目の前にいる苦しむ家族。助ける方法があるのに、助けることができない。今、日本でそうした状況に置かれた患者とその家族が多くいるということを知っているだろうか?
誰もが隣り合わせの移植医療
脳死と判定された人の体から、臓器を取り出し病気で苦しむ患者へ提供する移植医療。多くの人は免許証や保険証の裏側に、亡くなったときに臓器提供をするかしないか、意思表示を書いておく欄があることを知っているだろう。しかし、自分にはあまり関係のないことだと感じていないだろうか。
![](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/b/7/700mw/img_b75fe5e5a501ba69ab92353172af1fbd189005.jpg)
実は、誰もが移植医療を受ける患者になる可能性があり、一方で臓器を提供するドナーになる可能性もあるのだ。そして、その瞬間は突然やってくる。だからこそ、移植医療についてよく知り、家族と考えておくことが大切だ。
日本の臓器提供は26年間で1000例
10月28日、中四国地方の病院で、脳死と判定された60歳代の男性の体から、心臓・肺・肝臓・腎臓と4つの部位が摘出され、病気と闘う5人の人に移植された。そしてこの日、日本臓器移植ネットワークは臓器移植法に基づく脳死判定が、累計で1,000例に達したことを発表した。
1997年の改正臓器移植法施行から26年、1,000例という数は、1年に38件のペースになる。これを、多くの関係者は少ないと評している。確かに、諸外国と比較すると、歴然と移植後進国であることがわかる。(日本の100万人あたりの臓器提供者数は、アメリカやスペインの約60分の1、韓国の15分の1)。
![(2019年のデータ)](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/0/3/700mw/img_03859e36fdd5776230fc984fe9e3740e28124.jpg)
2023年は、すでに、年間移植数が100件を超え、過去最多となっているため、移植医療への理解は徐々に進んでいると言える。しかし、現在、臓器移植を待つ人は年間約1万6,000人もいて、そのうち移植できる人は1年にわずか約3%にすぎない。
提供者は圧倒的に足りていないのだ。移植が叶わず亡くなる人が多くいるというのが日本の現実だ。なぜ日本の移植医療は進まないのだろうか。
![年間1万6000人の人が移植を待つ](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/a/c/700mw/img_acde518fe80076db5c6c670cebcdb0bc130687.jpg)
家族の決断が死を決める
そこには、法律がある。多くの国では、脳死は人の死と定めているのに対し、日本では家族が臓器提供を決断したときだけ、脳死が人の死になる。目の前に脳死状態で横たわるあたたかい体の家族がいる。数時間後、長くても数週間後に亡くなることは確実だ。
その状態で家族は臓器提供をするかどうか選択を迫られる。そして家族が決断を下したときだけ、脳死が人の死となるのだ。大切な人を失う中で、猶予もなく重い決断を迫られるのは、あまりにも辛い出来事だ。
「辿りつけない人が多くいる現実」
10月21日、広島県民文化センターで、「臓器移植推進国民大会」が開かれた。24回目を迎えるこのシンポジウムが、広島で開かれたのは初めてのことだ。会場には、医師、移植経験者、ドナー家族など、幅広い人が訪れ、意見交換が行われた。
![10月21日広島市内で開催された国民大会の様子](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/0/b/700mw/img_0b897b841727635044fbb1a55e10b1012458078.jpg)
移植経験者として登壇したのは、森原大紀さん。教師として順風満帆な人生を送っていた20代のときに、突然難病である「特発性拡張型心筋症」と診断された。
![突然難病を診断された当時の森原大紀さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/0/0/700mw/img_00bc20c96ad83da5ec5d3c38c21b0c94147999.jpg)
助かるには補助人工心臓を付け、移植を待つしかなかった。機械の心臓を体に入れたのだ。バッテリーの充電切れや故障は、死につながるという毎日を送りながら心臓移植を待ち続け、数年後、ようやくドナーが見つかり移植手術を受けた。
