緊急避妊薬の“処方箋なし”での試験販売がスタートする。 望まない妊娠を防ぐための大きな一歩になるかと思いきや、大きな懸念が3つあるという。長年この問題の発信を続けている「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表の福田和子さんに聞いた。

購入するための「要件」と3つの懸念

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今回の試験販売には要件が設けられている。 購入できるのは、調査研究の参加に同意した16歳以上の人で、未成年は保護者の同意が必要だ。 また、薬剤師の目の前で薬を飲まなければいけない。

薬局側も祝日や夜間の対応が可能なことや、購入者のプライバシー確保が可能なブースなどを設けることが条件となっていて、参加する薬局は約150軒となっている。

福田さんは「一歩前進したとはいえ、本当に必要な人に薬が届かない制度設計になっている」と指摘していて、大きな懸念として3つあげている。
1、買える薬局が少なすぎる(全国約150の薬局が対象)
2、16~18歳は保護者の同意が必要
3、価格が高すぎる(1回7000~9000円を想定)

「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表 福田和子さん:
これまで長く緊急避妊薬を薬局で売るかどうかという議論がなされてきました。少しでもアクセスをよくするために実際に薬局で売るとしたら、どのような販売方法がいいのかということで、今回の試験販売ということになりました。緊急避妊薬はなるべく早く飲んだ方が効果が高い薬です。全国で150店舗しか買える薬局がないのであれば、1県に3軒程度しかなく、非常に少ないと思います。地方などで産婦人科にアクセスできない、緊急避妊薬にアクセスができないという人が多いという問題に対して、全く改善策となっていません。

次に保護者の同意が必要という要件。緊急避妊薬が必要となる背景は、性暴力や避妊の失敗などいろいろありますが、16歳から18歳という多感な時期に、親にこれを言える人はなかなかいません。でも彼らこそ望まない妊娠をした時のリスクが高く、もしかしたら学校を辞めなくてはいけないような状況に追い込まれる子もいます

現状は1万円ぐらいで提供されていて、ずっと値段が1番のハードルでした。今回も7,000円から9,000円という値段で、ほとんど変わらないので、アクセスの改善になっていません。今回のこの試験販売では、どのような提供方法が良いのかを調べることが目的なのに、アクセスが全然できないのであれば、この意義自体がよくわからないものになってしまいます

試験販売をしても利用する人が少ないと、緊急避妊薬を本当に必要としている人の数や声を拾い上げることができないということだ。

「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表 福田和子さん:
このままだと、緊急避妊薬へのアクセスは全然改善しないと思います。一体どれだけの人がアクセスするのか…。

今回の試験販売の目的は?

そもそも、なぜこのような形での試験販売制度になったのだろうか?

「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表 福田和子さん:
緊急避妊薬については2017年に議論がされて、却下されて、2021年からまた議論が開始されて、7回も厚労省の中で議論がありました。特に日本産婦人科医会が反対、慎重の姿勢を示していていました。そのような状況で何かできないかということで、本来のOTCのプロセスにはない試験的な運用というのが決まりました。

そうすると、今回の試験販売は何が目的なのだろうか?

「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表 福田和子さん:
もともとは課題の洗い出しとか、どのような提供方法が望ましいか、ということでしたが、洗い出しようがないのではないかという状況です。世界では薬局で売られているもので、国際的な基準もある中で非常に疑問です。

今回の試験販売のやり方には、ちょっと問題がありそうだ。

「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表 福田和子さん:
今年初めに、緊急避妊薬の薬局販売に関して、国でパブリックコメントというのを募集しました。あらゆる薬の実証化の際にはパブリックコメントが募集されますが、だいたい10件あるかないか。だけど今回は4万6千件の声が集まって、98%が早く売って欲しいという声でした。ですので今回の試験の規模があまりにも少ないので、数は少ないかもしれませんんが、世の中のニーズがあるということは是非、伝わってほしいです。

女性に必要な医療としての緊急避妊薬

では日本で今後、本格的に運用することとなれば、どのようなやり方が良いのだろうか。 海外では入手しやすいという状況がある。処方箋なしで薬局で緊急避妊薬を入手できる国というのは世界ですでに90カ国以上もある。

