2023年はUFO(未確認飛行物体)を巡り、アメリカ国内で大きな動きが次々と起きた。2月に中国の偵察気球がアメリカ本土を横断して大騒動となると、上空で目撃される正体不明の物体をUFOと一笑してきた状況も一変。「安全保障上の脅威」として、その真相解明と、政府の情報公開を求める声が議会を中心に強まった。

アメリカ上空を中国の偵察気球が飛行し、大きな衝撃が走った(2023年2月)
アメリカ上空を中国の偵察気球が飛行し、大きな衝撃が走った(2023年2月)
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そして、4月に米政府は新たなUFOの可能性のある動画を公開、7月には議会下院の公聴会に「墜落したUFOを回収した」などと内部告発をした、3人の元米軍関係者が出席して証言。米主要メディアも大きく報じて注目を集めると、8月には国防総省がUFO情報を一元管理するAARO(全領域異常対策室)がウェブサイトを開設し、9月にNASA(米航空宇宙局)も責任者を任命し、本格的な調査の開始を表明した。

議会では政府にUFO情報の開示を義務づける法案も可決されるなど、2024年はさらなる動きが出てくることが予想されている。

「緑色の小さな人でも、中国の技術でも、知る権利がある」

年の瀬も迫る2023年11月30日、バーチェット下院議員ら5人の議員が怒り心頭で会見を開いた。

「緑色の小さな人であろうと、アメリカの技術であろうと、もっと悪いことに中国共産党の技術であろうと、我々は知る必要がある」

政府の情報公開を求めたバーチェット下院議員(2023年11月)
政府の情報公開を求めたバーチェット下院議員(2023年11月)

議員らは口々に、アメリカ政府によってUFOによる情報が隠ぺいされており、国民の知る権利として、機密指定されている情報の開示を強く求めた。また、同席したルナ議員は「このアクセスを拒否しようとする組織的な企てが明らかになり、それが情報機関からもたらされているようだ」と語り、CIA(中央情報局)や国防総省などの組織が、情報公開を阻んでいると厳しく非難した。

この会見を開いた議員は、7月に「UFOを見た」「墜落したUFOを回収した」などと、内部告発を行った元軍人らを招いた公聴会を主導した。改めて政府に注文を付けるとともに、議会に対しての不満も見せた。

ルナ議員は情報公開を諜報機関が阻んでいると批判
ルナ議員は情報公開を諜報機関が阻んでいると批判

その原因の1つが、上院を中心に超党派で出された、UFOに関する記録の一部を公開するよう政府に指示する法案だ。この法案は、2023年12月14に議会で可決されたが、内容は、国立公文書館にUFOに関する政府文書を収集し、機密記録を作成から25年以内に開示するよう指示するものだ。大きな動きではあるが、政府に記録が国家安全保障上の問題があれば機密扱いにする権限を与えていて、機密の解除を延期することもできる。

当初は、情報源が明らかになったり、アメリカの安全保障を損なったりしない限り、機密指定を全て解除する案も出るなど、強気な中身になっていたが修正された。バーチェット議員は「法案が完全に潰された」と激怒した。

ただ、この法案をめぐっては、バイデン政権を支える与党・民主党だけでなく、軍需産業との関係が深い野党・共和党の議員からも反発を招いた経緯もある。政府だけでなく、議会内での対立も浮き彫りとなった形だ。法案の内容は、アメリカの国防予算の大枠を定める国防権限法に盛りこまれ、2023年12月22日にバイデン大統領が署名して成立した。

アメリカ国内で相次ぐUFO目撃情報

一方で、アメリカ国内のUFO目撃情報などの調査を行っている全米UFO報告センターによると、2023年には4114件(2023年12月20日時点)のUFOに関連する報告がされた。1日10件以上にもなる計算だ。もちろん報告の内容は玉石混交ではあるものの、UFOの可能性があるとして抜粋されたものには興味深いものもある。

2023年10月にバージニア州で目撃されたオレンジ色の物体(提供:National UFO Reporting Center)
2023年10月にバージニア州で目撃されたオレンジ色の物体(提供:National UFO Reporting Center)

例えば、2023年10月19日には首都ワシントン近郊のバージニア州で、オレンジ色に光る物体が飛行している様子が映像とともに報告されているほか、11月11日にはユタ州の住宅のドアに設置された固定カメラが、3つの光る物体が移動した後に、消える様子が捉えられている。

また、米空軍に所属していた退役軍人とされる人物が2023年12月4日にオハイオ州で目撃した事例には、「半透明で白色、発光する球状の雲が私の家の真上を旋回した後、完全に消えた」とされ、「幻覚や目の錯覚の可能性を排除するため、私はその物体を観察しながら、視界の中を手で通過させたが、何の変化もなかった」としている。

ユタ州では固定カメラが3つの光る物体(右上)を捉えた(提供:National UFO Reporting Center)
ユタ州では固定カメラが3つの光る物体(右上)を捉えた(提供:National UFO Reporting Center)

技術の進化とともに、過去に報告された映像や画像も、真相解明がなされるものもあれば、新たにUFOの可能性があるものが浮上する場合もあるようで、全米UFO報告センターは相次ぐUFOの報告について調査を進めている。

引用:( https://nuforc.org

SNS上で拡散される米政府の“極秘文書”!?

