福島県いわき市の中心部から山間部まで路線バスを運行する新常磐交通。15路線・距離にして49.58キロを2024年4月に廃止する計画を示した。運転手不足に加えて、路線バスで発生する年間・約2億5000万円もの赤字も重くのしかかる。
これまでにない規模での廃止
赤と白の車体が特徴的な「新常磐交通」の路線バス。80年間、いわき市民の足として運行されてきが、これまでにない規模で路線の廃止が計画されている。拘束時間が長いことや他の職種に比べて給与水準が低いことなどから運転手不足が深刻で、2024年4月から15路線・49.58キロを廃止する計画。
この記事の画像(15枚)新常磐交通の門馬誠常務は「高速バスや貸し切りバスより、生活交通に係る一般路線バスに人員を投入しているが、それでも足りない」と厳しい状況を語った。
少子高齢化が進む地域を通る路線も
廃止が計画される15の路線のなかで、距離が最も長い「入遠野」線は少子高齢化が進む地域を通る。バスと電車を乗り継いで通院している女性は、最寄りのバス停は減便の計画が示されていて、バスの本数が減ると通院しづらくなるという。「送迎してくれる病院ばかりではない。バスだと片道の運賃は790円。タクシーだと6000円・7000円」と困惑している。
年間2億5000万円の赤字
廃止が計画されている路線のほとんどは「赤字路線」。新常磐交通は、福島県といわき市の補助を受けているが、路線バスの赤字額は年間・約2億5000万円に上っていて、路線の廃止を計画という状況に至った。
新常磐交通の門馬誠常務は「この赤字系統が2億・3億続けば、会社の維持が難しくなる。バス事業そのものをなくすということになると、それはそれで大きな影響出てくるので、赤字の縮小化をやっていかなければいけないのも事実」と話した。
代替の交通手段確保へ
バス路線の廃止計画を受けていわき市は、代わりの交通手段の確保に向けて検討を加速させる考え。三和地区や田人地区では、ボランティアによる輸送が始まっていて、利便性の改善に向けて調整を進める。また久ノ浜地区などでは、タクシー会社と連携して定額タクシーの実証実験を2023年度中に始める計画で、遠野地区では2024年春のスクールバスの導入に向けて協議を進めている。
いわき市の内田広之市長は「当初想定していたよりも、2倍速3倍速でやっていかなきゃいけないと思っている。地域と対話をしながら、スピード感を持ってやっていく」と話した。
他地域の路線バスも厳しい現状
福島県の会津地方で営業する会津バスでは、55路線のうち赤字なのが4路線。福島県・中通りで287路線のバスを運行する福島交通にも、赤字路線は存在している。
今回の新常磐交通の路線バス廃止の背景には、新型コロナの影響や人口減少に伴う利用者の減少。さらにはドライバー不足などが挙げられ、これは福島交通や会津バスにも共通するという。
新卒入社が少ないバス業界
新常磐交通によると、バスはあるのに運転手がいない状況だという。運転手の定年退職が相次ぎ、中途入社も40代・50代で運転手の平均年齢は58歳。福島県バス協会に話を聞くと、早朝出勤や土日の勤務もあるバス業界では新卒入社は少ないという。さらに給料が安いことも若手不足に拍車をかける。以前は路線バスの赤字を黒字の高速バスで補填していたが、コロナ禍で高速バスも赤字になり、賃金が上げられない状況だという。
2024年問題は路線バスにも影響
労働規制の強化で、2024年からは年間労働時間の上限が3300時間に引き下げられる。また、退勤してから次の勤務までの休息時間が、これまでの8時間から11時間・最低9時間となる。ドライバーの健康を守るためでもあるが、残業が少なくなり手取りが減るなどの心配もある。会社側も1人で出来たシフトを2人で行うようになったり、人件費が経営を圧迫すると福島県バス協会はいう。
行政も補助金で支援
赤字路線に対する支援の一つに、行政の支援がある。2022年度、福島県は赤字のバス路線に2億5000万以上の補助金を出している。
バス会社も努力続ける
そしてバス会社も、新常磐交通が計画を示したような路線の廃止や減便などで赤字が拡大するのを防ごうとしている。会津バスは、効率的にバスを運行するために「AIオンデマンドバス」という取り組みを導入している。利用希望者が、電話や専用アプリで乗車のリクエストを出すと、AIが効率のいい運行ルートやスケジュールを作るというもの。
黒字路線にも支えが必要
交通政策などを研究する福島大学の吉田樹准教授は、赤字路線を無くしてもすぐに経営が黒字化される訳ではないことから、黒字路線に対しても「行政の支え」が必要だと話す。
高齢化も進み、バスなどの移動手段が必要になる人が増える未来は目に見えている。一つの地域づくりとして、待ったなしの課題といえそうだ。
(福島テレビ)