値段も差があり、日本の試験販売では約7,000円~約9,000円とされており、ドイツでは約2,200円、アメリカでは約4,200円~5,300円、イギリスやフランスでは約900円です。学校などで配っている国もあり、親の同意もいらないという国も多いということだ。 日本は遅れていると思うし、海外に追いつくことはできるのだろうか。

「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表 福田和子さん:
WHOが全ての少女、女性が緊急避妊薬を必要とすればアクセスする権利があるというものを出していて、それに基づいてこのような値段設定がされてます。この価格設定は薬局で買った場合なのですが、医療機関に行けば、若者は無料や、全ての人が無料としている国も少なくありません。避妊などの女性にとって必要となる医療が、当然の医療としてみられている、権利としてみられているという根本的な認識の違いがあるんだなと感じています。

試験販売を経て、本格運用となった時にどのような制度になってほしいと考えるのだろうか?

「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表 福田和子さん:
必要な人が確実に安心して入手できるという状況になってほしいと思っています。私たちのこれまでの調査でも、アクセスしにくいと思う人が95%以上いるとなっています。妊娠を防ぐ最後のとりでなわけです。それがここまで入手しにくい状況というのは、一刻も早く変わる必要があると思います。

薬剤師の目の前で飲まなければならないという要件もあるが…。

「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表 福田和子さん:
面前内服をしなければならない国なんて、日本以外どこにもないです。何のエビデンスもないです。なるべく早く飲みたいという人が、例えば薬局で「お水ください」といって飲むなどの選択であればいいと思います。なぜ面前内服を要件としているかというと、悪用や転売するかもしれない、それを防ぐためです。女性を信頼していないという根本的な理由があります。これが非常に問題だと思います。

緊急避妊薬で「子供を産めない体になることはない」

視聴者から質問がきている。

――緊急避妊薬の副作用は大丈夫ですか?

「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表 福田和子さん:
緊急避妊薬はWHOの必須薬品リストという、安全で質も高く効果の高い薬のリストに入っています。必要最低限の安全な薬と言われています。妊娠初期や妊娠していて間違って飲んでしまったとしても、胎児に影響もないです。

街の声でも「子供を産めない体になってしまうのではないか」と心配する声もあったが、その心配はないということだ。

――飲めば妊娠しないと、男性が安易に考えてしまわないか心配です。

「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表 福田和子さん:
「残念ながら今すでに、緊急避妊薬へのアクセスがあろうがなかろうが、避妊しない人はしていない、してくれない、という状況があります。そういう男性のために、なぜ妊娠してしまうかもしれないという不安に怯える女性から妊娠を防ぐ最後のとりでを奪われなければいけないのかと思っています。すべきことは、そういう人がいるから緊急避妊薬へのアクセスを制限しようではなく、性教育などだと思っています。

男性側のモラルや責任もしっかり問われるべきだ。

――SNSなどで紹介されている避妊薬は買っても大丈夫?

「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表 福田和子さん:
偽薬の可能性もあります。東南アジアだとかだと数100円で売っていたりするので、それを日本で転売するのは簡単なことですけれど、危険もあるのでやめていただきたいです。ただ、それにアクセスする人がいるぐらい追い詰められている、そのぐらい今アクセスが悪いということは伝わってほしいです。コンドームがない性行為の場合、性感染症の可能性もあるので、アクセスが良くなることで薬局などで情報や必要なケアにつながるきっかけになればと思っています。

希望する場所や時間で購入することができるようになれば、便利になると思うが、薬局選びなど、今後、広がりを見せるのだろうか?

「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」共同代表 福田和子さん:
薬局の強みというのは、コンビニよりも実は数があると言われている所ですね。産婦人科は本当だったら10代から行きやすくあるべき場所のはずなんですけど、日本だと妊娠した人が行く場所のようなイメージがあるのでアクセスしにくい。そういう意味では薬局で幅広く日本のどこにいてもアクセスできるものになってほしいと思います。

(関西テレビ「newsランナー」 2023年11月20日放送)

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