韓流ドラマ並みの演出に、思わず・・・
この記事の画像(4枚)私は韓流ドラマが苦手だ。なぜ?と聞かれると困るのだが、過剰な演出とか、登場人物の力の入り方とかに、いちいちついていけないものを感じるからだ。
4月27日の南北首脳会談も同様である。いろいろ見せ場はあった。
金正恩委員長と文在寅大統領が、ともに軍事境界線を越えて見せたシーンは歴史に残るだろう。共同文書にサインしたモンブランの万年筆など、小道具も気が利いていた。ベンツと一緒に走るSPたち、といった脇役も面白かった(個人的には、漫画『パタリロ』のタマネギ部隊を思い出して吹いてしまったが)。
韓流ファンには、堪えられないドラマだったのかもしれない。
中身が空っぽだった板門店宣言
ただし外交会談としてはどうだったか。
少なくとも板門店宣言には、「中身ねーじゃん!」と突っ込みを入れたくなる。
確かに「完全な非核化」とは書いてある。ただしそれは北朝鮮の、ではなく朝鮮半島全体の、である。それでは在韓米軍はどうなってしまうのか。
察するにアメリカが求めているCVID(完全で検証可能で後戻りできない非核化)原則のうち、C(完全な)だけ入れて、V(検証可能で)とI(後戻りできない)をネグったのであろう。ただしそれでは困る。
特に核やミサイルの脅威を感じている日本としては。
朝鮮戦争を終わらせる、とも書いてある。しかし朝鮮戦争は南北朝鮮のみならず、国連軍と中国が加わった戦争である。
自分たちだけで決められることではない。そのほか文大統領の年内平壌訪問とか、ケソンに連絡事務所を設置するとか、南北でできることだけ書いてある。
北の「食い逃げ」に終わった過去2回の首脳会談
それでは今回の会談を受けて、北朝鮮への貿易投資などの国際制裁を解除できるのか。
実際問題として、国境を越える観光の再開でさえ怪しいだろう。
南北首脳会談は、2000年(金正日と金大中)にも2007年(金正日と盧武鉉)にも行われている。いずれも北朝鮮側の「食い逃げ」に終わっている。2018年の会談は本当に前2回の会合と違うのだろうか。
何より金正恩は血塗られた独裁者である。
おじの張成沢とその一族を惨殺し、兄の金正男を暗殺している。悪玉がある日突然、善玉に豹変するのはドラマではよくあることだ。確かにドラマならそれで構わない。
だが自国の安全保障が懸った問題で、ご一緒に喜んでくださいと言われても困る。
少なくとも元人権派弁護士であった文在寅大統領が、そんなことでいいのですかと嫌味のひとつくらいは言いたくなる。
まあ、私も韓流ドラマが好きな人を邪魔するつもりはない。お好きな人は勝手にどうぞ。ただし感動のあまり、「日本は蚊帳の外になっている!」などと騒がないでほしいと思うけれども。
(執筆:吉崎達彦 双日総研チーフエコノミスト)