岩手・盛岡市にある豚汁専門店「とんfe麦多朗」は、前オーナーが体調や年齢の問題で経営が厳しくなり岩手県事業承継・引継ぎ支援センターへ相談。新しい後継者がマッチングし引き継がれた。現在のオーナーは豚汁の味を守りつつ、新商品を開発や新たな可能性を模索している。後継者問題を解消の成功例として、こだわりの味を引き継いだ飲食店を取材した。

受け継がれる味 後継者不足を解消

岩手・盛岡市にある豚汁専門店「とんfe麦多朗」は、玉ねぎたっぷりのこだわりの豚汁を提供している。

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とんfe麦多朗・舘石宗利オーナー:
豚汁の水分の9割は玉ねぎから出ている。味わい深い甘みのある豚汁になっている。

2022年7月から店を経営するオーナーの舘石宗利さんは、市内で学習塾を経営するかたわら、朝から従業員とともに肉や野菜を切り分け豚汁の仕込みを行う。

前のオーナーの大村茂さん
前のオーナーの大村茂さん

「とんfe麦多朗」は、前のオーナーの大村茂さんが2019年に開店。
会社員時代に新潟で食べた豚汁が忘れられず、全国的にも珍しい豚汁専門店をオープンさせた。
しかし当時74才だった大村さんは、体調や年齢の問題で店を続けるのが厳しくなり、別の人に事業を譲りたいと岩手県事業承継・引継ぎ支援センターへ相談した。

岩手県事業承継・引継ぎ支援センター 新里圭サブマネージャー:
(大村さんから)体力的にもきつくなってきたと、身内にも後継者がいないし従業員もいないので、第三者で引き継いでくれる人がいないか相談があった。

2022年時点の都道府県別の中小企業経営者の平均年齢は、全国で最も高いのは秋田県の65.33歳で、岩手県は第5位で64.38歳となっている。(東京商工リサーチ「全国社長の年齢調査」2023年1月31日より)また企業の後継者の不在率も高く、岩手県は第9位の65.4%。(帝国データバンク「全国企業」「後継者不在率」動向調査2021年より)

相談を受け支援センターでは、飲食店の経営を目指していた舘石さんとマッチングしたという。

左が現オーナーの舘石宗利さん 右が前オーナーの大村茂さん
左が現オーナーの舘石宗利さん 右が前オーナーの大村茂さん

とんfe麦多朗・舘石宗利オーナー:
引き継ごうと思ったきっかけは、自分がお客さんとして食べに来て実際においしかったということ。引き継ぐからにはこの味を損ねてはいけないというのが一番強い思い。

資金面は、日本政策金融公庫と県内の信用金庫などが連携した「つぐべ岩手」というスキームを利用。資金の借り入れや事業計画作成の協力を受けスムーズな事業承継を行うことができた。

約7割近くの県内企業が後継者問題に直面する中、支援制度や金融機関の融資を受け、「とんfe麦多朗」はこだわりの味を引き継いだ。

地元で愛されるカフェのような雰囲気

盛岡市の南大通りにある「とんfe麦多朗」は、豚汁専門店だが、中はカフェのような作りになっている。

豚汁専門店だが中はカフェのような作りになっている
豚汁専門店だが中はカフェのような作りになっている

豚汁の「とん」とcafeの「fe」をとり「とんfe」と名づけられた店名。店内は文字通りカフェのような居心地の良い空間だ。

看板メニューの豚汁は一杯につき、まるまる1個近くの玉ねぎを使用するほか、市内で生産した豚肉や味噌などを使い食材にもこだわっている。

一番人気はもちろん「豚汁定食」だ。並盛はラーメンどんぶりほどの器に豚汁がたっぷりと盛り付けられ、ご飯やとろろなどがセットになっている。

舘石さんが前のオーナーから店を引き継いで1年あまり、近所の住人や職場の人への認知度も上がり常連客も増えてきた。
来店客は「すごくおいしくて、1回食べるとまた食べたくなるクセになる味」と話す。

味わいは豚汁のみに留まらず

また引き継いだ味を守りつつ新規のお客さんを増やそうと、舘石さんは新商品の開発にも力を入れている。

期間限定で提供されている「闘将マーラー麺」は、豚汁ベースのスープに辛味噌と野菜を加えたパンチの効いた一杯で、男性を中心に人気を集めている。

来店客は「初めての店に入ってみようかなと思い入店した」「麺に負けないスープの濃さでいいなと思った」と話す。

とんfe麦多朗・舘石宗利オーナー:
引き継いだ味は受け継ぎつつ、豚汁は色々な味わい方があるんじゃないかと、この1年間で実感した。色々なパターンの豚汁を味わってもらいたい。

舘石さんは、2023年の夏ごろからデリバリーサービスを取り入れ、売り上げを2022年の同じ時期の1.5倍ほどまで伸ばすことに成功するなど、先代の味を引き継ぎつつ豚汁の新たな可能性を模索している。

(岩手めんこいテレビ)

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