丈夫で美しい光沢があり襖(ふすま)や壁紙などに使われる「アバカ布」を ご存じだろうか。植物のなかで最も強靭と言われるアバカの繊維で織った布だ。日本に1カ所しかない織物工場を父から受け継いだ女性は、アパレル社員だった経験を活かしてオリジナルブランドを立ち上げた。夢は海外展開だ。
“最強の植物繊維”で光沢を長年保つ
![そま工房(袋井市)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/a/8/700mw/img_a84e8e9e3c8515f7be8aa651c7ea73ed82564.jpg)
静岡県袋井市南部にある「そま工房」。昔ながらの機械の音が鳴り響くこの工場では6人の従業員が働いている。
![乗松浩美さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/8/2/700mw/img_82eefbe760ae9aa423cef8ee399b6b7174854.jpg)
そま工房の専務・乗松浩美さん(43)は、「強くてゴワゴワしているけど、光沢があって繊維の手触りと光沢のしっとりとした風合いのギャップがいい」と、その魅力を教えてくれた。
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この工場で55年間 作られているのは、フィリピン原産の天然繊維「アバカ」を使った織物、アバカ布。バナナの仲間のアバカはマニラ麻とも呼ばれる植物で、幹から採れる繊維は植物の中で最も強靭とも言われている。
![シャトル織機](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/2/a/700mw/img_2a6beddd82376ad4a5e1cb53e3e549ba60157.jpg)
アバカ布の作業工程は、厳選したアバカの繊維を細く裂き1本1本を丁寧に結んで糸にしたものを緯糸(よこいと)として使う。心棒に巻き付けた糸をシャトルに入れ、80年以上前の機械を使って織ることで独特の光沢を放つのが特徴だ。
![アバカ布のふすま紙](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/6/c/700mw/img_6c9125d8638cfd5d23c9a9e7c284d32a50814.jpg)
織りあがった布は丁寧に検査・補修が行われたのちふすま紙や壁紙として使われ、長年使用してもその光沢は衰えずに美しさを残す。
「唯一の工場なくすのもったいない」
1969年に父・恵三さんが始めたアバカの織物業だが、乗松さんは子供の頃 この仕事に興味がなかったそうだ。
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そま工房専務・乗松浩美さん:
織屋をやっているのは分かっていたけど どういうものを織っているのかも理解していなくて、友達に「お父さんとお母さんはどういう仕事しているの」と聞かれても説明がうまくできないし、言っても分かってもらえないというのが ちょっと恥ずかしかったりして嫌でしたね
![作業する乗松さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/2/b/700mw/img_2bf46afe0116d9164c634310c3c2b99979916.jpg)
ファッションが好きでアパレル会社で服の販売や仕入れなどの仕事をしていた乗松さんが、工房を手伝うようになったのは12年前。結婚や子育てを機に仕事を辞めたことがきっかけだった。
乗松さんは「子供の頃に見ていたものとは見方がだいぶ変わって、やっていくうちにすごくおもしろくて魅力的な素材だと思うようになった」と話す。
![作業中の父・伊藤恵三さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/7/b/700mw/img_7beded4697734ed349c8e918af8d49df79895.jpg)
最盛期には国内で20軒ほどあったアバカの織物工場だが、加工に手間がかかることやふすま紙の需要の減少、さらに海外から安価な製品が輸入されるようになったことなどから、1980年頃には そま工房が国内に唯一残る工場となった。
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工房を引き継ぐことを決意した乗松さんは2年ほど前に、一緒に業務に携わってきた義理の姉の伊藤和美さんを社長に、そして自らが専務となり株式会社として事業を承継した。
乗松さんは「日本で1軒だけになってしまった、この織物(工房)をなくすのはもったいない。なくすのは簡単だけど、なくしちゃったら今度始めるのはすごく大変なこと。自分たちができる範囲で守っていければと(義姉の)社長と考えた」と、事業承継を決めた時の思いを語ってくれた。
![父・伊藤恵三さんと乗松さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/d/6/700mw/img_d6f8148a05560b54035a0ea984dcde5c65464.jpg)
会長となった父・恵三さんも、工房で製造に励みながら50年以上培ってきた技術を娘たちに伝えている。
父・伊藤恵三さん:
慣れないとしょうがない。糸と仲良くなること。本当は私の代で終わるつもりでいたけど、これが続いてくれるといいですね、楽しみ
アパレル経験いかして新商品開発
![「soma」のロゴ](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/5/e/700mw/img_5eae31ffa37b438b9f2aa31e63ec2b1a73406.jpg)
伝統を受け継ぐ中で見えてきた課題もある。それは認知度だ。アバカの魅力を多くの人に知ってもらいたいと、2019年にオリジナルブランド「Soma」(そま)を立ち上げた。
![「soma」の商品](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/9/b/700mw/img_9bac11f604520a339a8b04aaae0b4b8376843.jpg)
生地の開発や商品の企画までを一貫して行い、ヘアゴムやイヤリング、名刺入れといった小物からバッグや帽子まで様々なアイテムを展開している。
製品によって生地の密度や色を変えていて、中にはアバカ布を織る際にロスになってしまう糸を溶かして作った紙のバッグなどもあり多種多様だ。
![アバカ布の羽織](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/3/2/700mw/img_3200e6c551f18e67068db3f667f683c799945.jpg)
ベージュ色の生地にアバカを使っている羽織は、会長の恵三さんが独自で編み出した織り方で阿字織(あじおり)という生地に凹凸が出るように手織りしているそうだ。
和装だけでなく洋服にも取り入れて使えるように、アパレル経験を活かしてコーディネートの提案もしているそうだ。
試着できるカフェスペースも
![試着できるカフェスペース](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/4/b/700mw/img_4b1aa8bbb57e714a14337cdec195d3d566541.jpg)
魅力を広めるための挑戦は他にもある。掛川市にあるアトリエを月に1度カフェスペースとして開放し、アバカの魅力を直接感じてもらう取り組みを始めている。
![アバカ布の帽子愛用者](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/d/4/700mw/img_d48a65554230974493ff85196d10cc9958958.jpg)
来場者の中には試着をする人の他、すでに帽子を愛用している人の姿もあった。
帽子を買った人は「風合いがたまらなく良い。落ち着く色合いと、ぐしゃぐしゃにしても そんなに悪くない感じなのでエイジング(経年変化)してもいいと思っている」と、気に入ったようだ。
娘も母親の姿に憧れて
![乗松さんと長女・美洸さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/8/d/700mw/img_8d3031df50b3da7aa2de675e71dc4d1680907.jpg)
3人の子供の母親でもある乗松さん。子育てと仕事で忙しい日々だが、そんな母の姿を見てきた14歳の娘はこう話してくれた。
長女・美洸さん:
あまりないものを作っているのがすごくかっこいいと思っていて、お母さんのことも憧れていて、将来こういう仕事に就けたらかっこいいと思っている
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「アバカの可能性はまだまだある」と意気込む乗松さん。
「難しいものに挑戦していきたいというチャレンジ精神は常に持っていたい。大きな夢ですけど、海外に展開もしていきたいと思う」とほほ笑む。
伝統を守りながら挑戦する思いと技は、きっと伝統織物を次世代に紡いでいくはずだ。
(テレビ静岡)