![補助人工装置を入れた当時の森原大紀さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/6/7/700mw/img_6731d8f5613ae793d2602ad735986653129530.jpg)
当時、やせ細り、青白い顔をしていた森原さんの姿はそこにはない。子供を授かり、大好きなレスリングを再開し、今は、一時的に外国で暮らしている。
「移植医療は奇跡の医療。たどり着ければ、こんなに素晴らしい医療はないと僕は思う」と語る一方で、森原さんはこう言った。「辿りつけない人が多くいる現実を知ってほしい」
![ドナーにもらった心臓に新しい命を重ねる森原さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/d/7/700mw/img_d739cbe5076600ebcc336f7cd8b12744124699.jpg)
人生の最期の選択肢の一つ
ドナー家族として登壇したのは、遠藤麻衣さん。彼女は、母親の死に際し、臓器提供を決断した。決め手は、生前の母の言葉だったという。食卓で、何度も「何かあれば臓器提供をしたい」と母は言っていた。その言葉は動画でも残っていた。だからこそ、麻衣さんに迷いはなかった。
「託されたからできた決断でした。母の人を思う心が、今、どこかの誰かを救い、その人を大事に思う周りの人たちも救ったのだと思うと、母が亡くなったことは悲しいが、悲しみは半分減って希望に変わります」彼女の話を聞くと、臓器提供は人生の最期の選択肢の一つであるように感じられる。
![スクリーン:遠藤麻衣さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/0/b/700mw/img_0b897b841727635044fbb1a55e10b1012458078.jpg)
この大会で示された、患者とドナーの言葉から、臓器提供の良かった点が示された。しかし、一方で、臓器提供には「NOと示す権利」もあることを忘れてはならない。提供する・しない、提供を受ける・受けない、選択肢は様々で、どれを選ぶことも可能だ。臓器提供後「自分が大切な家族を殺したのではないか」と今も自分を責めている人もいるという事実も忘れてはならない。
答えは出なくても…
21日に行われたシンポジウムでは、高校生によるスピーチコンテストや、移植医療の啓発活動のためのブックカバーデザインコンテストなど、市民参加型のイベントも行われた。スピーチコンテストの参加者は、事前に患者や医師から講演を聴き、それをもとに考え、自分の意見を発表していた。参加者はみな、その過程で家族と話をしたと言う。
![国民大会スピーチの様子](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/e/6/700mw/img_e60fd139e169ca82f324d4d7531e8bf144184.jpg)
「自分は臓器提供しようと思い、親に伝えたら、反対された」
「結論はでないけれど、食卓で、家族と話し合った」
![左からスピーチコンテスト優勝の クラーク記念国際高校 村瀬遥加さん、2位の広島県立皆実高校 佐野ひなこさん、ブックカバーデザインコンテスト特別賞受賞の福山市幕山小4年相原千花さん、グランプリの安田女子大学1年細美実里さん](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/6/4/700mw/img_64b3381a8cc0048fa627cb003c43c35766909.jpg)
異口同音に、家族での議論について話してくれた。大切なのはそこではないだろうか。大切な家族の思いを、普段の会話として聞いておく、そして話し合っておく。そうすれば、いざというときに、臓器提供の意思表示である「YES」か「NO」について、決めることができるのではないか。そして、その決断に後々、苦しむこともないのではないだろうか。
![臓器提供の意思表示カード イエスでもノーでも記載できる](https://fnn.ismcdn.jp/mwimgs/f/4/700mw/img_f47c6f87259f74a53ca9647787bf391f257295.jpg)
もしかしたら、自分にも訪れるかもしれない決断のときに、家族も自分も後悔のない選択ができるように、移植医療について学び、「YES」でも「NO」でもいいから、家族と話し合ってほしいと思う。
今も、日本では1週間に8人の人が、移植を待ちながら、亡くなっているという現実があるのだから。
(テレビ新広島)