秋の臨時国会が終わり、年の瀬を迎えると、例年は落ち着きを見せるはずの永田町だが、自民党派閥の政治資金をめぐる問題で、東京地検特捜部が派閥事務所に強制捜査に入るなど、あるベテラン議員の言葉をかりれば、「歴史的な年末年始」を迎えている。

自民党政治の根幹を揺るがすスキャンダルに、世論調査での自民党支持率は急落している。国民が政権与党に愛想を尽かしていくこの状況で、本来なら自民党に代わる選択肢を野党に求めるのがセオリーのはずだが、世論調査での野党支持率が物語るとおり、多極分散化がさらに進んだ野党はその受け皿となれているとは言い難い。

ピンチに陥っている自民党を横目に、「左うちわ」の野党はひとつもなく、2024年を展望すると、十人十色の課題に直面している状況が浮かび上がってくる。

立憲民主党・泉代表は、リーダーシップを発揮できるか?

立憲民主党・泉健太代表
立憲民主党・泉健太代表
この記事の画像(6枚)

立憲民主党にとって、2023年は維新、国民民主、共産の各党、さらには連合との距離がめまぐるしく変わる年だったが、一年を通して野党第一党としてのリーダーシップを発揮できたとは言い難い。

自民党の不祥事により4月に行われた衆院千葉5区の補選では、野党間での候補者調整に失敗し、結果的に自民党候補者に議席を譲った。さらに通常国会での内閣不信任案は単独で提出し、維新や国民民主から「年中行事のような不信任になんの意味があるのか?」と突き放され、泉立憲の孤立が際立った。

自民党が派閥の問題で苦境に立つ今、立憲にとっては本来なら政権交代への格好のチャンスのはずだ。しかし次期衆院選に向けた実情はというと、岸田政権に取って代わる以前に、泉代表が自ら設定した続投の高すぎるハードル「150議席(12月現在95議席)」にどこまで近づけるか、そして台頭する維新を抑え野党第一党の座を守れるかどうかの方が野党担当記者の興味をひいているのが現実だ。

同時に、泉氏の党内求心力の低下が報じられるたびに、枝野前代表、野田元首相、重徳議員、蓮舫議員などの名前が次期代表の候補として取り沙汰されてきたのも、泉氏の苦境を表す意味で見過ごせない。

もっとも23年は補選で負けようが、政党支持率で維新に抜かれようが、立憲民主党内で具体的な「泉おろし」の動きは起きなかった。ポスト泉を狙う議員も、今は機をうかがって自重している状態だ。

しかし、立憲民主党も9月には泉代表の任期が切れ、その前には代表選が行われる。その9月には、自民党も岸田総裁の任期が切れ総裁選挙が行われる。岸田首相がそこまで政権を維持できているかは不透明だが、自民党が不人気の岸田首相に代わる新たな選挙の顔を総裁に担ぐ可能性は立憲内でも想定されている。その際に、泉氏で総選挙を戦えるのか、立憲民主党も新体制に一新すべきではないかとの議論が噴出することは間違いないだろう。

23年はディフェンシブな印象だった泉氏にとっては、立憲の顔として「政権交代」という言葉にどこまで重みを持たせられるか、さらに維新をはじめとする野党各党との関係をうまくコントロールしてオフェンスに回れるか、試練の2024年となる。

万博でケチがついた維新に勝機は?

大阪維新の会・馬場伸幸代表
大阪維新の会・馬場伸幸代表

2023年初頭、維新は、立憲と国会内での政策連携を進めてきたが、4月の統一地方選挙で勢いづいたタイミングで、連携を破棄。立憲の低迷を横目に、年内にあると言われていた解散総選挙が実際に行われていれば、野党第一党にのし上がるシナリオが見えてきていた。さらに通常国会が終わっても、馬場代表による立憲への攻撃的な言動が目立つなど、党勢は上げ潮ムードだった。

しかし、馬場代表の「第2自民党でいい」との発言が物議を醸すなどした所に、秋口になって万博の費用問題が仇となって急失速した。立憲民主党からも攻撃を受け、世論調査の政党支持率で水をあけてきたはずの立憲に肉薄され、一部では後塵を拝する調査結果も出てきている。

元々、維新の戦略は、一気に政権交代を目指すのではなく、まず次期衆院選で立憲を倒して野党第1党にのし上がり、その後自民党と保守2大政党の形で改革競争をして政権を取るというものだ。

しかし今、そのシナリオに暗雲が立ちこめている。万博を巡る向かい風は、いまのところ自民党の派閥をめぐるスキャンダルで弱まっているように見えるが、いずれ再び強まることは必至だ。維新にとって2024年は、他党との対峙と同じくらい、国民の万博に対する反発とどう向き合い対処できるかが課題となる。馬場代表はじめ執行部は難しい立ち回りが求められそうだ。

前原氏ら離党ショックの国民民主はトリガーに全体重をかけて…

国民民主党・玉木雄一郎代表
国民民主党・玉木雄一郎代表

国民民主党の玉木代表は踏んだり蹴ったりの秋冬を過ごした。玉木氏は9月に、前原代表代行と代表選挙を戦い、自民党との距離をめぐる論争の末、大差で勝利した。前原氏は敗戦後「ノーサイド」と強調していたが、11月には3人の党所属国会議員を引きつれて、党を出て行った。これにより国民民主党の所属国会議員は21名から17名に減った。

