JAFが10月に発表した、2023年の「信号機のない横断歩道で車が一時停止した割合」は45.1%だった。

この割合は年々高まっているが、依然として約55%が一時停止を無視している。

なぜ「歩行者優先」のルールが守られないのか。交通事故鑑定人の中島博史所長に話を聞いた。

横断歩道は歩行者が優先

ーー一時停止しない理由は?

横断歩道での一時停止は、法律的な義務であるにも関わらずそれを怠るのは、運転手側に思い上がりがあるからだと思います。

自分の車が優先だという意識が強く、本来、歩行者に配慮しなくてはいけない場面でも止まらず走行する。

また、停止したら後ろの車にぶつかられるかもしれないとか、対向車線の車も停まっていない、1台ぐらい待たせても歩行者は困らないなど、自分の考えを正当化する人もいます。

交通事故鑑定人・中島博史所長
交通事故鑑定人・中島博史所長
この記事の画像(12枚)

ーー信号がないから進んで良いと思っている?

ルールとしては、歩行者が横断歩道を渡ろうとしている時は、車は停止しなくてはいけませんが、それを知らないまま運転している人がいます。

法律を知らなくても免責されるわけではなく、違反です。
運転をするのであれば道路交通法などを知る義務があり、知らなかったというのは理由になりません。

信号機のない横断歩道 車の一時停止率(JAF調査より)
信号機のない横断歩道 車の一時停止率(JAF調査より)

信号機のない横断歩道は歩行者が優先です。
渡ろうとしている人がいたら、車は止まらなくてはいけません。

歩行者による意思表示も大事

横断歩道での一時停止義務を無視するドライバーが横行するなか、中島氏は、歩行者も「渡る意思」をはっきり見せる必要があると話す。

一時停止を怠り少女と接触した車(提供:東京農工大学スマートモビリティ研究拠点)
一時停止を怠り少女と接触した車(提供:東京農工大学スマートモビリティ研究拠点)

ーー横断歩道で車と歩行者は、それぞれ何に注意が必要?

まず車は、横断歩道を歩行者が渡ろうとしていたら停止しなくてはいけません。これは心掛けではなくて法律で決められているので、ルールとしてきちんと覚えなくてはいけません。

また、横断歩道の手前には「横断歩道があります」という標識や、道路にダイヤマークがあります。それに気付かない運転をしているようであれば不適格な運転ということです。

(イメージ)
(イメージ)

一方、歩行者も、横断したいのか、単にその場所を歩いているだけなのか、判別しづらい時があります。

昔は横断用の旗がありましたが、最近は撤去されているところが多く、歩行者は横断する意志をはっきりと見せる必要があります。

手を挙げて「自分はここを渡ります」と意思表示することで、事故は避けられるはずです。

(イメージ)
(イメージ)

横断歩道は歩行者優先ではありますが、そのルールを守らない車がいる以上、危険な車が走行していることをきちんと認識して、万一のことも考慮しながら渡らないといけません。

(イメージ)
(イメージ)

ーー歩行者と車の接触事故はどういう状況が多い?

横断歩道で歩行者のために止まった車に対して後ろからクラクションを鳴らしたり、停止した車を反対車線にはみ出して追い越す車があります。

これは明らかにルール違反で、極めて危険な行為です。
止まっている車の裏から別の車が突然飛び出してきて歩行者と接触する事故があります。

自分を守るためには、「ルールを守らない人がいる」ということを前提に注意しないと、危険を回避することはできません。

“だろう運転”が事故の原因に

こうした中、「人は飛び出して来ないだろう」などといった、いわゆる“だろう運転”が事故を引き起こしていると中島氏は指摘する。

ーー「ギリギリまで歩行者が見えなかった」というドライバーも多いが?

車には、横断歩道で歩行者が見えなかったら危険を察知するためにスピードを落とす義務があります。

(イメージ)
(イメージ)

ブレーキが間に合わなかったというのは単なる言い訳で、歩行者がいた場合はきちんと止まれるような運転を常にしなくてはいけません。

「人は飛び出して来ないだろう」「自分の進路を妨げるものはないだろう」といった、いわゆる“だろう運転”が問題です。自分に都合の良い予測をして運転する人が多いのが事実です。

「道路は歩行者が優先である」というのはルール上確定していることなので、それに対して注意を怠り、言い訳をしてもダメです。

(イメージ)
(イメージ)

ーー信号機がない横断歩道は油断しがち?

なぜ運転免許証があるのかというと、本来禁止されているものを特別に訓練をして、きちんと法律知識を学び、操作しても良いと許可されたから運転できるのです。

それにも関らず、慣れてくるとルールを守らなくてもいい、きちんと法律を知らなくてもいいという思い上がり、自己中心的な考え方に染まっていき、危険な運転をしてしまうということだと思います。

本来ならそういった人たちからは免許更新の時などに、免許を取り上げるようなシステムも必要なのかもしれません。

心理的な視野の狭窄

では、運転中どういった心掛けが必要なのか。

中島氏は、信号機と同じように一時停止線を普段から意識するようにすれば、おのずと歩行者にも気付きやすくなると話す。

(イメージ)
(イメージ)

ーー一時停止する割合は都道府県によって異なる?

JAFの調査では、8割以上の車が、歩行者がいた場合きちんと止まる県もあれば、2割程度しか止まらない県もあります。

東京都はルールの周知が進んできていることと、警察が重点的に取り締まりを行っていることなどから、一時停止する車の割合は全国平均で見ると高い方です。

また、都市部にはさまざまな人がいるということで、防衛的な運転を心掛ける人も多く、これは“自分の身を守る”、“自分がトラブルに巻き込まれないためにルールを守る”といった都市部の傾向です。

一時停止率の1位は確か長野県で非常に優秀です。

(イメージ)
(イメージ)

ーー信号機があれば止まるが、無いとなぜ止まらない?

交差点の赤信号を突っ切ろうとしたら、交差する車と衝突して自分もケガ、あるいは死ぬ可能性があります。

一方、信号機のない横断歩道で歩行者と接触しても、運転手がケガをすることはほとんどありません。自分へのダメージが低いために意識が甘くなるのだと思います。

他人を軽視して、自分の生命を大事にする傾向だと考えます。

(イメージ)
(イメージ)

また、信号機があるか無いかで、心理的な視野の狭窄(きょうさく)、注意力の配分の不適切が起きています。
信号機があれば信号に注目するのに、横断歩道の標識にはなぜ注目しないのか。
注意喚起の表示に十分注意を払っていないために、標識の見落としが生じるのだと思います。

自分がダメージを受ける可能性が低いので、ルールを守る意識が減る。
注意力の油断、あるいは、「急いでいる」といった主観的な自己中心的な考え方というのが、違反のもとになると考えます。