魚介類に寄生し、生きたままで食べると激しい腹痛などに襲われる「アニサキス」。これを加熱も冷凍もせずに“瞬殺”する、新しい技術への支援を呼びかけるクラウドファンディングが今、注目を集めている。

浪平隆男准教授(出典:熊本大学)
浪平隆男准教授(出典:熊本大学)
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呼びかけているのは、熊本大学産業ナノマテリアル研究所の浪平隆男准教授の研究チーム。この新しい技術を、福岡県の水産業者と共同で開発し、いち早く実社会で活用するための資金を集めようと、クラウドファンディングに乗り出したのだ。

そもそもアニサキスは、サバやアジなどに寄生し、生きたまま食べてしまうと激しい腹痛などの食中毒を起こすことがあり、水産業界では長年の課題とされていた。浪平准教授によると、これまでアニサキスを殺虫しようと、紫外線やX線、超音波、高圧力、薬品など様々な方法が試されたが、加熱もしくは冷凍以外に有効な方法はなかったという。

それでも生の魚を消費者へ届けようと、業界では直径1mm長さ2cmほどのアニサキスを手作業で見つけ、ピンセットで取り除くなどの地道な努力をしてきたが、リスクをゼロにすることは出来なかったとのことだ。

(出典:熊本大学)
(出典:熊本大学)

そこで研究チームは、魚の身に「パルスパワー」というマイクロ~ナノ秒の瞬間的な超巨大電力を流してアニサキスを無害化する、「アニサキス殺虫装置」の開発に2021年に成功。編集部でも過去に紹介している。

(参考記事:アニサキスを“一瞬の電流”で殺虫する装置開発! 処理した刺身を2021年秋から試験販売中…食感は変わるのか聞いた

この装置はアジ専用の比較的小容量(1日あたり数kg~300kg程度)の処理及び小型化が可能なタイプで、その後、フロー(コンベア)式装置(1日あたり数t程度の大容量処理)の開発を進め、2023年9月に検証機が完成。

アジのみとはなるが、小容量から大容量までの処理を実現できるアニサキス殺虫装置の製作が可能であることが実証できたため、その用途の水平展開を目指しクラウドファンディングで支援を求めている。

(出典:熊本大学)
(出典:熊本大学)

しかし、クラウドファンディングのプロジェクトページによると、日本のアニサキスの食中毒は厚労省の統計で年間500~600件程度発生しているという。

また欧米では現在、刺し身は冷凍しなければならないという規制があることから「このままでは、日本でも冷凍規制が入ることは想像に難くない」としてしている。そこで規制される前に、この技術を社会実装するために支援を求めているとのことだ。

開始1週間で第1目標「400万円」を突破

11月8日からスタートしたクラウドファンディングは3つの目標金額を掲げており、開始1週間で第1目標の400万円を突破。この時点で集まった寄付は、これまで殺虫対象魚種としていたアジ以外のサバ、サケ、サンマなどに対象を広げるための研究に使われるという。

さらに11月27日には第2目標の1000万円達成を報告し、対象魚介類寄生虫ををアニサキス以外に拡大する研究の資金にするとした。

(出典:熊本大学)
(出典:熊本大学)

そして現在、最後となる第3目標の1600万円を目指して寄付を呼びかけている。これに到達すれば、この技術を馬肉や他のジビエなどに対象食品を拡大する研究が進められるという。なお、クラウドファンディングの期間は12月26日までとなる。

ところで、2年前に開発した「アニサキス殺虫装置」は今、何に使われているのか?「パルスパワー」は他の寄生虫にも有効なのか? 熊本大学・産業ナノマテリアル研究所の浪平隆男准教授に聞いた。

稼働機はアジフィレを25トン超出荷してもクレームゼロ

――そもそも冷凍と生の魚では、どんな違いがある?

