北朝鮮の高級スキーリゾート「馬息嶺スキー場」を巡るロシアからのツアーが話題を呼んでいる。

ウラジオストクから飛行機で平壌に入り、軍事パレードなどを行う金日成広場や凱旋門などの名所を3泊4日で周る、日本円で約11万円の北朝鮮ツアー。

目玉となるのは平壌郊外にあるスキー場の5つ星ホテルだが、リゾートは“見せかけ”だと専門家は指摘する。

北朝鮮の実態について龍谷大学の李 相哲教授に聞いた。

両国の親密さをアピール

ーーロシアの旅行会社が北朝鮮ツアーを2月にやるとのことだが?

ロシア出身の女性が昨年11月から北朝鮮に住み着いて「アジア最大のスキー場」と言ってSNSで宣伝しています。

龍谷大学の李 相哲教授
龍谷大学の李 相哲教授
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ロシアは戦争中で、北朝鮮も大変な状況下で、観光で盛り上げるのは難しいですが、両国の親密ぶりをアピールする狙いが大きいと思われます。

金正恩氏がロシアを訪問した際、「これからさまざまな分野で協力関係を強化していきましょう」との合意を交わしたので、少しずつ現実化させている段階だと考えられます。

馬息嶺スキー場のHPより
馬息嶺スキー場のHPより

ーー制裁下で旅行の選択肢が減ったロシアと外貨を獲得したい北朝鮮の思惑が一致したとの見方は?

北朝鮮が観光客を誘致して外貨を稼ぎたいならば、中国が手っ取り早いです。

ですから、経済的な側面よりも政治的な側面の方が強いと私は思います。
協力関係を実践する姿勢を見せる狙いと、ロシアと北朝鮮の親密ぶりをアピールする点が大きいです。

北朝鮮ツアーを宣伝するロシア人ブロガー(YouTubeより)
北朝鮮ツアーを宣伝するロシア人ブロガー(YouTubeより)

ロシアのウクライナ侵攻を絶対的に支持している国は北朝鮮ぐらいです。

そのため、ロシアにとっては政治的に大きな意味があります。
また、北朝鮮にとっても、ウクライナ戦争で必要な砲弾など武器を供給して外貨を得ることができる相手なので、今のところはウィンウィンの関係で密着している状況です。

北朝鮮にとってロシアは大事な国で、そうした意味からもコロナ後の団体観光客の受け入れも、一番最初にロシアに開放したと思われます。

平壌でさえも1日数時間の電力供給

広大なゲレンデに多彩なコースがある馬息嶺スキー場には、リフトやゴンドラ4基が設置され、夜まで楽しめるようにナイターも完備されている。

しかし、李教授は北朝鮮の電力事情の厳しさを指摘する。

馬息嶺スキー場のHPより
馬息嶺スキー場のHPより

ーースキー場は豪華施設だが実際は?

北朝鮮は電力事情がとても悪いです。

例えば、北朝鮮の電車は電気で走りますが、昨年12月に突然電気が切れて、400人以上が亡くなる事故が起きています。
それほど劣悪な状況なので、リゾート地の電力も撮影中だけ立派に見せていると考える方が良いです。

ナイター設備も完備(馬息嶺スキー場のHPより)
ナイター設備も完備(馬息嶺スキー場のHPより)

ーースキー場やプールなどのインフラは実際は整っていない?

平壌でさえも1日数時間しか電気の供給はありません。

そうした中、外国人観光客が滞在中は何とか電気を流すと思いますが、宣伝されている映像のようにはならないと思います。

馬息嶺スキー場のHPより
馬息嶺スキー場のHPより

一見立派に見えますが、それは撮影用の演出で、それ以外の時はほぼ真っ暗と考えられます。

外貨目当てもインフラ不足

金正恩総書記が肝いりで作らせた自慢のスキーリゾートを巡るツアーは、すでに定員に達したため募集は終了。

しかし、インフラ整備の遅れなどにより、今後の北朝鮮の観光産業の見通しは厳しいと李教授は話す。

馬息嶺スキー場のHPより
馬息嶺スキー場のHPより

――今後の北朝鮮の観光産業はどうなっていく?

北朝鮮は外貨を稼ぐために観光産業を発展させようと努力をしていますが、インフラが整っていません。

一時期、韓国が手を貸して、金剛山観光を大々的にやって多くの韓国人が訪れました。

しかし今の北朝鮮は、道路や移送手段、ホテルや食べ物、サービス産業などのインフラが不足しているため、観光で外貨を多く得られる状況ではありません。

ーー見通しは厳しい?

あまり盛り上がらないと思います。

ロシアからの観光客がどれだけ訪れるかも疑問だし、中国に開放してもそんなにたくさんの人が遊びに行くことはないと思うので厳しい状況だと思います。