桜島や阿蘇、それに海底などに100を超す活火山がある「火山列島ニッポン」。国は2024年度、対策強化のため火山調査研究推進本部(火山本部)を立ち上げる。
その立ち上げの中心に選ばれたのは、かつて平成大噴火を起こした長崎の「雲仙普賢岳」を長年研究してきた第一人者だった。
火山活動の「予測の難しさ」
2023年11月、雲仙・普賢岳の噴火活動でできた「溶岩ドーム」の現状を確認する「防災登山」が行われた。防災登山は、避難計画に反映するため、九州大学や長崎・島原市などが毎年春と秋に実施していて、今回で34回目だ。
この記事の画像(13枚)参加者の一人、九州大学の名誉教授・清水洋さんは長年、普賢岳の観測や研究に携わってきた。
九州大学・清水洋名誉教授:
最近はあまり変化がない。もともと下から出てきた時の温度は900度以上あったが、今は冷えて植物も生えている
いまは火山活動が落ち着いている雲仙普賢岳は33年前(1990年)、約200年の眠りから覚めた。
テレビ長崎の記者(1990年11月17日 普賢岳の上空・ヘリからのリポート):
200年の沈黙を破った雲仙普賢岳の山頂付近です。現在も間断なく2カ所の噴火口から激しい煙が噴き上げています。
山頂から2本の白い噴煙があがった3カ月後には、新しい噴火口も確認された。
この時のことを振り返り、九州大学名誉教授の清水さんは福岡市で開かれたシンポジウムで火山活動の「予測の難しさ」を改めて語った。
火山の研究者および九州大学名誉教授・清水洋さん:
この後、本格的なマグマ噴火になるのではと予測された。我々研究者は溶岩流になると思っていた。実際は溶岩ドームになり、溶岩ドームが崩れて火砕流になり多くの人が亡くなった。実際にいつまで噴火が続くのか(予測は)難しかった。
1991年6月3日、その大規模な火砕流は家々を焼き尽くし、マスコミ関係者や警戒や避難の呼びかけなどにあたっていた警察官や消防団など43人もの命が失われた。
2014年9月27日には、長野県と岐阜県にまたがる御嶽山が噴火し、死者と行方不明者は63人、戦後最悪の火山災害となった。
人材育成と火山災害の対策の強化目指して
桜島や阿蘇、それに海底などに100を超す活火山がある「火山列島ニッポン」。
国は対策強化のため2024年4月文部科学省に「火山調査研究推進本部」を設置する。その準備会の座長を務めるのが清水さんだ。
火山の研究者および九州大学名誉教授・清水洋さん:
国会議員に説明する資料を準備している。火山本部がなぜ必要か、こういう機能が必要と議員に説明するため。
清水さんは現在、観測や研究の「現場」を離れ、茨城県の防災科学技術研究所で「火山本部」の土台作りを進めている。これまで個別に行われてきた大学の研究者や気象庁などの観測や研究をまとめ、人材育成も視野に、火山災害の対策の強化を目指す。
火山の研究者および九州大学名誉教授・清水洋さん:
大学などで基礎研究もできるようにして、その成果があって初めて防災に役立つのだと。そういうことができるようなシステム作りが火山本部には求められる。
気象庁は国内111の活火山のうち50を24時間体制で観測、監視。
火山の活動状況の評価や噴火警戒レベルの判断を行い、警戒が必要な範囲や防災機関や住民がとるべき対応を5段階で示している。
「縦割りだと上手く機能しない」
一方、国として防災や災害時の対応にあたるのは内閣府だ。行政の縦割りによる対応の遅れを指摘する声は少なくない。
火山の研究者および九州大学名誉教授・清水洋さん:
国難レベルの大きな規模の噴火災害が発生したときに、なかなか縦割りだと上手く機能しない。制度的にヘッドクォーターが機能して国として国家100年の計で、施策として継続できるような火山研究と防災対策が推進できることを期待している。
活動火山対策特別措置法の一部が改正されたことで設置される「火山本部」。
これまでに3回の会合が開かれて、噴火で影響が及ぶ範囲の予測など必要な監視体制や火山本部の役割や課題について専門家や関係する省庁の担当者らが意見を交わしている。
近年、富士山の市街地近くで新たな火口が発見されたことで、想定される火口範囲や避難対象エリアが拡大され、桜島で大規模噴火の可能性が指摘されたことなど、日本全国で火山活動が活発化した際の備えが急務だ。
噴火災害が発生する前に具体的な予防策は…、そして住民や登山者などの命を守るため、清水さんらは「火山本部」の立ち上げに向けた準備に奔走している。
(テレビ長崎)