なぜ安倍派幹部は記載しなかったのか

自民党派閥の政治資金パーティーをめぐる事件のニュースを見ていて不可解なのは、資金力のある安倍派幹部の政治家たちが、年間数百万円あるいは数十万円の、彼らにとっては「少額の」収入を、なぜ政治資金報告書に記載していなかったのかという事だ。

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素人感覚だと「政治資金はすべて使途を明らかに」ということになるのだが、実は国会議員には使途を明らかにしなくていいお金がたくさんある。だから議員の意識は“素人”とは少し違うということなのだろうか。

その一つが、政党が議員に払う「政策活動費」や「組織活動費」で、政策立案や党勢拡大などに使われる。政党が議員にいくら払ったかは報告書に記載するが、もらった議員の方は使途を明らかにしなくていい。いわゆる「領収書のいらない金」だ。我々サラリーマンにとってはうらやましい話である。

「政策活動費」や「組織活動費」は議員にとって“領収書のいらない金”(画像はイメージ)
「政策活動費」や「組織活動費」は議員にとって“領収書のいらない金”(画像はイメージ)

パー券の売り上げは企業や個人が払ったお金であって税金ではないが、使途は明らかにしなければならない。これに対して政策活動費などは党のお金だから原資の中に税金である政党交付金が入っているのに、使途を明らかにしなくていいというのはおかしいという指摘がある。

領収書のいらない金ってうらやましい

これに対する政党側の反論は、収入は税金である政党交付金のほかに、政治資金として献金や党費があり、政策活動費などは政党交付金からは支出していないことを使途等報告書に記載している、というものだ。

だがこの答えにはやや無理があると思う。政党の総収入が100円で、そのうち50円が政党交付金、50円が党費だとする。その政党が議員に30円の政策活動費を渡したら、その半分は税金と考えるのが普通ではないか。

ちなみにこの政策活動費は自民党だけでなく野党の多くの党が配っている。

もう一つの「領収書のいらない金」が、昔は「文書通信交通滞在費」と呼ばれていた月額100万円。これは全議員がもらえるのだが、2年前に10月31日に当選した新人議員が在職1日で10月分の100万円全額をもらったことが問題になった。

“文通費”は日割り支給になり、名称も変わったが…(4月14日 衆院本会議で可決)
“文通費”は日割り支給になり、名称も変わったが…(4月14日 衆院本会議で可決)

その結果、100万円は日割りになり、なぜか名前が「調査研究広報滞在費」と変わったのだが、領収書はいらないままだ。

政党交付金を出してる意味がない

今回の事件でもう一つ不可解なのは、30年前に導入された政党交付金は政治と企業や団体が癒着しないように企業団体献金を制限する代償として作られた制度で、年間約300億円が税金から支出されている。

企業団体献金の代わりに税金をもらうことになったのに、なぜか政党は献金の代わりにパー券を企業や団体に売っている。だったら政党交付金はいらないのではないか。

政党は献金の代わりにパー券を企業や団体に…
政党は献金の代わりにパー券を企業や団体に…

政治にはお金がかかるし、領収書がいらない金も必要というのはわかる。だが現状を国民にわかってくれ、というのはなかなか難しいだろう。

政党交付金を増やして企業団体にパー券を売らないようにするというのは一つの方法かと思うが、個人的にはこれ以上嫌いな政治家や政党に自分の税金が使われるのはイヤだ。むしろ政党交付金を廃止して、個人献金の税額控除に切り替えた方がいいと思う。だがそれは実現不可能だろう。

だったら政治資金の規制はさらに厳しくするしかないと思う。岸田文雄首相は政権維持をしながら抜本的な改革をするのは難しいと思う。ポスト岸田争いはそこの打ち出しをきちんとできた人が抜け出すのではないか。
【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。