自民党の最大派閥、安倍派が解散を決めた。「安倍(元)総理に申し訳ない」という幹部の言葉はいったい誰に向けられたものだったのか。
「申し訳ないというのは、安倍元総理に責任を押し付けて申し訳ないと聞こえた」(元安倍派幹部秘書)という冷ややかな評価も聞かれた。

日本の政治が右往左往する中で、台湾では新しい総統が決まった。中国は着実に、かつ貪欲に国益を追求している。日本から見えにくい中国の「したたかな動き」を追う。
野党への“統一戦線工作”
安倍派が解散を発表した1月19日、中国の最高幹部の1人が国会議員3人の野党の訪中団を北京の人民大会堂で出迎えた。

福島瑞穂党首率いる社民党と面会したのは中国共産党で序列4位の王滬寧(おう・こねい)氏。中国側が出迎えた理由は「統一戦線工作」(日中外交筋)とされる。つまり社民党の立場を尊重しつつ、理解者を味方に取り込むための方策とみられ、会談には担当の部長も出席していた

去年訪中した与党・公明党の山口代表と会談した蔡奇氏よりも王氏の序列はひとつ上だ。中国幹部の役割はそれぞれ違い、一概に比べられるものでもないが、「破格の厚遇」(日中外交筋)といわれる。
王氏は冒頭、「社民党をはじめ各政党、各界の方々とともに努力し、各分野の交流、協力を進め、違いを建設的に管理したい」と呼び掛けた。「中国の統一戦線工作は従来からそういうものだ」(同)とは言うが、相手がどんな立場であれ、幹部が丁寧に接するやり方は徹底している。
台湾の“孤立化工作”
台湾の総統選挙でも、結果が判明した週明け、太平洋のナウル共和国が台湾と断交し、1月24日に中国との国交を樹立した。

国土は品川区と同じ程度の島国と、この総統選挙に合わせて秘密裏に交渉していたことになる。かつて国交を結んだ後に断絶した経緯もあるだけに、準備は周到に進められたのだろう。これで台湾が外交関係を持つ国は12に減った。台湾を孤立に導くやり方は一歩ずつ、しかし確実に前進している。これも中国の「したたかさ」のひとつだろう。
混迷が続く自民党ではかつて、野党や無所属議員らの自民党入党に尽力し、衆議院での単独過半数を回復させた野中広務元幹事長代理(当時)が、議員を一本釣りするその手法から「釣り堀のおっさん」などと言われていたことを思い出す。

中国で進む“政治”
その進む方向とやり方はともかく、中国では外交も含めた「政治」が着実に行われている。ブラジル、ロシア、インド、南アフリカからなるBRICSや途上国を中心にしたグローバルサウスとも連携し、国際社会での味方を着実に増やしているのが実態だ。「アメリカとは別の国際秩序の構築」が中長期の目標だからだ。

「中国は中国なりの価値基準で動いているが、日本と違うからといって決して侮ってはいけない」(外交筋)と言われるように、日本からすれば関係の浅い国々でも、そのひとつひとつを取り込むやり方は効果を発揮していると言えるだろう。
日本は同盟国のアメリカや主要7カ国=G7との関係を重視するが「たった7カ国でしかない」(別の外交筋)という評価もある。経済規模や影響力の大きさはともかく、中国の働きかけを受けて、少なくない国が手を結んでいるのは事実である。
日本の“政治”への期待は…
福島氏は王氏と会談する前、中国共産党の対外窓口のトップ、劉建超対外連絡部長とも会談した。劉氏は台湾総統選の前に訪米し、投開票直前にブリンケン国務長官と会談した人物である。

劉氏は福島氏との会談前、現場で待つ取材陣と握手を交わし、しばし交流する機会を持った。石川県での地震に対するお見舞いから北京の冬の寒さまで、その穏やかな語り口と表情には深い人間味があった。
福島氏が到着するだいぶ前に現場に来て、寒空の下で待っていたのは「統一戦線工作」だけではない、中国人としての礼節の表れでもあったのだろう。国としての対応には受け入れられない部分が多いが、「個」には温かみもあることを実感した時でもあった。

前述した野中氏は「こわもて」で知られたが、中国でも多くの人脈を築き、両国の関係構築に貢献してきた政治家の一人である。日本の経済団体が訪中するなど、双方の動きが徐々に出始める中「中国と向き合う政治家は出てくるか」を考えるが、安倍派をはじめとする議員の言動を見ていると、なかなか期待は高まらない。
【執筆:FNN北京支局長 山崎文博】