日本の食卓に欠かせない調味料「醤油」。その製造技術を学び、母国インドで醤油を広めるために、来日したインド人女性がいる。

「Live News days」では、2023年9月に、この女性を取材し、日本の醤油メーカーで独自の製造方法について学ぶ姿を放送した。

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その後、番組が独自に取材を重ねると、メーカー側もインドを訪れ、今後、現地に醤油工場を建てて技術を広げるために、実地調査をしていたことが判明。

なぜ、この会社は、インドで醤油造りの技術を広げようとしているのだろうか?取材した。

醤油メーカーに来たインド人

日本の食卓にかかせない「醤油」造りの伝統技術を学び、自国で広めようとする女性がいる。

アバンティカさん 醤油作りを体験
アバンティカさん 醤油作りを体験

女性の名前はアバンティカさん(31)。大豆や小麦を使った日本独自の醤油製造の方法を学ぶために来日し、醤油メーカー「ちば醤油」で6日間の研修を行った。

醤油作り体験をした後に…
醤油作り体験をした後に…

実際に大豆を蒸す作業や小麦を煎る作業など、醤油造りの工程の一部を体験したアバンティカさんは、「とても楽しくて、良い経験になった。おもしろかった!」と笑顔で話した。

現在インドの都心では和食人気が高く、醤油のニーズも伸びていくと考えられている。

アバンティカさんが経営ずる日本食レストラン「KAMPAI」
アバンティカさんが経営ずる日本食レストラン「KAMPAI」

アバンティカさんも和食好きの1人で、ニューデリーで「KAMPAI」という日本食レストランを経営していて、彼女の夢は自分で醤油を造り、お店で使用すること。「数年後には、このような工場をニューデリーでも作りたい」と話した。

インドに渡った醤油メーカー

アバンティカさんが醤油造りを学びに来日してから、約2か月経った2023年11月。「ちば醤油」の社長と2人の社員が、調査のためインドに赴いた。

インドでの醤油作りの様子
インドでの醤油作りの様子

大豆と小麦を使用した醤油造りが現地で出来るのかという実験を行う為、11月だけでなく、翌月の12月や年明けの1月と、3カ月連続で調査に赴く予定だという。

なぜ、3回にもわたって、現地を調査するのか…。11月の研修では、アバンティカさんが経営するニューデリーの工場で、シェフやお店のマネジャーや仕入れを担当する人など約5人が参加し、大豆を蒸す作業や小麦を煎る作業から、醤油もろみを造る作業までを体験した。

その際、ちば醤油・飯田恭介社長は、体験したインド人について「覚えが早いし、熱心に取り組んでくれる」と話した。

会議をする「ちば醤油」飯田恭介社長 
会議をする「ちば醤油」飯田恭介社長 

今回の調査では、インド産の大豆や小麦、機械も全て現地のものを使用することがポイントの1つだが、飯田社長は「インドは日本よりも暖かいので、もろみがどれくらいで発酵するのか、様子を見ていきたい」と話している。

醤油は、蒸した大豆と煎った小麦に麹菌を加えて作った醤油麹に、食塩水を混ぜた醤油もろみを約10か月発酵させて作るが、その発酵の管理が難しいと言われている。12月と1月の調査では、11月に造って寝かせたもろみの発酵の管理の様子を確認する予定だ。

アバンティカさんの今後の目標は、インドに本格的な醤油工場を建て、年間約100~300トンの醤油を作ること。

「KAMPAI」で提供している唐揚げなど
「KAMPAI」で提供している唐揚げなど

醤油が完成予定の2024年8月に、現在アバンティカさんが使用している、日本から輸入した醤油と味の違いが無いかなど比較を行い、「KAMPAI」で提供している唐揚げやお寿司に使用することを目指している。またその他にも、ホテルや和食レストランで提供することも目指している。

飯田社長は「醤油の技術を伝えるだけではなく、今後は醤油工場を建てる場所などの調査を通して、アバンティカさんの夢を後押ししたい」と話している。

インド農家の現状

また「ちば醤油」はこの活動を通し、SDGsの目標としても掲げられている「貧困をなくそう」「働きがいも経済成長も」の達成を目指しているという。

インド農家(提供:JICA・提供:alarグループ)
インド農家(提供:JICA・提供:alarグループ)

「ちば醤油」は、醤油造りの技術をインドに広め、発酵技術という新しい産業を生み出すことで、インドの農業に雇用を創出することを考えている。

「ちば醤油」飯田恭介社長 
「ちば醤油」飯田恭介社長 

「ちば醤油」の飯田恭介社長は、「大豆・小麦も使うし、雇用も生まれて、インド社会にとっては良い結果になるだろうと確信してやっています」と話した。

「ちば醤油」では、2030年までにインドに複数の工場を建て、将来はインドで生産した醤油をほかの国に輸出することも目指すとしている。
【取材・執筆:原崎はるか】