いま、全国にある廃校は7400校。少子化の影響で毎年300~400校が廃校となっている。文科省では「みんなの廃校プロジェクト」として廃校の活用を推進しているが、いまも1400校以上の用途が決まらず、自治体も頭を抱えている。そうした中、廃校をスタートアップの拠点として蘇らせた福岡市と、廃校活用を推進する文科省の取り組みを取材した。

廃校がスタートアップ支援の拠点に

福岡市天神。近代的な商業施設に囲まれた小学校の校舎があり、道行く人も思わず足を止める。

ここはスタートアップの支援施設「Fukuoka Growth Next(以下FGN)」。かつて福岡市内で最も古い小学校の1つであった大名小学校の校舎を利活用したものだ。

この小学校は郊外への人口流出や少子化による児童数減少から2014年に閉校された。しかしいま校舎をほぼそのまま残す形で、福岡市と地元企業らの官民連携によるスタートアップ支援の拠点として蘇っている。

福岡市中心部にある廃校をスタートアップ支援の拠点に
福岡市中心部にある廃校をスタートアップ支援の拠点に
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FGNの運営委員会の事務局長を務める池田貴信さんはこう語る。

「基本的に場所を貸すだけではなく、スタートアップに必要な法務や財務面でのサポート、企業とのマッチングも行っています。また、インキュベーションプログラムなどを毎週のようにやっています。いま34社のスポンサー企業と約160社のスタートアップなどが在籍しています。但しスペースに限りがあるので、すべての入居希望者を受け入れることが出来ないんです」

FGNには出会いのチャンスがある

スタートアップにしてみれば、天神の中心部にあるFGNは立地的に抜群。しかもコワーキングスペースは月1万5千円で利用でき、個別の部屋も5万円程度とコストを抑えている。周辺の施設を借りたら、この3倍になってしまうという。(金額、数字は2023年度実績)

教室はコワーキングスペースとして蘇った
教室はコワーキングスペースとして蘇った

この施設に2019年から在籍しているKids Code Club(キッズコードクラブ)代表理事の石川麻衣子さん。

キッズコードクラブでは主にオンラインで子ども向けのプログラミングレッスンなどを行っているが、石川さんは「FGNにいるとネットワーキングや様々な出会いのチャンスがある」と語る。

「横のつながりはもちろん、東京からも普段会えないようなスタートアップ界隈の人たちがここにきてメンタリングしてくれるんですよね。そういう機会が沢山あって、本当に感謝しています」(石川さん)

キッズコードクラブ代表の石川さん「FGNには様々な出会いがある」
キッズコードクラブ代表の石川さん「FGNには様々な出会いがある」

卒業生の思い出を無くすわけにはいかない

そもそも一等地であれば校舎を商業ビルに建て替えたほうが、市の財政に貢献したのではないか。

福岡市の担当者に聞くと「この小学校には多くの卒業生がいて、思い出を無くすわけにはいかない。校舎の利活用については多くの方々から意見をいただき、現在のかたちになったと聞いています」という。

「卒業生の思い出を無くすわけにはいかない」
「卒業生の思い出を無くすわけにはいかない」

文科省によると、近年では全国で毎年300~400校の廃校が発生している。

「いま現存している廃校の数は7398校で、うち活用されているのが5481校(2021年5月現在)ですから、約4分の1は活用の用途が決まっていなかったり取り壊し等を予定したりしていて、活用されていません」(担当者)

交流拠点からロケ地やIT講座まで

こうした廃校の活用推進のため、文部科学省が現在行っているのが「みんなの廃校プロジェクト」だ。

文科省では活用事例の紹介や、「廃校を使ってほしい」自治体と「廃校を使いたい」事業者への情報発信とマッチングを行っている。

これまでも廃校施設の活用事例として、交流拠点にしたり、映画のロケ地や地元農産物の加工工場、グランピング施設やドローンの練習場として活用する事例もある。また、最近では中古のパソコンを組み立てて地域の方々にIT講座を行っている事例もある。

廃校は自治体の貴重な財産

ただ、「廃校活用を課題としているのは地方が多い」と担当者はいう。

「都市部においても廃校は発生しますが、ただ都市部だと立地がよいので起業家支援など、次の活用用途が決まりやすいです。一方地方では、地域等からの要望がない、立地条件が悪い等の理由により、なかなか次の活用用途が決まらないケースもあるようです」

都市部は活用が決まりやすいが地方が課題
都市部は活用が決まりやすいが地方が課題

公立学校は国の補助金を入れて建てられるが、所有権は自治体がもつ。文科省では今後も、「廃校施設は自治体にとって貴重な財産であることから、地域の実情やニーズを踏まえながら有効活用していくことが求められており、『みんなの廃校プロジェクト』を通じて廃校施設の活用を推進していく」という。

鈴木款
鈴木款

政治経済を中心に教育問題などを担当。「現場第一」を信条に、取材に赴き、地上波で伝えきれない解説報道を目指します。著書「日本のパラリンピックを創った男 中村裕」「小泉進次郎 日本の未来をつくる言葉」、「日経電子版の読みかた」、編著「2020教育改革のキモ」。趣味はマラソン、ウインドサーフィン。2017年サハラ砂漠マラソン(全長250キロ)走破。2020年早稲田大学院スポーツ科学研究科卒業。
フジテレビ報道局解説委員。1961年北海道生まれ、早稲田大学卒業後、農林中央金庫に入庫しニューヨーク支店などを経て1992年フジテレビ入社。営業局、政治部、ニューヨーク支局長、経済部長を経て現職。iU情報経営イノベーション専門職大学客員教授。映画倫理機構(映倫)年少者映画審議会委員。はこだて観光大使。映画配給会社アドバイザー。