緊急事態宣言の発令により、リモートワークを導入した企業は多かった。一方で、社会機能を維持するために最前線で働き続けた、医療従事者をはじめ、介護福祉士やスーパーの店員など、制限された生活のどこかで誰もがお世話になったはずだ。

そんなエッセンシャルワーカーと呼ばれる人々は、新型コロナウイルス感染をいかに防ぎながら、働き続けたのだろうか。また、その経験を踏まえ、働き方に変化は出てきているのだろうか。日々の生活に密接に関係する鉄道職員、保育士の取り組みを追った。

どこにいても安心できるよう「マスク」「消毒液」を配布

鉄道会社の東急電鉄。乗客の感染を防ぐため、全駅の窓口に消毒液、トイレにハンドソープを設置。保有する車両のウイルスコーティングも積極的に行い、現在は全車両約1200両のコーティングが完了している。

(画像提供/東急電鉄株式会社)
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「お客様のための感染防止策とともに、従業員に対しても細かな対策を行っていきました。4月以降、マスクの供給が少なくなっていった中で、企業としてマスクを確保し、駅や車両基地などで働く従業員に行き渡らせました。また、携帯用の消毒液も4500本ほど確保し、駅のホームや電車内でも定期的に手指の消毒が行えるよう、全員に配布したことで、現場からは『安心感につながった』との声が上がってきました」(東急電鉄CS・ES推進部労務課課長 勝間田裕さん)

本社が感染予防のための取り組みを実施しただけでなく、現場からもさまざまなアイデアが上がっていたとのこと。例えば、駅の職員が食事するスペースのイスを間引き、向かい合わせにならないように配置するなどの対策は、現場で自主的に進められていったそう。

「感染防止に加えて、自主的な取り組みの1つとして、沿線の医療従事者の皆様への応援メッセージの掲出も職員からの発案で行われました。これらの取り組みは、現場から現場へ自然と広まっていったのです」(勝間田さん)

本社から通達したわけではなく、現場間で伝わっていったのは、以前から社内での連携が取れていたからだという。

「感染防止対策のため、経営層と各部門の部長職以上が集まる対策会議を連日行っています。これがタテの連携。そして、以前から駅や車両基地などを3つの地域に分け、定例会議を行い、ヨコの連携も強化していました。タテとヨコの連携の相乗効果で、素早く機能的に対策が進んだのだと感じています」(勝間田さん)

定例会議によって、普段から地域内のコミュニケーションは活発だったという。平時からつながりを強化していたことが、緊急時に生きたのだ。

毎朝の体調確認で「保育士の悩み・不安」もすくい取る

関東を中心に、全国322カ所で保育・教育施設を運営しているポピンズでは、働く保育士に向けて、どのような取り組みを行ってきたのだろうか。

「保育士は緊急事態宣言下でも、主にエッセンシャルワーカーのお子様をお預かりするため、変わらずに出勤していました。不安を抱えている保育士もたくさんいたので、私達は本社社員も含め、全員の行動把握を行いました」(ポピンズ代表取締役社長 轟麻衣子さん)

ネット上の安否確認サービスを活用し、休日も含めて毎朝全員が、体温や体調、海外から帰国した家族・同居人の有無などを回答。万が一誰かが体調を崩した場合に、過去のデータをさかのぼれるようにしている。

毎朝の安否確認が、副産物も生み出しているという。回答ページに設けられているコメント欄には、保育士が抱える悩みや不安が書かれることがある。ポピンズでは保育士の生の声を把握し、ケアすることが非常に重要だと考えているそう。毎朝1人ひとりから直接届く声に、本社や園の責任者が個別に素早くケアできるようになったため、現場との結びつきがより強いものになったという。

「保育士のマスク着用や検温、手指消毒も徹底しています。現在使用しているマスクは、使わなくなった保育士の制服を再利用したもの。ある保育士の『マスクを制服化したら、個々に確保する必要もなくなっていいのでは?』という声から生まれたもので、制服と同じ色・柄なので、子ども達がマスク姿の保育士を怖がらないというメリットもありました。最前線で働いている方のアイデアには、宝物が詰まっているんですよね」(轟さん)

(画像提供/株式会社ポピンズホールディングス)
(画像提供/株式会社ポピンズホールディングス)

園内でも、できる限り“3密”を避ける必要があるため、保育士が子ども達と一緒に手作りのパーテーションを製作したそう。飛沫防止を図りながら、保育士ならではのアイデアで子どもが楽しめるパーテーションに仕上げたのだ。また、園の外からウイルスを持ち込まないため、入口にサーモカメラや非接触式の体温計を設置し、保護者にも検温の協力をお願いしている。

(画像提供/株式会社ポピンズホールディングス)
(画像提供/株式会社ポピンズホールディングス)

「保育士の中にはお子様がいらっしゃる方も多いので、緊急事態宣言が出る前に社内にも臨時託児施設を用意して、活用していただきました。保育士の皆さん、保護者の皆さん、本社が一体となれたことで、あらゆる面で素早く対応できたのだと感じています」(轟さん)

でき始めている「遠隔接客」「オンライン保育」の流れ

今後、鉄道職員や保育士の働き方は変わっていくのか。勝間田さん、轟さん、それぞれに話を聞くと、エッセンシャルワーカーの在り方に変化が出てきていることがわかった。

「主に駅の職員に関して、お客様と対面せずにサービスを提供する方法はあるか、検討する段階に来ています。技術の進歩に合わせ、遠隔での接客やウェブを介してのサービス、キャッシュレス決済の対応など、接客の在り方は変化していくだろうなと感じています」(勝間田さん)

また、東急電鉄では、生活に欠かせないインフラの1つとして企業を維持するため、“内製化”の動きも出てきているそう。

「財政面でも厳しい状況が続くことが予想されているので、外注を抑え、できることは内製化するという取り組みを進めています。YouTubeで配信した『新型コロナウイルス感染防止の取り組み』の動画は、自分達で撮影・編集を行いました。本社でも現場でも、この流れは進んでいくと思います」(勝間田さん)
 

ポピンズの轟さんによると、「保育士にも、リモートワークの可能性が見えてきている」とのこと。

「緊急事態宣言の間、自宅にいたお子様が『先生の声が聞きたい』と、保育士に電話をかけてきてくれたことがあったのです。そこから保護者の皆様と連携し、保育士と子ども達が遠隔で顔を合わせる『オンライン保育』を実現しました」(轟さん)

(画像提供/株式会社ポピンズホールディングス)
(画像提供/株式会社ポピンズホールディングス)

Zoomを通して絵本の読み聞かせやダンス、英会話の授業などを行う「オンライン保育」は好評で、4月から正式サービスとしてスタート。オフラインとオンラインを掛け合わせた“ハイブリッド型”へ進化している。保護者からは「保育園での様子が垣間見えて、毎日が保育参観みたい」、保育士からは「家庭訪問をしているようで安心感がある」と、評価されているそう。

「保育士にリモートワークは存在しないという固定観念がありましたが、オンラインであれば自宅からでも対応できることに気づきました。また、保護者会や個人面談も遠隔でできることがわかり、忙しい保護者の方にも参加していただきやすくなるのではないかと考えています。オンラインが秘めた可能性は、大きな収穫です」(轟さん)

さまざまな企業が変化を見せている今、エッセンシャルワーカーの働き方も変革期を迎えている。日常的に利用する駅や保育園のカタチも、変わっていくことだろう。

東急電鉄 
https://www.tokyu.co.jp/index.html

ポピンズ 
https://www.poppins.co.jp/

取材・文=有竹亮介(verb)

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。