運転手の労働環境を改善するため、2024年4月から労働時間制限が強化される。これにともない、輸送能力の低下や運転手不足に拍車がかかることなどが懸念される、いわゆる「2024年問題」が輸送業界に迫っている。
山陰の企業も例外ではなく、苦しい状況の中で対策に追われている。

業務形態の切り替えで“持続可能”な対応を

国の働き方改革関連法により、2024年4月から、プロの運転手の時間外労働に年間960時間の上限が設けられるなど、様々な規制が強化される。運転手1人あたりの労働時間が減ることになるが、人手不足の中、これを補うために運転手の増員を図るのは難しい状況だ。
逆に、残業時間の削減などによって給与が減少し、離職者が増えることが懸念されている。

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一方で、もうひとつ課題となっているのが、輸送能力の低下だ。
こうした状況の下、島根・出雲市の運送会社では、抜本的な改革に取り組んでいる。

業務形態の変更について話す、錦織運送・錦織正社長
業務形態の変更について話す、錦織運送・錦織正社長

「“2024年問題”をクリアするため、地場配送を中心とした新しい形態に変えた」と話すのは、錦織運送(出雲市)の錦織正社長だ。運送業界では、労働時間の削減により運転手1人あたりの走行距離が短くなり、長距離輸送のハードルが上がっているが、この会社では、これまで業務の中心だった関東地方への配送を2020年に全て取りやめ、山陰エリア内の近距離輸送に注力しているという。

地場配送を中心にしたことで人員を増やさずに業務の維持が可能に
地場配送を中心にしたことで人員を増やさずに業務の維持が可能に

これが時間外労働の短縮にもつながり、現在25人いる運転手だけで、2024年4月以降も、今の業務を維持できるということだ。

ドライバーからも「長距離の配送に出ると、移動の時間もあって、行った先で荷待ちもある。近場の配達だとそういうことがないので、プラスにとらえている」「決められた時間で終わって家に帰れるので、気分的に楽」などの声が聞かれ、地場中心の配送に徹する体制への切り替えは、現場にも好評のようだ。

業務の形態変更はドライバーからも好評のようだ
業務の形態変更はドライバーからも好評のようだ

また、配送拠点を新たに出雲市の本社から30km余り離れた松江市にも整備。客先の近くから向かうことで集荷時間を短縮するなど、コスト削減やシステムの見直しにも取り組んでいるという。

長距離配送をやめたことで売り上げは減少したが、会社として“持続可能”な道を優先したそうだ。

錦織運送・錦織正社長:
長距離は大型車で走るので、燃料価格の影響を受けやすい。距離を走らずして、いかに売り上げを立てるかに注目している。

バス業界でも深刻な運転手不足

生き残りに腐心するのは、物流だけではない。

デビューしたての“新米運転手”中島英継さん
デビューしたての“新米運転手”中島英継さん

鳥取市内で路線バスを運転する中島英継さん(41)は、2023年9月下旬にデビューしたばかりの“新米”運転手。運転だけでなく、出発前の点検なども重要な仕事だ。

新米ドライバー・中島英継さん:
オイルの量のチェックです。量が少なかったり、多かったりするとよくないので。だいぶ慣れましたね

2023年7月、鳥取市のバス会社「日本交通」に入社した中島さん。高校卒業後、工場やガソリンスタンド勤務などを経て、車の運転が好きだったことから応募した。

バスの運転は未経験者だった中島さんは、採用後に大型2種免許を取得。会社としても、新人ドライバーのデビューを待ちわびていた。

新たな運転手のデビューに職場からも歓迎の声が
新たな運転手のデビューに職場からも歓迎の声が

先輩ドライバー:
うれしいですよ。貴重な人材ですよ、本当に。

現在、バス業界も深刻な運転手不足に陥っていて、これに追い打ちをかけるのが「2024年問題」だ。法改正後は、運転手を増やさないと現在の運行ダイヤが維持できなくなるという。

コロナ禍を経て、運転手は3年前に比べ1割減
コロナ禍を経て、運転手は3年前に比べ1割減

中島さんが在籍する鳥取営業所の運転手は70人。コロナ禍でバスが運休に追い込まれたことによる離職もあり、3年前に比べ1割減っている。

2023年度から運転手の給与を約1割引き上げたのをはじめ、県外からの移住希望者を対象に見学会を開くなどした結果、中島さんを含め、3人を運転手として採用することができた。
しかし、それでも運転手は不足。さらに5人ほど必要な状況だという。

日本交通バス営業部・山本高広次長
日本交通バス営業部・山本高広次長

日本交通バス営業部・山本高広次長:
今、需要が戻ってきていますが、それに対応しきれなくなってきている。運転手の高齢化も進んでいるので、人を採用していきたい

労働環境の改善はもちろん重要だが、慢性的な人手不足に適切に対応できなければ、物流コストの上昇による物価高や公共交通機関の縮減など、計り知れない大きな影響を社会に及ぼすことになる。
それだけに、「2024年問題」をクリアするためには、企業の努力に頼るだけでなく、地域が一体となって取り組んでいくことが必要になる。

(TSKさんいん中央テレビ)

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TSKさんいん中央テレビ

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