35%分は代金から割引 15%分はクーポンで

新型コロナウイルスの感染拡大で打撃を受けた観光・飲食・イベント業界など向けに、政府が行う需要喚起策「Go To キャンペーン」。

このうち観光・旅行分野が「Go To トラベル」だ。担当する観光庁が、詳しい内容を発表した。

この事業は、国内旅行をする人に代金の50%相当額を支援するというものだ。支援額の7割にあたる35%分は旅行代金から割引され、残り3割にあたる15%分が旅先の土産物店や飲食店、観光施設などで使えるクーポンとして配られる。

海の日からの4連休の前日にあたる7月22日から開始されるが、クーポン配布は準備が間に合わず、9月以降に本格実施される方向だ。

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個人で手配した交通機関分は対象外

「Go To トラベル」の対象となるのは、宿泊旅行の場合、「宿泊と交通機関を組み合わせたセットプラン」もしくは「宿泊」の代金だ。

旅行代理店や予約サイトで申し込んだり、宿泊施設で直接予約した場合に適用され、個人で手配した交通機関の代金は対象外だ。ただし、クルーズ・夜行フェリー・寝台列車などは、宿泊に準ずるものとして、割引範囲に含まれる。

「日帰り旅行」商品も対象だが、「往復の交通」と「旅行先での食事や観光体験」とが組み合わされていることが条件となる。

1人の上限額は、1泊あたり2万円。日帰りの場合は1万円だ。泊数に制限はない。

例えば1泊2日の旅行に出かけ、旅行代金が1人2万円の場合、支援額は50%に相当する1万円だ。うち、7000円分が代金から割り引かれ、9月以降は、旅先で使えるクーポンが3000円分もらえる見込みだ。

1人5万円の場合、代金の半額は2万5000円だが、1泊あたりの上限2万円が支援額となる。うち、1万4000円分が代金割引で、6000円分がクーポンで付与されることになる。

観光庁「Go To トラベル事業の概要」より
観光庁「Go To トラベル事業の概要」より

予約済みの分はあとで還付

割引価格での販売は、旅行代理店や予約サイト、宿泊施設の予約システムなどで、準備の整った事業者から7月27日以降、順次始まるが、それまでに予約した場合も支援を受けられる。

旅行後に領収書や宿泊証明書などを添えて、オンラインか郵送で事務局に申請を行い、口座振り込みやクレジットカードへの返金で割引分の還付を受ける流れになりそうだ。

確保されている予算は、事務委託費を含めて1兆3500憶円。何回でも利用できるが、予算を使い切れば終了する見通しだ。

委託された事務作業は円滑に実施できるか

この「Go To トラベル」を含めた「Go To キャンペーン」事業は、当初、経済産業省が一括して事業者を公募する計画だった。

しかし、持続化給付金の事業委託のあり方が問題視される中、経産省と農林水産省、国土交通省がそれぞれの分野ごとに担当を分け、公募を仕切り直すことになったものだ。

「Go To トラベル」の運営を担う事務局には、日本旅行業協会や旅行大手などでつくる共同事業体が選ばれたが、利用者が旅行後の還付申請など、手続きを円滑に進められるかが焦点になる。

懸念される感染再拡大の誘発

こうした中、いま懸念されているのが、このキャンペーンによる全国的な感染再拡大の誘発だ。

7月22日という開始時期は、当初8月上旬だった予定が大幅に前倒しされたものだ。夏休みや4連休の前に早めてほしいとの旅行業界などの要望を受けての方針だが、東京都では、1日あたりの新規感染者数が200人を超える状況が12日まで続いていた。

7月12日までに東京都で確認された感染者数の推移
7月12日までに東京都で確認された感染者数の推移

観光庁は「感染の状態をモニタリングしながら、状況により実施地域を絞るなど、臨機応変に対応していく」と説明しているが、都市部から地方への感染の広がりが心配される中、旅行支援どころではなくなる可能性もある。

観光需要の喚起と感染防止の徹底との両立を図っていけるのか。制度運営にあたっては、警戒を緩めることなく、感染状況に即して事業内容を見直す慎重さと柔軟性が求められる。

【執筆:フジテレビ解説委員・サーティファイド ファイナンシャル プランナー 智田裕一】

智田裕一
智田裕一

金融、予算、税制…さまざまな経済事象や政策について、できるだけコンパクトに
わかりやすく伝えられればと思っています。
暮らしにかかわる「お金」の動きや制度について、FPの視点を生かした「読み解き」が
できればと考えています。
フジテレビ解説副委員長。1966年千葉県生まれ。東京大学文学部卒業。同大学新聞研究所教育部修了
フジテレビ入社後、アナウンス室、NY支局勤務、兜・日銀キャップ、財務省クラブ、財務金融キャップ、経済部長を経て、現職。
CFP(サーティファイド ファイナンシャル プランナー)1級ファイナンシャル・プランニング技能士
農水省政策評価第三者委員会委員