能登半島地震から間もなく1カ月。石川県の歴史ある温泉街も大きな打撃を受けている。不況の中、復活を目指す宿を取材した。

記者リポート:七尾市の和倉温泉街です。石川県屈指の観光地なのですが、街は閑散としています。営業再開のめどは全く立っていません。
能登の代表的な観光地、和倉温泉。能登半島地震で震度6強の揺れを観測。温泉街は壊滅的な被害を受け、全ての旅館が休業に追い込まれている。
美湾荘 若女将 多田直未さん:もう続けられるのかどうかすら分からないですね。自力でやれって言われてできるところ、一軒もないです。
■温泉が届かなくなった宿…そばまで流れが戻り「希望というかうれしい話」

被害を受けた温泉宿のひとつ、「おくだや」。
和倉温泉おくだや 奥田一博代表取締役:お風呂になります。この辺がかなり割れてまして、水道管も温泉管も建物自体のパイプが、恐らくひび割れ入ってると思うので。
配管が被害を受けて温泉が届かなくなり、建物もひびだらけになった。
和倉温泉おくだや 奥田一博代表取締役:建物自体も、一回しっかり建築士さんにみてもらわないといけないと思う。
地震からまもなく1カ月だが、営業再開のめどは立っていない。創業115年を超える「おくだや」は、コロナ禍に大規模な改修工事を行い、2022年7月にリニューアルオープンしたばかりだった。
和倉温泉おくだや 奥田一博代表取締役:『ここからだ』っていうときに、こういう状況になってつらいですね。1分間の地震で全部吹っ飛んでしまって、本当悔しいし、やるせないし、言葉にならない。

奥田さんが旅館の目の前の側溝を見せてくれた。
和倉温泉おくだや 奥田一博代表取締役:ここからずっと温泉流れてきてて。(側溝のふたを開けて見せて)ここまで温泉が来てるってことなんですよ。
実は、旅館に届いていなかった「和倉の湯」が、すぐそばまで流れてきていることが分かった。
和倉温泉おくだや 奥田一博代表取締役:もううれしいですよ、“温泉命”なので、ここまで温泉が来たということが、希望というか本当にうれしい話です。あとはどういうふうに温泉をお客様に提供できるかっていうところを前向きに進めていくしかない。
■石川県南部・山代温泉は被害がなかったがキャンセル相次ぐ

一方、加賀市にある温泉街、山代温泉。震源から100キロ以上離れていて、同じ石川県で被害はほとんど出ませんでした。
しかし1月26日に温泉街を取材すると…
菓子店:(Qお客さんどうです?)全然。1人もいない。だいぶ離れてるんやけども、同じ石川県やさかい、ここもだいぶ被害あったんでねぇかって。
観光客:(人が)多分すごく少ないのかな。海外の方は普通にみえているなと思います。
山代温泉は通常営業しているにも関わらず、客足はまばらだ。

2万坪という広大な敷地を持つ「みやびの宿 加賀百万石」では、1月のキャンセルが6割にものぼったという。そこで空いた客室を使って避難者を受け入れている。
みやびの宿 加賀百万石 吉田久彦社長:今、350名様います。被災者受け入れ施設の2次避難所としては、うちが一番多いですね。

水や電気などが通らない被災地と違い、ここでは温かい温泉に、暖房の効いた部屋も提供することができる。
輪島市からの避難者:(避難していた)10日間はお風呂も入れないし、暗闇の中で。別の意味でこういう素敵なところに来たかったなと思って。
輪島市からの避難者:天国やね。『天国と地獄』ってこのことかなって。安心できるわね、ここにおったら。
■「南側が頑張らないと、石川県の観光が死んでしまう」

環境も徐々に整い、いまでは簡易的な診療所や子どもの見守りサービスなども常設されるようになった。ただ、ここは温泉旅館。観光業としてのにぎわいを取り戻さなければならない。
みやびの宿 加賀百万石 吉田久彦社長:3月16日に新幹線の延伸開業というのがありますので、そこを1つのスイッチポイントにしたいなと思います。
北陸新幹線が、最寄りの駅まで延伸するにあたり、観光客受け入れの準備を進めているところだった。2次避難者の今後の受け入れ先も課題となっている。
みやびの宿 加賀百万石 吉田久彦社長:金沢より南側が観光を頑張らないと、石川県の観光が死んでしまうんですね。(被災された)皆さんが次のステップに進めるような準備を、旅館側としてもできないかというところを考えているところです。
現在は、地元企業とのマッチングを進め、住み込みなどで働きながら避難もできる環境作りを企画しているという。
みやびの宿 加賀百万石 吉田久彦社長:今被災されている方の安全と安心というのは第一なので、そこに観光客を呼びたいがために、皆さんを追い出すことは絶対にありませんし、生活基盤をこちらでも準備するっていうのが大事なんだと思っています。
先行きが見えず不安ばかりが募る日々だが、わずかな希望を手に少しでも前へと進もうとしている。
■「能登には来ないで。でも石川県には来て」と馳知事

石川県の馳浩知事はSNSで、「能登には来ないで。でも石川県には来て」と発信している。混乱されてしまった方はこちらの画像をご覧くださいと、ある地図も紹介している。

石川県に住んでいるアニメ作家が作った被災状況を分かりやすくまとめた地図。まず「石川県は南北に200キロあり。被害に差があります」と書かれている。
「情報は随時更新されていますが」、七尾市より北の赤い部分は「ライフラインが整っておらず、まだ観光はできません」ということ。
次に七尾市より南の黄色の地域は「一部を除いて復旧が進み、今は観光が可能」という。
そして金沢より南の緑の地域は日常生活を送れていて、「ぜひ観光に来てください」ということを表しているそうだ。
馳知事も、「石川県に観光に来ていただくことが、甚大な被害があった奥能登とは違う状況で頑張っている県民を支えることになります。ぜひご支援をお願いいたします」としている。
詳しい観光情報などは、各市町村のホームページをご確認を。復興の状況を見ながらになるが、ライフラインが復旧しているエリアに、皆さんが観光に訪れることが、身近にできる復興支援になりそうだ

政府も観光支援の方針で、「北陸応援割」が実施される。
関西テレビ 加藤報道デスク:3月からゴールデンウィークの前まで、1人あたり1泊50パーセント割引、最大2万円まで補助が出るということです。この制度は3月からですが、現在も営業されてるところはありますので、行ける方はできるだけ早く行っていただければと思います。またゴールデンウィークで終わりじゃなく、その後も息の長い支援をしてあげてほしいと思います。
取材に答えてくれた和倉温泉おくだやの代表は、「和倉温泉が立ち直るまでに、石川県全体の観光業がすたれてしまうんじゃないか」と心配されていて、「まず石川県の他の温泉に行ってください」とお話しされた。石川県を支援するという気持ちで、旅行を検討してみてはいかがだろうか。
(関西テレビ「newsランナー」 2024年1月29日放送)