岸田首相は「サザエさん」を見ているか

「サザエさん症候群」という言葉があるらしい。「サザエさん」(日曜夜6時30分にわがフジテレビ系列で放送)の時間の頃になると、翌日の月曜に会社や学校に行くのがイヤで、憂鬱になることなのだそうだが、岸田文雄首相も最近は「サザエさん」を見ながら暗い気持ちになっているかもしれない。

なぜなら月曜には大体どこかのメディアが新しい世論調査の結果を発表するのだが、ここのところ毎週のように内閣支持率が「発足以来の最低記録」を更新し続けているからだ。

 FNN世論調査より(11月11日・12日実施)
 FNN世論調査より(11月11日・12日実施)
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そして今週もFNN(フジニュースネットワーク)・産経新聞の調査で8ポイントダウンの28%、NHKが7ポイントダウンの29%で、いずれも「発足以来の最低記録」、かつ「政権維持の危険水域」である30%を割り込んだ。

何をやっても裏目に出て、支持率が上がる気がしない。なぜここまで人気がないのか。

日本保守党への期待

一方で、作家の百田尚樹氏らが立ち上げた日本保守党の大阪での街宣の熱狂ぶりには驚いた。想定以上の人が集まったため危険であるとして、警察の要請で中止になったのだが、画面で見ているとすごい数の人が集まっているのに、ほとんどの人が静かに百田氏の演説を待っていた。

人々が「政治の変化」を熱望する一つの理由は岸田政権への不満だ。

日本保守党の結党記者会見(10月17日)
日本保守党の結党記者会見(10月17日)

日本保守党の結党宣言には「LGBT理解増進法にみられる祖国への無理解によって、日本の文化や国柄、ナショナル・アイデンティティが内側から壊されかかっています」とある。

このLGBT法の成立を境に岩盤保守層が自民支持から離れた、だから支持率が低迷している、とよく言われるのだが、実は離れただけではない。彼らは岸田政権の敵に回ってしまった。

今回の「減税騒動」では、当初多くの保守派論客が減税を求めたのだが、岸田首相が打ち出した所得減税には満足せずに批判を繰り返し、これがネット上で「増税メガネ」という悪口につながり、保守派でない人達にも広がった。保守派が火をつけた「減税騒動」は今や岸田政権を倒せという国民的なムーブメントにもなりかねない勢いになっている。

権力の空白による政治の混乱は拡大する

安倍晋三元首相が暗殺されて1年4カ月がたった。安倍氏が日本政治の中に持っていた強大な権力が突然なくなり、そこは空白のままだ。ぽっかりと穴があいたようになっている。そして権力に空白ができると必ず政治的混乱が訪れる。

安倍氏は生前、保守層の自民離れに危機感を持っていた…
安倍氏は生前、保守層の自民離れに危機感を持っていた…

安倍氏は生前、保守層の自民離れに危機感を持ち、一昨年の自民党総裁選では高市早苗氏を推して、党内の政策論争の軸を左寄りから真ん中から右に戻す役割を果たした。リベラルな河野太郎氏が脱原発や女系天皇論を封印したのは安倍氏ら党内保守派への配慮だったと言われている。

しかし安倍氏の死後、岸田政権の政策の軸は左に触れ、保守層は敵になってしまった。

ここまで書いたところで時事通信の世論調査の結果が入ってきた。内閣支持率が5ポイント減の21%というのも、20%を切りそうですごいが、それより驚いたのは自民党の支持率が19.1%に落ち込んでいるのに、野党第一党の立憲民主党も2.7%に下がっていることだ。そして支持政党なしが60%を超えている。空白は権力だけでなく政党支持にも及んでいる。

権力の空白を誰が取るのか、そして支持先を失った有権者がどこに向かうのか、今は見当もつかない。いずれにしてもしばらく政治の混乱は続くのだろう。
【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。