人と人が触れ合うことは信頼や愛情を育むために欠かせないが、それはロボットでも有効のようだ。その効果を確かめるために、人を抱きしめて頭や背中をなでるロボットが開発された。

(出典:国際電気通信基礎技術研究所)
(出典:国際電気通信基礎技術研究所)
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株式会社国際電気通信基礎技術研究所(京都)の研究グループが作った「Moffuly-II(もふりーつー)」は、クマのような姿の大型ロボット(身長約2m)で大人も抱きしめることができる。

表面は毛足の長いぬいぐるみと同様の素材でモフモフしており、ヒジと手首が稼働する長さ110cmほどの腕で人を抱きしめ、頭や背中をなでることが可能。

これまでの研究では、人間は相手がロボットでも触れ合うことで親しい関係を育めることが報告されていたが、ロボットが人の頭や背中などを触る動作は重点が置かれていなかったという。そこで研究グループは、「抱擁中にロボットが人の頭などに触れる場合、どのような動作が効果的なのか」という課題に取り組んでいた。

(出典:国際電気通信基礎技術研究所)
(出典:国際電気通信基礎技術研究所)

実験では、男女15人ずつの計30人の被験者が「Moffuly-II」と約10秒ずつ、「背中ぎゅっと」「頭ぎゅっと」「背中なで」「頭なで」の抱擁を体験し、それぞれの印象をアンケートで評価。

その結果、最も効果的なのは「頭なで」で、「ぎゅっと」するより「なでる」ことの方が、また「背中」よりも「頭」をなでる方が効果があることが分かったという。

(出典:国際電気通信基礎技術研究所)
(出典:国際電気通信基礎技術研究所)

同研究所はこのような結果から、人と物理的に触れ合うロボットの振る舞い設計に役立つとしている。

それにしても「Moffuly-II」はなぜこんなに大きなサイズになったのか?また今回は研究だったが、市販されるなど「Moffuly-II」を体験する可能性はあるのか? 国際電気通信基礎技術研究所の塩見昌裕さんに聞いた。

安全性はもちろん感触にもこだわり

――まず「Moffuly-II」はなぜクマみたいな姿なの?

初代Moffulyがクマのぬいぐるみを改良して作ったものだったので、そこから継続したデザインです。大人を抱擁できるサイズにしたかったので、人より大きい動物をイメージしました。ただ、実は見かけを変更することも可能で、ウサギ版もあります。

初代「Moffuly」(出典:2017 Information Processing Society of Japan)
初代「Moffuly」(出典:2017 Information Processing Society of Japan)

――では、こんなに大きなサイズになったのは?

これまで、小さいサイズで人に触れるロボットはたくさん研究が進んでいたのですが、大人を包み込めるようなサイズで人に触れるロボットはほぼ存在していませんでした。大人であっても抱擁されることはとても心地よいことだと思うので、そういったロボットを実現したい、と考えたためです。

ちなみに立ち姿勢限定ではなく、座り姿勢で大人のみならずお子さんを抱擁する研究にも取り組んでいます。

(出典:国際電気通信基礎技術研究所)
(出典:国際電気通信基礎技術研究所)

――今回の研究の狙いは?

そもそも人を抱きしめることが出来るロボットの開発はあまり進んでおらず、我々がその研究を先導していたのですが、研究が進む中で「抱きしめている間の手の動き」が重要であることが分かってきました。その中で、親御さんとお子さんや、恋人同士が抱きしめあっている際の、頭や背中をなでる行為に着目したのです。

人々がより安らぎを感じる抱擁の実現を目指して、抱きしめている間にどの場所をどう触れると良いのか、という疑問に答えたいと考え、今回の研究に取り組みました。


――開発で気をつけたことは?

安全性はもちろんですが、心地よい触れ方になるよう、抱きしめる動作や外装の触感改良に時間を費やしました。

また、背中の方にまでロボットの手が当たることが抱きしめられている感覚を再現するために重要ということもわかって、開発中に何度も腕の長さを調整しました。

今の時代は触れ合いが足りないのでは?

――「Moffuly-II」は人の頭や背中を判断して動く?

体の生地の内側に布型のタッチセンサが複数縫い付けられており、ロボットは自分を抱きしめられたことを検出して抱き返しています。頭や背中の部位を個別に判断しているのではなく、ロボットが抱きしめられている状態か(=抱き返していい状態か)を判断して動作しています。


――「頭をなでられるのが最も好まれる」という結果についてどう思う?

今の時代には、触れ合いが足りないのだと考えています。今回の結果を通じて、人は誰かに優しく抱きしめられたいのだな、ということを改めて感じました。やはり大人になると、子どものころに比べて他人と触れ合うこと、例えば抱きしめてもらったり頭をなでてもらったりすることは少なくなると思います。

でも、人同士の触れ合いを調べた研究では、親しい人同士の触れ合いが体や心の健康に重要であることもわかっています。頭をなでつつ抱きしめてくれるようなロボットが社会に広まることで、より多くの人々が幸せな気持ちを感じられるようになると良いな、と思っています。


――「Moffuly-II」は、発売したりして体験できるようになる?

これまでにも展示会などで一般の方々に抱擁を体験していただく機会は何度か設けていたのですが、今後もぜひそういった機会に取り組んでいきたいと思っています。

発売に関しては、まず研究者の方向けに、触れ合いロボットプラットフォームとしてのバージョンを開発しようと考えています。そこでも良い評価をいただければ、将来的に発売できる形につながるのではと期待しています。

(画像はイメージ)
(画像はイメージ)

この実験を知って、大きなモフモフに抱きしめられたいと思った人もいるかもしれない。たしかに大人になると親しい人以外と触れ合う機会はかなり限られてしまうが、「Moffuly-II」のようなロボットがあると、幸せな気持ちになることが増えそうだ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。