大きなマンションは住民同士もそうだが、近隣住民との「ご近所づきあい」が希薄になりがちだ。スマホのアプリを使って、住民同士をつなぎ、助け合う地域コミュニティーをつくる取り組みが広島のマンション事業者の手で行われている。

地域住民がつながる場

小さな子どもやお母さんが集まる広島市のフリースペース。ここは託児所でも自治体の施設でもない、地域住民交流の場。つまり「ご近所づきあい」の場なのだが、2022年から、新たな共助の試みとして始まった。

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参加者:
話せる同年代のつながりというのがすごく心が安らぐ。子どもだけじゃなくて親の立場としてもありがたい、救われる

参加者:
安心できますね。いざというときに頼れる人がいると心強いなと思います。子どものことも知ってくれているから

この集まりは、利用料金に決まりはなく、あくまで「お気持ち」レベル。子どもを預ける側と面倒を見る側が、かつての「ご近所さん」のような信頼関係の上に成り立っている。

預かる側 新田久美子さん:
顔見知りの頼り合いが、お互いに助け合えるコミュニティー作りにつながるので、すごくいいなと思います

幼稚園の勤務経験がある新田さんは、その経験を地域に生かしたいと、3人の子育てをしながら「ご近所さん」のリーダー役を担っている。

リーダー役 新田久美子さん:
ママがほっとできたり、癒やしや喜びが私の喜びでもあると思っているので、本当にいい仕事だなと思いながらやっています。ちょっとずつ紹介して広がりが出てきて、ママたちが来てくれて

この仕組みは、広島市のマンション分譲会社「マリモ」がスマホのアプリを使って、導入をサポートしている「マリモコネクト」。

自分の得意分野を生かし、人の役に立ちたい「リーダー役」がイベントを企画し、地域の「ご近所さん」たちと無料アプリを使って情報交換する。

提供するのはマンション分譲会社

マリモホールディングス 矢田辺和樹さん:
社会全体で担い手が不足していることで、地域コミュニティーが廃れていることはよく耳にしていました。デベロッパーとして建物を建てて終わりではなくて、地域そのものをより元気にしていきたいと

マリモが無料で貸し出しているフリースペースは、マンションの入居者でなくても利用できる。もうけに結び付くのだろうか?

マリモホールディングス 矢田辺和樹さん:
単純に利益の話ではないかなと思います。定住人口が増えるだけでなく、マリモのマンションがそこに建つと、地域そのものも、より活性化して元気になっていく。そもそも、地域や街の資本は何なのかと考えると、そこに住んでいる人々だと思うんですよね

マンションを建てるだけでなく、その地域に住む「人」に価値を見いだすという考え方。「マリモコネクト」はマリモがマンションを分譲した広島市西区と南区で先行して導入されていて、活動は子どもの見守りだけにとどまらない。

大きなモールではなく、地元商店街とのつながりを大切に

11月、広島市南区の地域の祭りの「リーダー役」は企画した子供服の交換会で大忙しだった。

リーダー役 三浦奈緒美さん:
気軽に服を手に取ってもらって、オシャレを楽しんでもらえたらいいなと思います

三浦さんは生まれも育ちも広島市南区。マンションの入居者ではないが、子供服の交換会を企画した。

三浦さんは2児の母。周辺に続々とマンションが建てられ移り住んでくる人は増えたものの、週末のにぎわいは郊外の商業施設に移りがち。そこに寂しさを感じていたという。

それで、大きなモールではなく、地域の商店街とのつながりも大切にしている。

東雲地区商店会 加藤健太郎会長:
色んな人たちと関わることによっての安心安全。僕たちが広くできなかったことにプラスアルファの力をいただいている、そんな感じですね

リーダー役 三浦奈緒美さん:
リーダー役は、友達に誘ってもらいました。色んな方と知り合えることがすごく好きだったので、入っているだけでも楽しいかなというので入らせてもらいました

マンションの新住民と、元からの地元住民をつなぐ

今回は地元の商店会の祭りで、子供服の交換会についてもアプリで宣伝し、開店を待つ。

「これかわいいなと思って」とお客さんが洋服を手に取ってくれた。

地元に30年住んでいる住民:
珍しさもあってよかったかなと思います

当初の心配をよそに、様々な世代の地域住民がやってきて会話も弾む。1人ひとりにお気に入りの一着を手にとってもらうことができたようだ。

春に広島県外から転居してきた住民:
色んな人がいるんだなというのが、職場と家庭の行き来だけだと、地域で生活していることを感じにくいのが、ここに来ておじいちゃんおばあちゃんから子供までいっぱいいるんだなと感じました

マンションが建つエリアを「ご近所さん」のつながりで丸ごと元気に。「デジタル」と「リアル」の融合が人と町に温もりを生んでいる。

リーダー役 三浦奈緒美さん:
自分のためにも住みよい街づくりは大切だなと感じますので、これからも住みよい地域にするために頑張っていきたいと思います

広島大学大学院の匹田篤准教授(社会情報・メディア論が専門)は「まさに地域の価値を高める。特にこういう価値は、人間関係資本=ソーシャルキャピタルと呼ばれるのだが、非常にうまくいっていると思う」と話す。

広島大学大学院 匹田篤准教授(社会情報・メディア論が専門):
特にこういう集合住宅と、転居者という人たちと地元の町内会活動とは、なかなか接点がなかったり、交流が難しいと言われているんですが、本来その同じ町内に暮らす人たちは、特に災害時は、誰よりも頼り頼られる間柄であるわけなので、そういう意味でこういう出会いがあると、その地域の価値は本当に高まると思います

地域コミュニティーの再生をデジタルの力で、リーダー役を募集し、人の輪を広げるというこの新しいシステムは、どこの地域にでも生かすことができそうだ。

(テレビ新広島)

テレビ新広島
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