタッフがトレーニング通りに対応する姿が見られた。
さらに、新たな取り組みも…

スタッフ:
旅の目的は、周遊観光が目的でございますか?

外出の自粛でWeb上でのやり取りが浸透したことを利用し、宿泊前にオンラインで旅の相談ができる仕組みを考案。
6月中旬にもサービスを始める予定。

ryugon井口智裕代表:
明るく、また皆さんが安心してご旅行に行けるときに、僕らは「新しい旅行の形」ということで、自信を持って提供できる準備を今からしっかりしていこうかなと思っています

変革の渦中にある観光業界。
その挑戦は、まだ始まったばかり。

(新潟総合テレビ)