愛猫家にはたまらない絵画ではないだろうか。ペルシャ猫の毛並みが超リアルに表現されている。「海のルビー」と呼ばれる希少なものの一部を使って制作された。1枚を描くのに2~3年をかけるという男性は、「素材が作品にもたらす“生命力”に強くひかれる」と話す。

希少エビの廃棄部分で絵を

増田喜良さんの作品
増田喜良さんの作品
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まっすぐこちらを見つめるペルシャ猫や、雲から顔をのぞかせる龍。
2023年10月 静岡市駿河区で開かれた展示会で注目を集めたこちらの絵画は、実はサクラエビのひげを使った作品だ。

増田喜良さん
増田喜良さん

作品を制作したのは静岡市清水区に住む増田喜良(きよし)さん、71歳だ。これまで50年以上かけて仕事の合間に、サクラエビのひげを使った絵画20点ほどを生み出してきた。

静岡県駿河湾特産のサクラエビ
静岡県駿河湾特産のサクラエビ

駿河湾特産のサクラエビ。生でも茹でてもかき揚げにしてもおいしく、その色合いや希少性から「海のルビー」と呼ばれることもある。ひげは今でこそ「髭塩」と呼ばれる商品などに加工されて無駄なく使われているが、昔は捨てられていていた。
絵画や図工が得意だった増田さんは、なんとか利用できないかと制作を始めたそうだ。

洗って干して…制作に3年

サクラエビのひげ
サクラエビのひげ

一体どのようにしてサクラエビのひげが絵になっていくのだろうか。増田さんが1枚の作品を作り上げるのにかかる期間は2年から3年。途方もない作業の連続だ。
増田さんは、「ひげだけを使うので不純物が混ざるとことが進まない。最終的には太陽の紫外線で殺菌して色を飛ばすが、何回も洗って干すという作業を繰り返していく」と工程を説明する。

洗って干すを繰り返し白くする
洗って干すを繰り返し白くする

こうして染めやすい白いひげを作るのに約3カ月かかる。さらにそのひげに色を着け、粉末状にするなど加工することで画材が完成し、ようやく作品の制作に取りかかることができる。

砕いて着色するものも
砕いて着色するものも

当初は完成した作品に時間がたつとカビが生えたり、生臭いにおいが残ってしまったりして、作品を何点も捨てたそうだ。そうした中で、生のサクラエビのひげを冷凍してから解凍して洗いだし、不純物の排除、天日干しでの乾燥という工程を繰り返すことで、「画材としてのひげ」にたどり着いたという。

きっかけは「忘れられない光景」

サクラエビの天日干し 後ろは富士山(静岡市)
サクラエビの天日干し 後ろは富士山(静岡市)

サクラエビのひげで絵画を制作しようと思ったきっかけは、サクラエビの加工が盛んな由比地区出身の増田さんが、幼い頃に見た忘れられない光景だ。

増田喜良さん:
浜にエビを干すと、後ろにあるに富士山がまだ雪景色で、その対比がすごくきれいで魅了されて。(サクラエビの)赤いじゅうたんに(富士山頂の)白という形で、それでやってみたいなと

富士山火口から昇る龍
富士山火口から昇る龍

こうした幼い頃に見た光景を再現しようと制作を続ける増田さん。
現在 取り組んでいるのが、伊豆半島と故郷の近くにある薩埵峠(さったとうげ)が龍のように見えた光景だ。富士山を囲むように、2匹の龍を描こうとしている。

富士山の噴火口から上に向かって昇っているのが青龍、それを下から渦を巻いて威嚇しているのが白竜だ。ミリ単位の作業を慣れた手つきで、淡々と制作していく。

だるまからのメッセージ

制作の途中で忘れていた「だるま」
制作の途中で忘れていた「だるま」

30歳を過ぎた頃 10年間ほど絵画制作から離れたが、自分が描いていた絵がきかっけとなって、再び絵画に戻ったそうだ。だるまの絵の3作目を作っていったものの、途中で箱にしまって存在を忘れていた。ある時、偶然に箱を開けて絵を見つけた。

増田喜良さん:
(箱を)開けた途端に、(だるまが)そのいかつい目で、「お前 なんでこんな暗いところに、何年も何十年もしまっておくんだよ」って。その一言が聞こえてびっくりしちゃって

だるまからメッセージを受け取った増田さんは制作を再開。こうした経験から、制作した作品はすべて自宅に大切に保管している。

「絵の“生命力” にひかれる」

サクラエビの目や殻も画材に
サクラエビの目や殻も画材に

作品にはサクラエビのひげのほかに目や殻も使用していて、生き物としての生命力を感じるという。増田さんは「どこか切れたり欠けたりすると修正するのが大変だと思うが、意外とうまくくっついてくれる。その生命力にすごくひかれる」と話す。

増田さんの作品
増田さんの作品

増田喜良さん:
加工から絵までなるのが、すごく大変。苦労をしてやって挫折感もあるけれど、それが作品につながっていくのが一番の魅力。今は(自分が体験した)過去や昔の風景を残したいなという気持ちが一番ですね

増田さんの作品
増田さんの作品

長い年月をかけて無我夢中で独自の技法を確立させた増田さん。これからも作品の制作を続けていく予定だ。

(テレビ静岡)

テレビ静岡
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