3年前、兵庫県稲美町で自宅に放火し、同居する小学生のおい2人を殺害した罪に問われた男に判決が言い渡された。

■「被告人を懲役30年に処する」

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裁判長:主文、被告人を懲役30年に処する

幼い2人の兄弟の命が奪われた事件。15日の法廷で、殺人などの罪に問われた「伯父」に言い渡されたのは、懲役30年という判決だった。

無職の松尾留与被告(53)は2021年、稲美町の自宅にガソリンをまいて火をつけ、同居していた妹の息子、侑城(ゆうき)くん(当時12)と眞輝(まさき)くん(当時7)を殺害した罪に問われている。

松尾眞輝くん
松尾眞輝くん

眞輝くん(当時2歳):レッツゴー!レッツゴー
侑城くん(当時小学4年生):お父さん、お母さん、僕を生んでくれてありがとう。僕の将来の夢はプロ野球選手です。頑張って練習をたくさんするので、相手になってください

2人の両親は、「野球が大好きで、仲が良い兄弟だった」と話す。

亡くなった兄弟の父親:眞輝の方が運動神経がいい。野球のセンスも眞輝の方がセンスはあるみたい。でも根性とか、なんでも挑戦するのは侑城の方で。パパとママのもとに帰りたい。お友達のところに行って一緒に遊びたい、会いたい。そういう言葉が、心の中で2人の叫びが聞こえてくる

事件前、両親は同居している松尾被告が無断で自分たちの部屋に入るなど、異常な行動が目立つようになったことから、部屋の前に防犯カメラを設置していた。これまでの裁判で起訴内容を認めていた松尾被告。裁判の中で、防犯カメラを設置されたことなどに対し、「人間扱いされていない」と不満がつのっていたと語った。

子供2人を標的にした理由について…
松尾留与被告:あいつら(妹夫婦)の一番大事なものを奪って、俺の苦しみを分かってもらいたかった

検察側は「残虐な対応で、計画性も認められる」などとして、松尾被告に死刑を求刑。

一方、弁護側は、松尾被告に軽度の知的障害があり、「妹夫婦によって精神的に追い詰められていた」などと主張して、情状酌量を求めていた。

■「死刑を選択することがやむを得ないとはいえない」として、「懲役30年」の判決

そして2月15日午後。神戸地方裁判所姫路支部で、松尾被告に言い渡されたのは、懲役30年の判決だった。佐藤洋幸裁判長は、「妹夫婦への恨みを晴らすためだけに2人の尊い命を奪った身勝手で悪質な犯行」と指摘。一方で、「親族間のトラブルを背景としていることなどからも、死刑を選択することがやむを得ないとはいえない」とした上で「松尾被告の軽度な知的障害が犯行に影響を与えたことは否定できない」として、「懲役30年」の判決を言い渡した。

■「納得いかない。これからが戦い」と被害者の父​

この判決を受け、会見を開いた侑城君と眞輝君の両親。
亡くなった兄弟の父親:もちろん、きょうの判決に対しては納得いかない。私たち夫婦の大事な大事な生きがいである侑城と眞輝が、何の罪もない何の落ち度もない2人を、放火という残虐な手段で殺害したにもかかわらず、30年という有期刑。これに対して本当に納得いきません。子どもたちに対しての報告はできなく、これからが、まだ戦いだと思う

このように述べ、「この度、有期刑という敗訴になったので、控訴を申し入れて新たに戦いたい」と話した。

■「命の重みをもっと考えなければならない」と裁判長

裁判が行われた神戸地裁姫路支部から、裁判の傍聴を続けてきた原田笑加記者が報告する。判決が言い渡された時の様子はどうだったのか。

原田記者:これまでの裁判と同じ黒のフリース姿で入廷した松尾被告は、『懲役30年』という判決を言い渡された時も落ち着いて、表情は変わっていないと感じました。その後、判決理由が読み上げられている時は伏し目がちで、時折、裁判官を見上げることはありましたが、一貫して落ち着いている印象でした

検察は死刑を求刑していて、判決は懲役30年だったが、その理由は?

原田記者:検察が求めた死刑について、裁判長はまず『死刑は究極の刑罰で慎重に判断されなければいけない』としました。
  その上で、犯行については身勝手で悪質としたものの、私利私欲や自己保身のためではなく、親族間トラブルに起因するものだったとして、恨みや不満とは関係のない人物を殺害した事案とは異なると判断。死刑の選択がやむを得ないといえるような事案ではないとしました。
  加えて、被告人の問題解決能力の低さは、軽度の知的障害や家庭環境の影響を受けていて、これが犯行に影響を与えたことは否定できないと指摘。このことも考慮すべきだとして、懲役30年という判決を言い渡しました。
  最後に裁判長から『命の重みをもっと考えなければならない。やってしまったことを一生忘れてはならない。亡くなったゆうき君と将来に対する強い謝罪の気持ちを持ちながら、生きていってほしい』と言われると、松尾被告は落ち着いた様子で聞いていました

■「懲役30年」の量刑 「亡くなった子供さんは納得できないと思います」と菊地弁護士

検察側の求刑は死刑のところ、判決は懲役30年だった。この量刑について、「newsランナー」コメンテータの菊地幸夫弁護士は「率直な感想として少し軽いなというところがあります」と感想を話した。

裁判長から「死刑の選択をやむを得ないといえるような事案ではない」という言葉があったという。背景に親族間のトラブルがあったということだが、判決の妥当性についてはどう考えられるのだろうか。

菊地幸夫弁護士:死刑が良いか悪いかという議論はちょっと置いておきます。今までの日本の裁判所の考え方ですと、被害者2人の殺人事件で、それに放火が加わり、放火殺人のケースですから、かなり死刑の可能性が高いという裁判所の判断基準がありました。それにそって、検察官も死刑を求刑したということです。
  今回の刑ですが、死刑を一つ下げると無期懲役になり、もう一段下げて有期の懲役で、有期の中で最上限の30年となっています。死刑から比べると二段階下がっているんです。普通はいろんな事情があれば一つ下がるんです。これが親族間トラブルでまったくの他人を殺害した事案とは異なるという。亡くなった子供さんを思うと、『親の恨みで殺された僕たちはこれでいいのか』と、多分子供さんは納得できないと思います

検察側は、この判決内容をよく検討して適切に対応したいコメントしている。

(関西テレビ「newsランナー」 2024年2月15日放送)

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