前原氏らが立ち上げた新党「教育無償化を実現する会」は、政党交付金を狙うった年末恒例の政党離合集散という点で既視感が強く、維新への合流含みとの見方もあり、有権者の支持が拡がるかは不透明だ。選挙の際、国民民主党の候補者を支援してきた連合も、離党を受けて、前原氏らの推薦を凍結している。

一方の玉木氏は、代表選で勝利したにもかかわらず離党をつきつけられ、同情を集めてもおかしくない状況だったが、さらなるショッキングな事案が襲う。12月、国民民主党が強く求めてきたガソリン税のトリガー条項を巡る自民・公明との協議が暗礁にのり上げたのだ。

玉木氏が岸田総理に直接働きかけ、自公国3党の協議が進んでいたはずだが、安倍派のパーティー問題をめぐり、協議の自民党の責任者である萩生田政調会長が辞任した上、内閣不信任案に賛成したことを理由に、与党税制大綱の原案にあった「トリガー条項の検討」は削除された。いきなりはしごを外された形の国民民主だが、文句を言いたくても一体だれと向き合えば良いかわからない状況に陥っている。

引くに引けなくなったトリガーに悩まされる玉木氏は、なおも「政治は常にいろんな事が起こりうる」と前向きだが、来春にトリガー条項凍結解除が実現しなかった場合、党内から責任を問う声があがってもおかしくない。トリガーに全体重をかけた国民民主党の賭けだが、逆転勝利のシナリオは描けておらず、ここで成果が得られない場合、24年は党存亡の危機に直面する可能性も否定できない。

立憲と握手で、“してやったり”の共産党志位委員長、ついに交代論も?

共産党・志位和夫委員長
共産党・志位和夫委員長

24年間続く長すぎる志位委員長体制、党員の高齢化、さらに幹部を批判した党員の除名騒ぎと、ネガティブな報道が少なくない老舗政党、共産党だが、志位委員長は10月、ひとつの勝負に出た。

立憲民主党曰く、秋の補選後の挨拶回りだったという泉氏との会談で志位氏は、報道陣の前で握手を交わし1枚の写真に収まった。そして直後の会見で、次期衆院選での連携について「立憲民主党と合意した」と言ってのけたのだ。

立憲民主党にとって共産党との選挙連携は一定のメリットがある一方、国民民主党や連合から厳しい批判を受けるだけに、明言を避け距離を保つよう気を遣っていた。それを分かっていてあえて踏み込んだ志位氏としては、久しぶりに存在感を発揮できた“合意の握手”だった。

そんな志位委員長だが、4年ぶりに開かれる2024年1月15日からの第29回党大会は「ジャッジメントデー=審判の日」となるかもしれない。関係者は「少なくとも今までで交代の可能性・機運が一番高まっている」と述べ、党大会最終日の18日に新委員長を決める投票が行われ、約四半世紀続いた志位委員長体制についにピリオドが打たれる可能性に言及した。

トップが交代となると不破哲三氏から志位和夫氏に交代した2000年以来24年ぶりで、まさに歴史的な党大会になる可能性がある。仮に交代する場合の後任の委員長候補には刷新感を狙い、田村智子参院議員が初の女性委員長に就任する説が党内で囁かれている他、現在ナンバーツーである小池晃書記局長も候補の1人として名前があがっている。現時点で志位委員長が辞意を示しているわけではないが、大会の会場となる伊豆・熱海の講堂は、独特な緊張感に支配されそうだ。

野党の国政政党は8から最大10に?

国政における野党の数は、立憲、維新、国民、共産以外に、れいわ新選組、社民党、参政党、みんなでつくる党(旧NHK党)の8つに加え、前原氏の「教育無償化を実現する会」が誕生し9つとなった。

さらに、百田尚樹氏が率いる「日本保守党」も次期選挙で議席を獲得する可能性がとりざたされていて、その場合、野党の数は10に増える。有権者にとって選択肢が増えていると言えば聞こえはいいが、個性が強いワンイシュー政党が増えると、野党分断を助長し、結果的に自民を利することになるとの見方は多い。

政権交代の可能性を高める第一歩は党首会談か

このように野党は多極分散の時代で、「非自民」の政権の受け皿になるという視点でリードをしている政党は見受けられない。自民党が国民からの厳しい批判にさらされる中、政権交代にフォーカスすると、立憲・維新を始め、野党が一丸となって、有権者に対して訴求力を得られるかがポイントだ。

ある野党幹部は、「その第一歩として、党首会談の可能性は年明け早々にもありえる、政治が動き出す」と期待を口にしている。国会で取材をしていると幹事長や国会対策委員長が同じ画に並ぶことは少なくないが、党首である、泉、馬場、玉木、志位、山本太郎ら各氏が並んだときの画的なインパクトは強烈なはずだ。

もっとも、野党の連携は常に“政策の違いを無視した野合”との批判がつきまとうし、それは国民の嫌うところでもある。特に共産党も含んだ連携は極めて難しい現実があるし、維新・国民民主には立憲のペースに乗り埋没することへの警戒感も極めて強い。

永田町の人間は「政治の世界は、明日何が起こるかわからない」とよく口にする。歴史を振り返れば、政権交代の実現には、バラバラな野党が結集して与党に対抗するのが効果的であることは明白だ。野党をまとめ政権奪取をリードする旗振り役、坂本龍馬的ニューヒーローを国民は待っているのかもしれない。
(フジテレビ政治部 野党担当キャップ 阿部博行) 

阿部博行
阿部博行

現場の体温が伝わる取材・リポートがモットー。
フジテレビ報道局政治部野党担当。
2008年フジテレビ入社。ドラマ制作などを経て2022年から現職。