男性型脱毛症(AGA)をはじめとする、薄毛治療や育毛・増毛などの契約を巡るトラブル相談が増加している。

東京都内の51カ所の消費生活センターに寄せられた相談件数は、2018年は32件、2019年は37件、2020年は43件だったのが、2021年は81件、2022年は89件と大幅に増えた

AGA・育毛・薄毛治療・増毛などの相談件数(提供:東京都消費生活総合センター)
AGA・育毛・薄毛治療・増毛などの相談件数(提供:東京都消費生活総合センター)
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消費生活に関わる東京都の情報サイト「東京くらしWEB」によると、最近では若者や女性からも相談が多く寄せられるようになり、たとえば、20代男性は以下のような相談をしている。

ネット広告に「無料カウンセリング」とあったAGA専門のクリニック。

3日前、カウンセリングを受けるだけのつもりで出向いたところ、早く治療したほうがよいと服薬1年間と注射4回コースの治療を勧められ、総額約100万円の契約を結んだ。
その日のうちに頭皮へ注射をし、薬を一月分処方された。

よく考えると高額で支払いが不安なのでクーリング・オフしたいが、可能か。

また、「東京くらしWEB」には「AGA治療は特定商取引法の指定役務に該当しないため、クーリング・オフできない」と書かれている。

薄毛などの悩みは昔からあったはず。その薄毛治療などの契約を巡るトラブル相談が2021年以降に増加しているのには、どのような背景があるのか? AGA治療が特定商取引法の指定役務に該当しないのは、なぜなのか? トラブルにあった時、どのように対処すればいいのか?

東京都消費生活総合センターの担当者に「クーリング・オフできない理由と対処法」を聞いた。

20代の男性からの相談が増加

――そもそもAGA治療とは何?

AGAとは男性型脱毛症のことを指します。男性ホルモンなどの影響で抜け毛や薄毛などの症状が出てくるのですが、それを治療することが「AGA治療」と言われています。

このほかにも、女性も薄毛に悩む方がいるので、今では男性・女性に限らず、薄毛治療を「AGA治療」と言うようになっています。


――2021年以降、薄毛治療などの相談件数が増加している背景は?

近年、AGA治療を専門とうたうクリニックが増えていて、インターネットなどの宣伝も増えていることがあげられます。

ほかにも2021年、2022年はコロナ禍ではありましたが、外出自粛の雰囲気がやわらぎ、外出する人が増えつつあるなかで、それに伴い、治療に出かけやすくなったことも一因として考えられるかもしれません。


――相談件数が増えていること、どのように受け止めている?

何らかのトラブルで困っている人の中で、相談してくる人は5%程度と言われています。相談件数は氷山の一角なので、困っている方はもう少しいるのではと思っています。

女性からの相談も増加しているという(イメージ)
女性からの相談も増加しているという(イメージ)

――相談の傾向は?

上記の相談事例もそうですが、インターネット広告に「無料カウンセリング」と書いているAGA治療クリニックが多く、この「無料カウンセリング」にひかれて、クリニックに行き、トラブルにあうケースが多いです。

「少し薄毛が気になる方」の相談も目立ちます。

少し薄毛が気になる方が「無料カウンセリング」に行ったところ、「自分が思っていた以上に深刻」「早く治療をした方がいい」と言われるなど不安をあおられ、「無料カウンセリング」だけのつもりが、高額の契約になってしまうケースも多いと感じています。


――年齢や性別など相談者の傾向は?

2022年をみると、特に20代の男性が増えています。全体の3分の1ぐらいが20代の男性です。

特定商取引法の改正でAGA治療は対象にならなかった

――AGA治療がクーリング・オフできない理由は?

特定商取引法は消費者にとって、とても力が強い法律です。力が強いため、対象となる売り方や商品が決められています。

たとえば、期間を定めてサービスを行うAGA治療の場合は「継続的役務提供」にあたるのですが、特定商取引法では語学教室や学習塾、エステティックなど、限られたサービス(役務)に対して「特定継続的役務提供」として法律の対象項目に定めています。 

「美容医療」も以前は対象ではなかったのですが、苦情が増加したことから、2017年に脱毛や痩身など特定の施術のみ、特定商取引法の対象になりました。

「美容医療」が特定商取引法の対象になったのは2016年度改正で、施行は2017年12月1日施行です。

ところが、この改正でAGA治療は対象に入っていません。なので、特定商取引法の指定役務に該当しないため、AGA治療の契約はクーリング・オフできないということです。

AGA治療はクーリング・オフの対象外(イメージ)
AGA治療はクーリング・オフの対象外(イメージ)

――AGA治療が対象に入らなかった理由は?

改正を決めた当時、薄毛治療のトラブルが、それほど多く報告されていなかったからだと思います。

基本、AGAは皮膚科で治療してもらうことができるのですが、最近ではAGA治療を専門とうたうクリニックが増加し、AGA治療への期待感を持つ人がカウンセリングを受けにいくため、自由診療で高額な契約になった場合などに、トラブルが増えたのではないかと考えます。


――AGA治療だけでなく、薄毛・育毛・増毛の治療の契約もクーリング・オフできない?

できません。

「全額支払う必要はありません」

――クーリング・オフできないということは、契約の解除ができない?

契約の履行状況にもよりますが、基本的に消費者は契約の解除を申し出ることができます。

消費者契約法によると、消費者が解約を申し出たときに「事業者に生じる平均的な損害の額を超えるものは無効」とされています。

上記の相談事例でいうと、「注射4回・服薬12カ月コース」を契約して、1回の注射と1カ月分の処方しか受けていないので、全額を支払う必要はありません。

ただ、契約の状況によりますが、すでに受けている注射1回分と薬1カ月分、そして事務手数料相当の金額を支払う必要があります。


――AGA治療の契約でトラブルになり、困っている人はどうすればいい?

一人で悩まずに、最寄りの消費生活センターに相談してください。

契約トラブルは消費生活センターに相談を(イメージ)
契約トラブルは消費生活センターに相談を(イメージ)

――薄毛治療の契約を巡るトラブルにあわないためには、 どのようなことに注意すればいい?

カウンセリングを受ける際には、治療内容とその効果やリスク、服薬の有無や副反応だけでなく、契約内容や中途解約の条件などについても十分に説明を求めましょう。

例えば、ホームページに「効果がなければ返金保証」と記載があっても、細かい条件があり、対象外となることもあります。

また、無料カウンセリング後に「今日中に契約したら安くなる」などと勧誘されても、その場で契約することは極力避け、しっかり検討してから契約しましょう。

即日、施術を勧められる場合も要注意です。特に薬については、体に合わなくても受け取った分は返品・返金ができないケースが多いので、長期間の処方は避けてください。

治療も受けず、薬の処方もされなければ、支払う金額は契約後だとしても事務手数料ぐらいで済むと思います。

「返金保証」にも要注意(イメージ)
「返金保証」にも要注意(イメージ)

2021年以降、大幅に増加している「薄毛治療のトラブル相談」。クーリング・オフは適用されないが、契約の解除を申し出ることは可能とのことなので、トラブルにあった時は一人で悩まず、まずは最寄りの消費生活センターに相談してみてほしい。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。