「埼玉県人にはそこらへんの草根でも食わせておけ!」

数々の“埼玉ディス”で埼玉ブームを巻き起こし、大ヒットとなった映画『翔んで埼玉』。その続編『翔んで埼玉~琵琶湖より愛をこめて~』が11月23日に公開された。

映画だけでなく、テレビでもよく題材になるこの「県民性」とは何なのか。

「どうして県民性は生まれるのか?」という疑問を全国約3万2000人にアンケートし著書を執筆した、京都芸術大学客員教授の木原誠太郎さんと、日経BP総合研究所客員研究員の品田英雄さんが「県民性」とは何かを語った。

「県民性」とは?

――例えばテレビでも「県民性」をテーマにした番組がありますが、何か定義みたいなものはあるのでしょうか。

木原誠太郎さん:
「県民性」というのは、日本の都道府県の各地域ごとの特色です。

京都芸術大学客員教授・木原誠太郎さん
京都芸術大学客員教授・木原誠太郎さん
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単なる性格や考え方だけじゃなくて、例えば乗っている自動車の金額や、住宅を買う購入金額など、全部のデータを含めた上での特徴が、大くくりで「県民性」となります。

品田英雄さん:
私は山形県生まれ新潟県育ちなので、転校するたびに「常識が違うな」ということを経験していて、自分の常識は他人の非常識みたいなことが県によってありますよね。

日経BP総合研究所客員研究員・品田英雄さん
日経BP総合研究所客員研究員・品田英雄さん

本当は県の中でもあるのかもしれませんが、その違いがあるから、いろいろなドラマが起きて面白いんだなと思います。

――「県民性」とくくっていますが、差別につながってはいけないわけですよね。

木原さん:
そうですね。ひとつの記号というかメッセージとして捉えてもらえれば、県民性自体も面白くなる。ひとつのワードだと思ってもらった方がいいのかなと思っています。

品田さん:
映画がすごいのは、違いが分かることが大切なんだけど、(違いに)こだわり過ぎると良くないなということも分かったりしていって、「同じ人間なんだからちゃんとやっていきましょう」ということが、だんだん伝わってくるという部分でも、すごく深い映画だと思っています。

続編の面白ポイント

――品田さんに、続編の面白ポイントを挙げていただきました。

品田さん:
今回は第1作目がヒットしたということで、(続編は)予算規模が全然違います。

海のシーンや『パイレーツ・オブ・カリビアン』のようなシーンだったり、『チャーリーとチョコレート工場』のようなシーンも出てきたりして、すごいのですが…。

まず、演じている出演者の背景経歴にも注目していただきたい。

俳優さんももちろん、役なのでフィクションですが、起用の時にその人がどこの出身なのか、その人のおじいちゃん、おばあちゃんがどこなのかというところまで気を使って配役を決めているようです。

もう一つは、“ディスり”(見下してけなすこと)から入っているのに、それがいつしか人類愛に感じるというところです。 

「埼玉県」にまつわるランキング

――埼玉県民を“ディスる”、いわゆる否定したり、見下したりするようなシーンも注目されていますが、木原さんの著書から「埼玉県にまつわるランキング」があるということでピックアップしてみました。

「『東京』および『東京の人』が好き」だというランキング。1位が「東京」というのは分かりますが、2位が埼玉。なぜ、東京が好きなのでしょうか。

※出典:ケンミンまるごと大調査
※出典:ケンミンまるごと大調査

木原さん:
埼玉を僕らは“東京の助さん格さん県”と呼んでいます。戦後の高度経済成長期において埼玉県は東京のベッドタウンだったんです。

少し距離は離れているので、「好き」というよりは「ちょっと憧れ」の気持ちを埼玉県の人は東京に対して持っているのかなと思います。

――3位、4位と関東圏が続いていますが、47位はどこなのか。

品田さん:
今回の映画の流れでいうと大阪?

――正解は奈良県。

木原さん:
なぜ大阪がそんなに高くないかというと、やっぱり都市部なので(大阪を)好きな人たちもいる。

奈良は昔ながらに塊が小さいというところもあるので、「(東京が)好きか嫌いか」と聞かれると、鮮明に出るのは奈良県となりました。

「自分は決断力がある」ランキングでは埼玉県は4位

――「自分は決断力がある」というランキングでは、5位の島根県と小数点第2の差によって埼玉県がちょっとだけ上ですね。

※出典:ケンミンまるごと大調査
※出典:ケンミンまるごと大調査

木原さん:
1位は東京都です。4位の埼玉がなぜ高いかというと、基本的に埼玉は集団行動を好む県民性なのです。普段は静かでじっとしているのですが、データを見てみると面白くて、やる時にはやる、決める時にはズバッと決めるという、埼玉県の県民性が出ています。

理系の方が若干、埼玉は多いのかもしれないですね。だからYES、Noがすごくハッキリしている。

――5位が島根県ですが、47位は鳥取県。隣なのにすごく差がありますね。

木原さん:
これは面白いなと思って、島根と鳥取はお隣なんですけど、性格が全然違ったりする。

割と鳥取県は優柔不断だったり、自己肯定感が低かったりするんです。

滋賀県民は「倫理観のない人間は嫌い」?

――滋賀県民のランキングもありまして、「倫理観のない人間は嫌い」というテーマで1位となっています。

木原さん:
滋賀県民の性格は、厳しさ、頑固さがすごく高く、協調性も高い。この2つが高い県民性です。

なぜかと考えると、近江路、近江商人に代表されるような宿場町や、大きな町であるということもあり、そこには新しい人がどんどん来るわけです。

「失礼があってはならない」という気持ちが働いているのではないかと思います。

4位の長崎もそうで海外から人が来た。違うところから人が来る地域の人は、少し厳しく教育をされる。「これしちゃいけません」「失礼があったらいけません」といった教育が昔からされてきたのではないかと推察されます。

「コミュニケーションはメールが主」1位は?

