100年ほど前に建てられた歴史的建造物が今、存続の危機に立たされている。解体か、存続か。岐路にある文化遺産への人々の思いに迫った。

歴史ある建物が続々と解体されている

10月28日に開かれた、「生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪」、通称「イケフェス大阪」。毎年秋に、大阪にある歴史的建造物などを無料で一斉公開するイベントだ。

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参加者:
(階段の)デザインもいいし、カーブとかも良かったなと思いました
参加者:
かっこいい建物で、改装はされているけど、当時のものをそのまま残されていて。ずっとカレンダー(の今日の日付)に丸をつけていて、来ました

例年、2日間で延べ5万人以上が参加するこのイベントは、今年も大盛況となった。

歴史的建造物が人々に愛されている一方で、実はここ数年、100年ほど前の建物が街からどんどん姿を消しているのだ。

国が、歴史的価値があると認めた「登録有形文化財(建造物)」でも、解体される建物が増加。文化庁のデータによると、2015年から急激に増えている。

なぜそんなことが起きているのか、建築史が専門の大阪公立大学・倉方教授に聞いた。

阪公立大学 倉方俊輔教授:
人口の集中する場所が変わってくることが、過去の中心地にあった立派な建物が危機にひんしていることの大きな背景です。メンテナンスして使っていくというのも、それなりの知恵とお金が必要になってくる。使い続けるよりも、なくしてしまうという選択肢もありえると思います

戦後まもない昭和34年に建てられた「世田谷区役所」も…

しかし、一度壊してしまったものは、二度と元に戻ることはない。

昭和34年(1959年)に建てられた、東京都の「世田谷区役所」は、戦後間もない時代に「区民のための建物を」と、建築家の前川國男が設計したものだ。

大阪公立大学 倉方俊輔教授:
戦前の建物のように表面性が強くて、正面から見ると左右対称になっているとか、そういう建物ではなくて、360度どこから見ても何か面白さがある。外部の広場は、大きな内部の居間のようでもある。前川さんの建物は、建築は装飾ではなくて、“市民のための場を作る”ということなんです

世田谷区役所はおよそ60年にわたって区民に愛されたが、老朽化などを理由に取り壊すことに。一部を残し、現在、解体作業が進められている。

解体の危機から逃れた木造の小学校

一方、解体する方針だったものがひっくり返った例も。昭和9年(1934年)から12年(1937年)にかけて建てられた、兵庫県西脇市の「西脇小学校」だ。

地場産業の繁栄をきっかけに、巨額の公費を投じて作られた木造の小学校。耐震性に問題があるとの理由で、一時は建て替えの方向に進んでいた。

西脇小学校の卒業生で、絵本作家として活動する吉田稔美さんは、約10年前に新聞記事で建て替えの方針を知った。

吉田稔美さん:
こんなに美しいものをどうしてなくすのかというのがありましたし、先人たちが思いを込めて、良い材木を寄進したり、“西脇の子供たちに立派な校舎を”と思って造った校舎なんです

住民や地元出身の著名人たちから保存を望む声が上がり、建築の専門家から「工事を行えば耐震強度を上げることは可能」という判断が出たことで、解体は再検討されることになった。

その後、耐震補強工事を行い、木造校舎を使い続けることに決定。改修には、およそ11億円の費用が掛かったが、4年前に工事を終え、今も現役の校舎として活躍している。

吉田稔美さん:
山があって、美しい設計の校舎がある。この光景をみんな見て、残っていくのは記憶の継承だと思う

吉田さんは、愛情が存続の鍵だと話した。

吉田稔美さん:
地元の人たちの愛情がないと残せないことは確かで。例え、外の地域に住む人が美しいと思っても、なかなかそれだけでは残せないというのがあるのかなと思いました

ここに通う児童も、木造校舎に対する思いを持っているようだ。

西脇小学校の児童たち:
この木造校舎で勉強するのは好き。嫌いな勉強でもがんばれるような気がする。
古くから建てられているので、木もあったかいなって感じ。掃除とかも丁寧にして、次の人に気持ちいいなって思われるようにつなげていきたい

西脇小学校は2021年、市内では初となる国の重要文化財に指定された。今後、校舎に手を加えるには、文化庁長官の許可が必要だ。

建物の存続には市民の愛着や働きかけが重要

兵庫県加古川市にある「旧加古川図書館」。昭和10年(1935年)、国立機関や県庁などを手がけた建築家・置塩(おしお)章の設計で、当時は加古川町の公会堂として建てられた。毛織物などの産業で栄えた加古川の歴史を、象徴する建物だ。

そして50年ほど前に改修工事を施し、図書館に。これは当時としては画期的なことだった。

大阪公立大学 倉方俊輔教授:
今から半世紀前に公会堂から図書館に用途を変えている。非常にチャレンジングなこと。それを今、またコンバージョン(用途変更)がポピュラーになっている今、なぜ壊すのか

建設からおよそ90年にわたり、市民に親しまれてきた図書館だが、2年前に耐震性などの問題で閉館しました。その建物が今、解体か存続かの岐路に立っている。

旧加古川図書館の利活用を考えている井上さんは、こう話した。

paku paku park 井上津奈夫代表:
立派な作品というだけじゃなく、私や、もっと前の先輩も含めて、生活が染み込んでいるんですね。この建物だけの運命じゃなく、加古川市の財産全てを背負っている。これが残せなかったら、加古川市が今まで積み上げてきた歴史・文化がすぽすぽ抜けて行ってしまって、残っているものは何なのか。(建てた)90年前の人たちにも恥ずかしいですね

加古川市内でステンドグラスの工房を営む神田洋子さんは、14年前に自ら申し出て、旧加古川図書館のステンドグラスを無償で修理した。

ステンドグラス作家 神田洋子さん:
やっぱりステンドグラスがいいわ。ワンダフルや。(14年前は)ガラスが割れていました。気になって、(修理)させてもらおうって。使えるガラスは全部使って、きれいに直したら、また100年持つかなって。ずっとあってほしい

2023年6月、地元の建築関係者が一般向けに開いた旧加古川図書館の見学会は、館内全てのエリアに立ち入ることができる、貴重な機会だった。

凝ったデザインのステンドグラスなどを見て、参加者は…。

参加者:
ステンドグラスがすごくきれいだったのが印象的でした。色んな人が気軽に使えるような、目に触れられるような建物として、残っていくといいんじゃないかなと思いました
参加者:
そりゃ誇りですよ。唯一やからね。それをなくすというのは、ちょっと惜しまれますね

解体か、存続か…揺れる旧加古川図書館。専門家は、古くなった建物を生かすには、地元の人の愛着や、使い続けるための働きかけが重要だという。

大阪公立大学 倉方俊輔教授:
改修されたり、活用されている建物って、そういう結果が出ると“なんでこんなものを壊そうと思ったんだろう”とみんな思うんですよ。そのきっかけは、市民がその後の未来を見つけたからこそ、実際にそれが再び輝きを取り戻したり、過去のいいものだって誰しも納得するものになっていく。残す方向でかじを切るのは、やっぱり市民じゃないとできません

およそ90年、この地で市民を見守ってきた旧加古川図書館。今後、この歴史的な建造物に手を加え、使い続けていくかどうか。その行く末は、市民たちの思いにゆだねられている。

(関西テレビ「newsランナー」11月8日放送)

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