2023年に最も注目を浴びた、UFO関連の発言の1つに、7月の議会の公聴会に出席した元米空軍で情報機関にも所属したグラッシュ氏が、「UFOの残骸と“人間ではないもの”を回収した」と証言したことだ。

グラッシュ氏は「墜落したUFO」と「人以外の生物」を政府が回収したと明言。
グラッシュ氏は「墜落したUFO」と「人以外の生物」を政府が回収したと明言。

彼は公聴会で証言後には、機密情報の漏洩で訴追されることを恐れ、議会に確たる証拠を提供できなかったと述べている。この点の進展も今後期待されるところではあるが、思わぬところで注目を集めているものがある。

それは、2023年12月上旬にSNS上に投稿された“最高機密”とされる文書だ。真偽は全く不明だが、アメリカ政府と宇宙人の接触を記したものだと話題を集めている。

SNSに投稿された米政府と宇宙人が接触したとする謎の文書
SNSに投稿された米政府と宇宙人が接触したとする謎の文書

「TOP SECRET(最高機密)」と書かれた部分に黒い線が引かれた正体不明のこの文書は、ロナルド・レーガン大統領図書館に保存されている資料とされているものだ。1947年7月にニューメキシコ州ロズウェル付近で墜落したUFOが米軍によって回収されたとして有名になった、「ロズウェル事件」は日本でも知名度が高いが、この文書にはロズウェル事件を契機に「科学的研究のためにこの物体の残骸を確実に回収するための秘密作戦が開始された」と記されている。

そして1964年4月25日に、アメリカ空軍の情報将校が、ニューメキシコ州の砂漠にある事前に手配された場所で、2人のエイリアンと3時間にわたって接触、「空軍将校は2人の宇宙人と基本的な情報を交換することができた。」としているのだ。SNS上では、その真偽を巡って激しい議論も巻き起こっている。

2024年はUFOの真相解明に重要な年

2022年5月に約50年ぶりに、アメリカ議会でUFO公聴会が開催されて以降、2023年は中国の偵察気球をめぐる安全保障上の脅威も合わさり、UFOに関して政府・議会が大きく動いた1年だった。完全ではないにしろ、UFOに関する記録を公開することを政府に指示する法案が議会で可決され、今後の情報公開にも注目が集まっている。さらに公聴会を主催した議員たちのように、議会で新たな証言を再び行うことや、映像の公開、政府への情報公開の要請に繋がる動きも強まると見られる。

UFO公聴会の会場には大勢の傍聴者が駆けつけ全米の注目が集まった
UFO公聴会の会場には大勢の傍聴者が駆けつけ全米の注目が集まった

また、国防総省のAARO(全領域異常対策室)はウェブサイトで、1945年にまでさかのぼり、UFOに関連する政府の活動について直接知っている現職、または元政府職員、関係者からの報告を受け付け始めた。今後、一般の国民を対象にした報告を受け付けることも予定されていて、膨大なデータの収集が予想される。

こうしたデータがどのような形で公表されるかにもよるが、民間の研究者も交えた形で真相解明に繋がる一歩になる可能性がある。特に2023年は、UFOがオカルト的なものから、国家安全保障に関わる問題という点で議会を中心に議論がなされるようになった。

AARO(全領域異常対策室)はウェブサイトで関係者から情報提供を受け付けている
AARO(全領域異常対策室)はウェブサイトで関係者から情報提供を受け付けている

議会の公聴会でも証言した元軍人からは、「UFOを見た」と報告すれば、おかしな人間だと思われてキャリアに傷が付くことを恐れ、皆が二の足を踏んでいる点も強調されていた。この点を、「安全保障上の脅威」として、空に正体不明の物体が飛んでいることを本格的に調査する流れができたことは非常に重要だ。

UFOは宇宙人による乗り物なのか、他国やアメリカ政府の新たな技術なのか、そもそも見間違えなのか――2024年にはさらなる加速した議論と、新たな情報公開に期待が持てそうだ。
(FNNワシントン支局 中西孝介)

中西孝介
中西孝介

FNNワシントン特派員
1984年静岡県生まれ。2010年から政治部で首相官邸、自民党、公明党などを担当。
清和政策研究会(安倍派)の担当を長く務め、FNN選挙本部事務局も担当。2016年~19年に与党担当キャップ。
政治取材は10年以上。東日本大震災の現地取材も行う。
2019年から「Live News days」「イット!」プログラムディレクター。「Live選挙サンデー2022」のプログラムディレクター。
2021年から現職。2024年米国大統領選挙、日米外交、米中対立、移民・治安問題を取材。安全保障問題として未確認飛行物体(UFO)に関連した取材も行っている。