一般的に、冷凍解凍処理された魚は、生の魚に比べて、ドリップが出やすかったり、食感が軟化したり、香りが弱くなったり、退色がはやくなったりすると言われております。なお、上記の良し悪しは、食べる人の好みに大きく依存いたしますことを申し添えます。


――現在「アニサキス殺虫装置」はどう使われている?

ジャパンシーフーズ(編集部注:共同研究した水産会社)へ設置済みのアジ専用アニサキス殺虫装置(プロトタイプ機)は、現在、稼働状況下にあり、それによる処理済みアジフィレが試験的に出荷されております。

これまでに累計25トン以上が試験出荷されておりますが、アニサキスクレームはゼロとなっております。また、熊本大学には、プロトタイプ機の開発に使用いたしました実験機が設置されており、クラファン課題はこちらを使用して進める予定です。


――パルスパワーは第3目標の達成時に書かれている馬刺しの寄生虫にも効果がある?

パルス電流殺虫技術は、原理的に、電流を流せる食品であれば、それに潜む寄生虫の殺虫は可能です。

(出典:熊本大学)
(出典:熊本大学)

――「アニサキス殺虫装置」で無害化した潜んだアニサキスはどうなる?

冷凍処理と同様に、フィレ内に潜んだものはそのまま食べることとなります。なお、アニサキスアレルギーの方々は、加熱しても、冷凍しても、パルス処理しても、食べることはできませんのでご注意ください。
(なお、冷凍処理もパルス殺虫処理も、表面についたアニサキスの洗浄・除去後の処理となります。アニサキスが表面についたまま出荷されることはありません)

――クラファンサイトに寄せられたコメントで気になったものは?

アニサキスアレルギーになられた方のコメントなどを読みますと、何とかアレルギー対策はできないものかと思案いたします。殺虫と同時に達成できている、そんな妄想を抱きますが、そんな夢のようなことはあるはずがないので、今後の殺虫機序解明過程を通して、いろいろなことを検討してみたいです。


――日本でも、魚の冷凍規制を行う可能性は?

正直なところなんとも言えません。しかし、年間500~600件で推移するアニサキス食中毒の事件数に対して、病院のレセプトデータ解析による推計では、年間約2万人のアニサキス症患者が出ているとされております。このような状況が未来永劫そのまま放置されることはあまり想像できません。


――「アニサキス殺虫装置」で冷凍規制が回避される?

冷凍する理由の一つがアニサキスの殺虫となりますので、同様に、パルス電流によって殺虫ができれば、冷凍が必須では無くなると思います。


――なぜクラウドファンディングで「アニサキス殺虫装置」の社会実装が進むの?

今回のクラファンでは、その資金にて本技術の水平展開を進めることで、本技術の付加価値を高め、民間投資の呼び水としたく考えております。

また、支援者人数は、そのまま市場価値を表すことになると考えており、同時に、多くの方々が解決したいと思っている課題として明確に示せる機会にもなると考えております。


――ちなみに「アニサキス殺虫装置」に呼び名は付けない?

アニサキス殺虫装置は、現状、わかり易さを優先して、アニサキス殺虫装置と呼称しております。なお殺虫技術は、「パルス電流殺虫技術」と呼んでおり、パルス電流殺虫技術研究会(産学報道機関から成るコンソーシアム)を設立しております。

未処理・パルス処理したアニサキスは外皮付近が透明であるが、加熱処理は外皮まで白濁(たんぱく質が変性)している。(出典:熊本大学)
未処理・パルス処理したアニサキスは外皮付近が透明であるが、加熱処理は外皮まで白濁(たんぱく質が変性)している。(出典:熊本大学)

浪平准教授によると、熊本大学・産業ナノマテリアル研究所では、過去にはパルスパワーを気体、液体、固体、生体などに使っていろいろな現象を調べていたそうだ。

その中で開発した「アニサキス殺虫装置」が早く実用化し、いつまでも安心して美味しい刺身が食べられるようになってほしい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。