――「コミュニケーションはメールが主」というランキングでも滋賀県は1位ですね。

※出典:ケンミンまるごと大調査
※出典:ケンミンまるごと大調査

木原さん:
この質問の回答は「メール」「会話(実際会って喋る)」の2択です。

この「メールが主」というのは、(滋賀県民の)真面目な、実直な県民性が出ていると思います。齟齬、ズレがあってはならない。言った、言わないが嫌だという県民性。

私も京都の大学で話をすると、滋賀の人たちは「間違えたくない」「しっかりと伝わってほしい」ということで(私に)メールでちゃんと確認を取る。(滋賀県民には)そんな文化があるのかなと(感じました)。

――(滋賀県民の県民性にある)“近江商人”というバックグラウンドを聞いていると、納得しますね。

品田さん:
確かに“三方よし”という考え方があったりして、周りに気を配りながら、自分たちはもっと稼ぎますよ、ということを考えると、確かに滋賀はそういうところもあるのかなと思います。

「近江を押さえるものは、全国を押さえる」と戦国時代も言われていて、歴史好きからすると「長浜」や「佐和山」などの地名は普通なのに、確かに今は扱い少し軽いかなと思ったりしますよね。

“自虐”をPRに活用

――『翔んで埼玉』では“ディスり”というのもありますけど、自虐的にポジティブにPRとして活用する例というのもありますよね。

品田さん:
過去に大ヒットした例は、はなわさんの佐賀県をテーマにした歌。

(※2003年、佐賀県出身のはなわのヒット曲『佐賀県』。自虐的な“佐賀県あるある”を歌いあげたこの歌はオリコン初登場5位のヒットに。はなわは、2016年から佐賀市のプロモーション大使を務めている)

自虐も含めて、“自分たちの違い”を前面に出すことによって、特にSNS時代に話題になる、広がっていく、ということは大きいと思います。

――みんな来てもらうために、なぜ自虐的な例を使うのでしょうか。

木原さん:

これは県民性というより、国民性も関わってきていると思います。日本人は、謙遜の文化「いやいや、私なんて」という部分があり、これは海外では通じないケースが多々あるんです。

しかし、本当は全力で好きになってほしい。ですが、言い方としてどうしても“自分たちを落として、相手を立てる”が今のところの“県民性コミュニケーション”で割と多い手段かなと思います。

気になる県民性ランキング

――「自分の見た目に自信がある」というランキングで、2位は山梨県ですが、1位はどこだと思いますか。

品田さん:

さっきの振りからすると、やっぱり関西の名前を出した方が良くて、大阪か兵庫か…大阪かな。

※出典:ケンミンまるごと大調査
※出典:ケンミンまるごと大調査

――正解は、山形県です。

木原さん:
山形県の人はエリアによって少し違いますが、「自己肯定感」がすごく高い人たちが多い。「自己肯定感」というのは「自分はこういうことができる」「やりたい」と思えるようなことで、そういう気質を持った人たちがすごく多い。

1位から5位の特徴は何かというと、全部「自己肯定感」が上位に来る。「自分はこうありたい」というのがすごく強い人たちが上位にあるので、「見た目に自信がある」という表面的な見た目の自信も、そこに表れてくるのかなと思いますね。

――「結婚して幸せだ」と思うランキングもあります。1位はどこだと思いますか。

品田さん:
離婚率も高いけど…沖縄かな。

――1位は高知県でした。

木原さん:

この5県(高知・大分・広島・岐阜・岡山)の特徴は、「コミュニケーションが好き」ということ。特に高知県はすごく特徴的で、女性が少し男性気質なんですね。男性が少し女性気質、優しいというクロスした県民性を持っている。

一番結婚がうまくいくコツというのは、きっちり話すということと、最低限の生活ができているということ。この2つがあると、幸せ度が高くなると言われていて、高知県はそこに該当することが多いというデータが出ている。

――少し正反対な性格を持つような県民性だとお互いにうまくいくのでしょうか。

木原さん:
そうですね。話が盛り上がっていく。高知県に関して言うと、話の盛り上げがすごくいいというところがあると思いますね。

――47位の福井県は似たような性格の方が多いのでしょうか。

木原さん:
福井県はどちらかというと、合理的な人たちが男女共に多いです。

例えば、女性の就労率が昔からすごく高かったりすることも。そういった環境であったため、(夫婦で)コミュニケーションが取りにくい、ということもあるかもしれないです。

『翔んで埼玉』のヒットの要因

――こうした県民性をうまくテーマにしたのが、『翔んで埼玉』だと思いますが、ヒットの要因をプロの目から見てどう分析していますか。

品田さん:

普通は気がつかないような、小さなことを多少誇張しながら他の人たちに見せると面白くなっていって、(前作の場合)一番映画が見られたのは、大宮の映画館なんですよ。

自分たちがあれだけディスられても楽しいということで大ヒットしたんですけど、(埼玉県民は)よくわかってくれていて、そこをうまくイジる。“温かい”というのがヒットの秘密だと思いました。

木原さん:
誰が見ても分かりやすい。ちょっと陰湿になりがちなとこともあるんですが、あそこまで爽快にやっていただくと、(県民性が)伝えやすいのかなと思ったので、見ていてすごく面白いなと思いました。

(週刊フジテレビ批評」11月18日放送より

聞き手:渡辺和洋アナウンサー、新美有加アナウンサー)