全米が注目するプロフットボールリーグ・NFLの王者決定戦「スーパーボウル」を2月11日に控え、人気歌手のテイラー・スウィフトさんがトランプ前大統領の支持者による攻撃対象になっている。
背景には、スウィフトさんがこれまでトランプ氏を批判し2020年にはバイデン大統領を支持したことがある。スウィフトさんの交際相手はNFLのカンザスシティー・チーフスに所属し、スーパーボウルに出場することが決定したことで、スウィフトさんも応援に駆けつけると予想されている。しかし、SNS上では、その場をバイデン大統領の支持表明に利用するとの噂が広がり攻撃がヒートアップ。さらには陰謀論も飛び交う混乱状態となっている。

81歳のバイデン氏と、77歳のトランプ氏の対決が確実視される大統領選挙は、高齢批判も相まって、若者票をどう取り込むのか両陣営が躍起になっているだけに、若者に絶大な人気を誇る34歳のスウィフトさんの動向には神経をとがらせているのだ。そんな中で、今度はHIPHOP界のレジェンドが、これまで痛烈に批判してきたトランプ氏を絶賛して話題に…。大統領選のウラでアメリカのスーパースター達の動向にも注目が集まっている。
絶大な人気を誇るテイラー・スウィフトの影響力
今年のグラミー賞で、史上最多となる4回目の最優秀アルバム賞に輝いたテイラー・スウィフトさんは、インスタグラムのフォロワーは2億8000万人に上り、若者を中心に絶大な影響力がある。「Morning Consult」社の調査(2023年3月)では、実にアメリカの成人の53%がファンと答えた。

若者への投票の呼びかけ、女性の政界進出などを応援する活動も行っていて、2020年の大統領選挙ではバイデン大統領を支持した。スウィフトさんの支持層はリベラルで、政党的には民主党系が多いとされているが、共和党にも6000万人のファンが存在するとの推計もある。
各種調査からファン層を分析すると、「白人」の「女性」で「郊外」に住む割合が高いとされ、これはトランプ前大統領が苦手とする層と重なっている。2020年にバイデン大統領を支持した際にも「隠れ白人至上主義者」などとSNS上で誹謗中傷を受けたが、今回もアメリカメディアが、「バイデン陣営がスウィフトさんらを巻き込んだ選挙キャンペーン計画を練っている」と報じると、トランプ氏の支持者などからの批判が爆発した。
トランプ支持者「聖戦」呼びかけも
共和党の指名レースから撤退し、トランプ氏の支持を表明した実業家のラマスワミ氏は1月29日、スーパーボウルとスウィフトさんに関して「人工的に、文化的に後押しされたカップルから大統領候補への支持が表明されるのか」とSNSに投稿した

トランプ氏の支持層からは、(1)スウィフトさんとチーフスの選手が恋人になったこと、(2)チーフスがスーパーボウルに出場を決めたこと、(3)スーパーボウルの結果の全てが民主党(バイデン陣営)によって操作されたもので、去年1億1300万人以上が視聴した大イベントの場で「バイデン氏への支持表明を行う」との憶測が広がっている。
トランプ氏に近い有識者やメディアからも、次々とスウィフトさんに対して「政治から距離を置くべきだ」との声も挙がる。さらには「スウィフトは国防総省のエージェントとして活動している」との陰謀論も飛び出しているほか、スウィフトさんに対する「聖戦」を予告する物騒な動きも起きている。ただ、スウィフトさんの人気は凄まじいものの、過去に支持した候補者が落選したこともあり、投票行動とは必ずしもリンクせず「過剰反応」との指摘も上がる。

一方でアメリカ大統領選挙は、ほとんどの州で民主党、共和党の色分けがはっきりしていて、勝敗はわずかにある接戦州の結果に左右される。若者の投票行動を研究する「サークル」によれば、前回2020年大統領選の18~29歳の投票率は約50%で、内訳は61%がバイデン氏に、37%がトランプ氏に投票したとしている。
接戦州で、スウィフトさんの若者への影響力はバイデン陣営にとっては「必要」であり、トランプ陣営にとっては「脅威」なのだ。アメリカメディアは「他の有名人とは異なり、彼女は実際に変化をもたらす可能性がある」とも分析する。
セレブも巻き込む選挙戦…大物ラッパーは転向!?
日本に比べてアメリカは、歌手や俳優、スポーツ選手も大統領選挙で支持表明を行うケースが多い。

2020年で見れば、バイデン氏の支持はスウィフトさんに加えて、歌手のビヨンセさん、ビリー・アイリッシュさん、アリアナ・グランデさん、レディー・ガガさんなどで、トランプ氏にはボクシング元ヘビー級王者のマイク・タイソンさん、ゴルフ界の帝王・ジャック・ニクラウスさんなどが支持した。

そして、ここに来て注目されているのは、HIPHOP界のレジェンド的存在のラッパーで、インスタグラムのフォロワー8500万人超を誇るスヌープ・ドッグさんだ。2017年「Lavender」のミュージックビデオで、トランプ氏を模したピエロ「Ronald Klump」を銃撃するシーンを盛り込み物議を醸すと、「Make America Crip Again」の楽曲でトランプ氏の代名詞を風刺。

2020年にはトランプ氏をFワードで罵るなど緊張関係にあるとされてきた。

それが一変、最近の「サンデー・タイムズ」紙のインタビューで「彼は俺に素晴らしいことしかしていない。ドナルド・トランプには愛と尊敬しかない」と発言したのだ。この背景には、スヌープ・ドッグさんが過去に所属していたレコード会社の共同設立者が、殺人未遂などで有罪判決を受けて服役していたのだが、トランプ氏が2021年に恩赦を決定したことがあるとされている。

まだ、スヌープ・ドッグさんは大統領選挙で誰を支持するかの表明はしていないが、思わぬ援軍にトランプ氏の陣営は勢いづく。また、これに続き2000年代を代表するラッパーの50セントさんも、増税への動きに反発しトランプ氏への支持を臭わせていて、バイデン大統領をFワードで罵っている。
11月に行われる大統領選挙は、まだ予備選が行われている最中ではあるものの、現職のバイデン氏と、共和党の候補者レースで独走するトランプ氏の再戦となることが確実な状況だ。
有権者の「飽き」も指摘される中で、アメリカのスーパースター達が「誰に」「どのような形」で支持・不支持を表明していくのかも、大統領選挙を盛り上げるために一役買うかもしれない。
(FNNワシントン支局 中西孝介)