国際ロボット展に電機メーカー・エプソンが展示した「黒ひげ絶対助けるロボ」の動画が580万回以上再生され、SNSで話題となっている。

おなじみのおもちゃ「黒ひげ危機一発」の樽に1つのロボットが正確に剣を1つ1つ刺していき、5人の黒ひげが飛び出した瞬間、別のロボットが網を一振りして全員をキャッチする動き。

このハイテクロボットを開発した、セイコーエプソン MS営業部の久保 孝弘さんと松下 翼さん    さんに連係プレーの仕組みと今後の展開を聞いた。

プリンターだけじゃない!

ーー今回の展示を思いついたきっかけは?

エプソンはプロジェクターやプリンターを作っている会社という認識が世間一般では強くて、ロボットや「力覚センサー」を作っていることはあまり知られていません。

そこで今回、皆さんに馴染みのある「黒ひげ危機一発」のおもちゃとエプソンがコラボすることで、その一面を知っていただく機会にしたいと思いました。

セイコーエプソンMS営業部・松下翼さん(左)久保孝弘さん(右)
セイコーエプソンMS営業部・松下翼さん(左)久保孝弘さん(右)
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展示会ではロボットの俊敏性や力覚センサーの精度をお客さんに見て体験していただくためにデモ機を作りました。

SNSでも話題となり、展示会に来られなかった方々にもエプソンのロボット技術を見ていただけて、狙い以上の反響に嬉しく思っています。

Xで約580万回以上再生された展示会動画(視聴者撮影)
Xで約580万回以上再生された展示会動画(視聴者撮影)

ーー飛び出す黒ひげを網でキャッチする仕組みは?

まず剣を刺す方のロボットは、手首に力を検知する力覚センサーが付いていて、それで剣を刺す時のわずかな力の違いを見付けて、当たり穴を発見しています。

網のロボットの方はかなりシンプルな制御になっていて、剣を刺すロボットから「当たり穴に剣を刺し込む」という信号を受け取ったら、その瞬間に網を振っているだけです。

黒ひげを網でキャッチする瞬間(視聴者撮影)
黒ひげを網でキャッチする瞬間(視聴者撮影)

力覚センサーで正確に当たり穴を見付けられるからこそ、網ロボット側に何のセンサーがなくても人形をキャッチできる仕組みになっています。

予想外の展開に「そっちかー!」

網でキャッチする派手な動作に目が行きがちだが、実はすごいのは剣を刺すロボットの方。

センサーで当たりの穴を発見し、飛び出すタイミングをもう片方のロボットに伝えて連係プレーが成り立っているという。

(提供:エプソン)
(提供:エプソン)

ーーお客さんの反応を見てどう感じた?

デモ機は、「力覚センサーで探る」という点に焦点を当てていましたが、実際には網で取る派手な動きに多くのお客様に「おぉ~」という歓声をいただき、「そっちかー!」と思いながらもその歓声にガッツポーズをしていました。

網でキャッチする方に歓声が沸いたことはやや複雑でしたが、結果的に注目していただいてありがたく思っています。

(提供:エプソン)
(提供:エプソン)

ーー網を振るタイミングや高さはどう計算した?

試行錯誤を重ねて、最初は段ボールにビニール袋を貼り付けて何度か試して、網の大きさに目星を付け、そこから網を振る動きをいろいろ試しました。

最小限の大きさの網でキャッチする調整はかなり難しかったです。

工場の自動化や後継者問題を解消

エプソンでは今後、力覚センサーを活用して、人間が担っている細かい作業をロボットで再現する狙いがあるという。

ーー今回の技術はどういった場面で役立つ?

エプソンのロボットは、もともと工場で生産するための産業用ロボットです。

黒ひげのデモ機の力覚センサーは、だいたい1ニュートンの力(1kgの質量を持つ物体に1m/s2の加速度を生じさせる力)で探っていて、“当たり穴”に剣を刺すとおもちゃの内部の構造でちょっとしたバネの反力を感じるので、そこで見分けています。

提供:エプソン
提供:エプソン

しかし実際の工場では、パソコンの基盤に入っている小さなコネクターの挿入に必要なわずかな力の制御など、もっと難しい動作に使われています。

力覚センサーは、モノの上方向、横方向、前方向などにどのような力が加わったのかを測れるセンサーです。

ロボットと組み合わせることで、人間が手作業で部品を組み合わせる際の穴を探る動きを力覚センサーで再現することができます。

提供:エプソン
提供:エプソン

また、一定の力で押し付けながら表面を磨く動きも可能で、人に代わってロボットと力覚センサーで工場の自動化に役立っていくと考えています。

ーー力覚センサーが人間の動きを再現?

センサーが付いていないロボットだと、モノをはめ込む動作で少し位置がずれていたらクラッシュしてしまいます。

(視聴者提供)
(視聴者提供)

力覚センサーで一定の力で押し付けながら穴の位置を探る動きをすることで、クラッシュする心配がなくなり、より精度が高い組み付け作業も人の力を借りることなくロボットだけでできるようになります。

こうした技術を活かして、人間でも失敗するような細かいコネクターの差し込み作業や後継者がいない熟練作業者の技術をロボットに置き換えられるような開発を考えています。