最も強烈な批判は「仲間」から

臨時国会は予算委員会に議論の場が移ったが、世間の関心は「岸田減税」一本だ。岸田文雄首相は26日の政府与党政策懇談会で、来年6月に1人当たり4万円の所得税減税と低所得者世帯への7万円の給付を実施すると表明した。

岸田首相 26日の政府与党政策懇談会
岸田首相 26日の政府与党政策懇談会
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これに対し野党からは批判が相次いでいる。代表質問では「減税の来年実施は遅すぎる。現金給付を急ぐべき」(泉健太・立憲民主党代表)、「社会保険料の減免を」(馬場伸幸・日本維新の会代表)、「消費税の減税を」(玉木雄一郎・国民民主党代表)など、様々な「対案」が出された。

25日 参議院代表質問での世耕弘成参院幹事長
25日 参議院代表質問での世耕弘成参院幹事長

だが最も強烈だったのは「仲間」であるはずの世耕弘成・自民党参院幹事長による「世の中に対しても総理が何をやろうとしているのか全く伝わらなかった」という言葉だった。

25日 世耕参院幹事長の代表質問を聞く岸田首相
25日 世耕参院幹事長の代表質問を聞く岸田首相

世耕発言に対しては「異例の酷評」(フジテレビ)、「世耕氏から疑問符」(朝日新聞)、などメディアが大きく取り上げ、永田町では「岸田おろしが始まったか」とささやかれた。

確かに世耕氏は首相の減税の「打ち出し方」に苦言を呈しているが、本当に言いたかったのはその後の「アベノミクスがやり切れなかった点を教訓にしなければならない。GDPギャップがわずかにプラスに転じた今こそがデフレ脱却の正念場」という部分だと思う。

「アベノミクスを忘れるな」

世耕氏は「安易に緊縮財政や増税に走るのではなく、減税や積極財政と成長戦略によって、デフレ脱却を宣言し、本格的に税収を増して、結果として財政健全化を達成すべき」と述べている。つまり「アベノミクスを忘れるな」という事だろう。

2013年9月 第2次安倍政権時代に訪米し、NY証券取引所を訪れた際の安倍首相
2013年9月 第2次安倍政権時代に訪米し、NY証券取引所を訪れた際の安倍首相

世耕氏は3週間ほど前に岸田氏の再選を支持する発言をしていたため、今回の「苦言」は余計に注目されたのだが、実は再選支持の前提として「安倍政権の路線の継承」を挙げていた。つまり今回の発言は「岸田おろし」ではなく、「アベノミクスを忘れたら支持しないよ」という注意喚起ということだろう。

 首相はおそらくアベノミクスを継承しつつ、次の段階に進もうと思っているのだろうが、それは言うほど簡単ではない。ブレーキとアクセルを交互に踏みながら新しい日本の形を作っていくしかないのだろう。

ただ現状で国民は「岸田減税」に殺気立っている。

一番怖いのは減税をやめるとき

たとえば低所得世帯には7万円が給付されるが、低所得世帯イコール貧困世帯ではない。貯金が1億円ある年金受給世帯、すなわち富裕高齢者も7万円はもらえる。これに「金持ち優遇」との批判が出ている。現役世代の負担を減らすためには維新の「社会保険料の軽減」の方が優れているのではないか、という指摘もある。

また減税は来年の6月に行われる。8カ月後だ。所得減税と同じ額のキャッシュを今配ればいいじゃないかという声は自民党内にも多い。だから自民が政府に出した経済対策には賃上げ減税と給付金は盛り込まれたが、所得減税は入らなかった。立憲の「減税の来年実施は遅すぎる。現金給付を急ぐべき」という主張は一理ある。

立憲民主党・泉代表
立憲民主党・泉代表

「所得減税に2000万円の所得制限を検討」というニュースが流れた時は、SNSに所得2000万円越えとみられるインフルエンサーの皆さんが怒りの投稿をしていたのも面白かった。

おそらくみんな自分がいくらもらえるのか、あの人はいくらか、で殺気立っている。だからせっかく首相が減税すると言っているのに、喜ぶどころかみんなで文句ばかり言っている印象だ。これでは内閣支持率は上がらない。

そして期限を切った減税の一番怖いところはいずれやめる時が来る、ということだ。その時には「延長しろ」「やめるな」「恒久減税にしろ」という声が必ず出る。過去にはそれで橋本龍太郎政権が倒れた。岸田首相はそのリスクを背負う覚悟はあるのだろうか。

【執筆:フジテレビ上席解説委員 平井文夫】

平井文夫
平井文夫

言わねばならぬことを言う。神は細部に宿る。
フジテレビ報道局上席解説委員。1959年長崎市生まれ。82年フジテレビ入社。ワシントン特派員、編集長、政治部長、専任局長、「新報道2001」キャスター等を経て現職。