新型コロナウイルス対策の制限緩和から、航空業界でも利用者が増加傾向にある。長崎県は国際線のさらなる誘致を目指し、受け入れ体制の強化を図っている。その鍵を握るのが「スタッフの確保」だ。航空機の運航を支える地上支援業務「グランドハンドリング」の仕事に密着した。
「グラハン」には全てに資格が必要
空の玄関口である長崎空港には毎日約80便が発着し、県の内外を結んでいる。その運航に欠かせない航空機の地上支援業務「グランドハンドリング」は、空の旅を支える重要な仕事だ。
この記事の画像(20枚)グランドハンドリングの業務は多岐にわたる。航空機の誘導や貨物の積み下ろし、手荷物の預かり、仕分け、返却、機内食の入れ替え、給油などが主な業務だ。航空機が着陸し、次の離陸までの短時間の間に6~7人のスタッフで手分けして効率よく行わなければならず、慎重さと正確さが求められる。
長崎・西海市出身で入社2年目の岡山彩実さん(20)が、グランドハンドリングに興味を持ったのは学生時代だ。
岡山彩実さん:
高校生の時に空港を利用した時に、展望デッキから見えたマーシャリング(航空機の誘導)がすごくかっこよくて、それからグランドハンドリングという仕事を知って、やりたいなと思った
グランドハンドリングは、飛行機が到着する10分前に準備が始まる。ヘルメットやベストを身につけ、駐機場などがあるエリア = ランプに向かい、荷物を出し入れするハイリフトローダーが正しく動くかなどを毎回チェックする。
岡山さんが手にしているのは「パドル」だ。飛行機に対して、徐行や旋回など約40の合図 = ハンドシグナルを巧みに使い分けながら駐機場へ誘導する。パドルをクロスさせる停止の合図で、飛行機は決められた位置にぴたりと止まった。パイロットがブレーキを踏むまでの時間差も計算している。
慌ただしくなるのはここから。飛行機が到着し、次の目的地に向けて出発するまで約45分しかない。岡山さんは到着便から荷物を下ろすために、ハイリフトローダーを機体につける。2~3cmのずれも許されない気を遣う作業の一つだ。
グランドハンドリングの仕事は、ボタンの操作も物を動かすのも全てに資格が必要となる。飛行機の機種ごとに機内の仕様や扱う機材などが異なるため、座学や訓練、技能審査を繰り返し資格を取得する。
岡山彩実さん:
力仕事もランプ(駐機場)に出たら男女同じ。やることは一緒なので、同じことをしていたら結構筋肉もついてきた
コンテナを降ろすと、別のスタッフが速やかに降りてきた乗客のもとへと運んでいく。ほっと一息と思いきや、すぐに出発のための積み込み作業に切り替えなければならない。
重大な作業の数々「遅れたらダメ」
今回、特別に「貨物室の中」も取材させていただいた。取材したボーイング787 - 9機は、最大36のコンテナを搭載できる。
コンテナの配置は全体の重量バランスを考慮して決められている。置く位置を間違えると重大な事故につながりかねないため、固定されたかのチェックも含めて2人がかりで点検するという徹底ぶり。ミスが許されない慎重な作業が続く。
その頃、岡山さんは出発に向けた準備を進めていた。
岡山彩実さん:
時間はシビアです。1分でも遅れたりしたらダメなので
先輩と一緒にトーバーと呼ばれる連結棒で飛行機とトラクターをつなぐ。飛行機はバックができないので、トーイングトラクターと呼ばれる車で誘導路まで押していくのだ。トーバーを外すといよいよ離陸となる。
岡山彩実さん:
最後のトーバー(連結棒)外しに行った時に、最後に(乗客に)手を振るじゃないですか。その時にお客さんが手を振り返してくれたりしたら、すごくやっててよかったなって思う。元気をもらう
リラックスできる貴重な時間のランチタイムでは、岡山さんは「煮込みハンバーグと、レンコンの甘辛く炒めたのと…。料理は好きだけど、お片付けするのがちょっと苦手」と話した。
旅行客急増に伴い人材の確保が急務に
長崎空港でグランドハンドリングを行う会社は2つあり、このうち長崎空港ビルディングは、全日空やソラシドエアなどを担当している。グランドハンドリングのスタッフ57人のうち女性は8人。最近、航空業界では「グラハン女子」として注目されている。
長崎空港ビルディング 航空部・川原誠副部長:
資格も入社してからで十分とれるので、今では高校を卒業した方を多く採用して、現場で社会人として成長していくような動きにもなっている
新型コロナウイルスの制限が緩和され、旅行客は増加が続いている。長崎空港では10月末に上海と結ぶ国際線が復活した。24時間化に向けた実証実験も始まり、今後も需要の増加が見込まれることから人材の確保は急務だ。
長崎空港ビルディング 航空部・川原誠副部長:
安全に、定刻に便を出発させるために一つのチームとなって、連携をとって仕事をできるところがグランドハンドリンググループの魅力
岡山さんは、一つでも多くの仕事ができるように先輩たちの指導を受けながら日々励んでいる。
岡山彩実さん:
みんなと協力して便を飛ばせることが、すごく達成感があってやりがいがあるなと思う。効率よく作業したり、後輩とかにも目を配って一言(声を)かけられるような先輩になりたい
快適で安全な空の旅は、きょうも岡山さんたち「グランドハンドリング」スタッフがその一翼を担っている。
(テレビ長崎)