木材を成形して食器などをつくる工芸職人の師弟が、新たにインテリア商品を開発した。職人の世界は師匠と弟子の上下関係が厳しいイメージだが、この師弟は違う。師匠のある心遣いで“友達関係”になった。昔からのしきたりにとらわれない発想は、商品開発にも生きている。

「簡単にできそう」と職人めざしたが…

静岡挽物(ひきもの)
静岡挽物(ひきもの)
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温かみのある色合い、なめらかな表面は思わず触れてみたくなる。静岡県の伝統産業のひとつの静岡挽物(ひきもの)だ。挽物は木材をくりぬいたり成形したりしてつくる製品で、家具のつまみや脚、椀やスプーンなどの食卓用品、階段の手すりの丸棒などの建築用部材に使われている。
静岡県内では1864年ころから浸透し、“ものづくりの街 しずおか”の地場産業を支えてきた。

そんな静岡挽物の世界に16歳で飛び込んだのが牛丸雄高さん(27)だ。中学卒業後に職人の道に進み2024年で11年目だ。
最初は「簡単そうで自分にもできる」と思い この世界に飛び込んだが、当然そんなことはなく、挽物の奥深さにのめり込み努力の日々が続いている。

牛丸雄高さん:
覚えることがたくさんあって、11年やってようやくスタートラインに立った感じ

師匠の心遣いで友達関係に

師匠は弟子にカードゲーム指導を依頼
師匠は弟子にカードゲーム指導を依頼

牛丸さんの師匠は岸本真紀さん(56)。祖父の代から続く店「岸本挽物」の3代目店主だ。
親子ほど年が離れた牛丸さんを迎え、最初はコミュニケーションが取れず悩んだという。

牛丸さんは入ってきた時から何もしゃべらずもじもじしているだけで、何とかコミュニケーションをとろうと、師匠の岸本さんが弟子の牛丸さんにカードゲームを教わる代わりに、岸本さんが牛丸さんに仕事を教える間柄になったそうだ。

牛丸さんを指導する岸本さん
牛丸さんを指導する岸本さん

挽物業界では職人が自ら道具を作り直していく。木を成形するのに必要なノミは使い続けると刃が削れていくため、毎年 年末から新年にかけて手直しをする。岸本さんは道具の手入れの方法をていねいに牛丸さんに教えていく。

師弟で釣りをすることも
師弟で釣りをすることも

仕事の上では師匠と弟子だが、外に出ればよき友人でもある。休日には2人で釣りに出かける仲で、2023年11月には船舶免許を一緒にとりに行った。

岸本挽物・岸本真紀社長:
(牛丸さんは)僕の知らないうちに知らない道具を買ってね。だけど出不精だから釣りに行かない。そういう感じの楽しい関係性で、普通の職人さんの師弟関係と全く違うと思いますよ

自分たちで作る“色”を大切に

ノミをつかい丸みを整える
ノミをつかい丸みを整える

静岡挽物は最盛期には135軒ほどの業者があったが、2024年1月時点ではわずか5軒になってしまった。「『安く受注し早く納品』という需要に応えるがゆえに仕事の魅力が薄れ、後継者不足に拍車をかけた面もある」と、岸本さんは振り返る。

独自ブランドのニュートンズ
独自ブランドのニュートンズ

そんななか、岸本さんは量より質を重視し、2020年から独自ブランド「NEWTONS(ニュートンズ)」を立ち上げた。磁石入りの天然木を使ったオブジェで、立ったり、ぶら下がったり、支えあったり、揺れたり、異なる回転体が自由につながり、様々な造形を楽しむことができる。これまでの「安く、早く作る」から、「自分たちで作る“色”を大切に」した商品だ。

独自ブランドのニュートンズ
独自ブランドのニュートンズ

岸本挽物・岸本真紀社長:
(独自ブランドは)自由な発想で考えて自由に売り込みができることが最大のメリット。何より自分が楽しいのがいい。静岡の挽物はパーツに頼ったものが多かった。ここでガラッと変えることが一番大事で、これから僕らが生き残る最重要な課題だと思う

「夢は師匠を超えること」

ニュートンズで牛丸さんは静岡挽物を象徴する技術の「小物制作」を担当する。
商品は静岡市美術館をはじめ大阪府や香川県の美術館でも販売されていて、外国人にも人気があるそうだ。生活に必要な道具だった挽物が、日常を彩るインテリアに代わってきている。

独自ブランドのニュートンズ
独自ブランドのニュートンズ

岸本社長は「時代に左右されない商品づくりが僕の目標。何年経っても王道的な商品が、このニュートンズだと思う」と、新たな独自ブランドに自信を見せる。

2024年4月から、岸本さんの息子が高校を卒業し職人の道に進むことが決まった。牛丸さんは兄弟子として会社を支えながら、初めて指導する立場にたつ。

牛丸雄高さん:
いずれは師匠を超えたい

師匠・岸本さんと弟子・牛丸さん
師匠・岸本さんと弟子・牛丸さん

「夢は師匠を超えること」と話す弟子に、師匠は「ここからがスタート」と発破をかける。
静岡の伝統を次の世代につなげたい。
伝統を大事にしながらも未来に向けて、師弟の関係も、2人が生み出す作品も変わり始めている。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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