熊本地震からの復旧工事が続く熊本城では、築造当時の姿をとどめ「第3の天守」とも言われる宇土櫓（うとやぐら）修復のための解体まであとわずかとなり、その姿は今後10年ほど見ることができなくなる。
建物内部の公開などで見えてきた、約100年前の昭和2年の修復工事に迫る。
熊本地震から7年半 宇土櫓内部を初取材
熊本地震から7年半が経過した2023年10月、報道陣のカメラが地震後、初めて宇土櫓の中に入った。「解体前の宇土櫓内部を撮影させてほしい」という報道側からの要望に、城を管理する熊本市が応えた格好だ。
2016年の熊本地震で不開門や東十八間櫓など、多くの重要文化財が倒壊した中、隣接する続櫓が倒壊したものの宇土櫓は原型をとどめているように見える。
しかし、ひとたび中に入ると床に置かれたビー玉が勢いよく転がり、柱が傾くなど建物の損傷は激しく、復旧のためには部分的な改修ではすまないことがうかがえる。
そして、この日の内部公開でもう一つ、目についたものがあった。
熊本城総合事務所・田代純一さん：
鉄骨のバッテン「ブレース」がたくさん見えているかと思います。これは昭和2年に全解体修理をした際に入れられていたものになります。そういった補強がされていたから倒壊しなかったと言えるのかもしれません
初公開か 約100年間の修復工事された内部
さらにこの日、「テレビカメラが入るのは初めてかもしれない」という場所に案内された。
熊本城総合事務所・田代純一さん：
地下を見ていただくと分かるように昭和2年の際に下にはコンクリートが打ってありますし、柱の足下にも根巻のコンクリートが打ってあることがわかります
宇土櫓の建物全てが解体されるのは昭和2年以来。では、約100年前の工事とはどのようにして行われたのだろうか。
熊本城調査研究センター・木下泰葉さん：
こちらは昭和2年の修理の記念アルバムになります。これが修理前の宇土櫓の様子になります
ーーこれはひどいですね
熊本市 熊本城調査研究センター・木下泰葉さん：
そうですね、瓦も落ちてしまって
収められていたのは、地震前の姿からは想像もできないような痛々しい姿の宇土櫓だった。
文化財の専門家、文化財建造物保存技術協会の久保亮介技術主任は、「屋根が朽ち果てていて、手すり高欄がなくなってしまっている状況。瓦の屋根もこれだけ暴れて草が生えている状況になっていますので、間違いなくかなりの破損の状況に見えます。これだけ破損していますと、内部も間違いなく雨漏り等々腐朽していることが考えられますので、確実に大きな修理が必要な状況が見受けられます」と話した。
当時の県民にとってどんな存在だったか
熊本城調査研究センター・木下泰葉さん：
西南戦争で焼失した範囲というのは天守と本丸御殿一帯でそれ以外のエリアというのは火災の影響は受けていないんですけど、それ以前に陸軍が当時管理をしていたので、その中で解体されてしまった櫓が多いというところで宇土櫓は「火災」と「解体」のどちらからも影響を受けなかった櫓ということで残っていたというところですね。西南戦争以降は天守のほかに高い建物というのは宇土櫓しかなかったので、天守がなくなったというところで「熊本城のシンボル」と言える状況だったのかなと思います
大正から昭和にかけて痛みが激しくなった宇土櫓だが、当時、管理していた陸軍省は深刻な財政難。大蔵省に泣きつくが、これもなかなか首を縦に振らない。そこで見かねた陸軍関係者が「熊本城址保存会」を作って、広く市民に寄付を呼びかけた。
熊本城調査研究センター・木下泰葉さん：
ポスターを作って呼びかけを行ったようで、「熊本市-熊本城=0」というキャッチコピーを作られて宣伝をしていたようです
こうした努力によって3万1,800円余りの資金が集まり、ようやく工事にこぎつけた。
竹で組まれた足場に乗って写真に収まる工事関係者の姿は、当時、熊本城のシンボル的存在だった宇土櫓を元の姿に戻そうという誇りに満ちあふれているように見える。
やがて宇土櫓は続櫓を残してぽっかりと姿を消した。宇土櫓があって続櫓がない、今とはまるで逆の形だ。
そして、この工事開始からわずか数カ月後、宇土櫓は見違えるほどきれいになったのだ。
年明けには解体工事 2032年完了予定
12月18日、昭和2年の工事で載せられたというしゃちほこが地上に降りてきた。宇土櫓の本格的な解体工事は年明けから行われ、再び元の姿に戻るのは2032年度の予定だ。
熊本城調査研究センター・木下泰葉さん：
丁寧に解体と調査をしていくことになるので、前回の修理で見つけられなかった何かがあればいいと思います
築造当時からその姿をとどめる唯一の五階櫓は、また蘇るためにしばらく見納めとなる。
（テレビ熊本）
