いよいよ秋の臨時国会が20日開幕する。岸田首相にとっては、内閣支持率が軒並み低下する中で、来年の自民党総裁選での再選、そして長期政権樹立に向けての踏ん張り所となる国会だ。

会期は12月13日までの2カ月弱となるが、この国会の注目ポイントは大きく3つある。
それは「経済対策」「旧統一教会」「閣僚の資質」の3つだ。頭文字をとって3Kと呼んでいいかもしれない。この3つが岸田政権の命運を左右しそうだ。

経済対策では給付と所得税減税が焦点に

第1の注目ポイントは経済対策をめぐる議論だ。
岸田首相は11月初旬に経済対策をとりまとめた上で、この対策の裏付けとなる補正予算を編成し臨時国会で審議する予定だ。

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岸田首相は経済対策について、「国民生活、生業を物価高から守る」「経済の新しい息吹を継続する」の2つを目的に、「税制、給付、社会保障における様々な軽減措置、インフラ投資、その他あらゆる手法を動員する」と述べている。
具体的には、自民・公明両党の提言の柱になっている低所得世帯への給付措置や、ガソリン・電気・ガス料金の補助金継続については実施が濃厚となっているが、給付額や低所得世帯の線引きが議論となる可能性がある。

そして、それ以上に注目されるのが、岸田首相が「税の増収分を国民に還元する」と表明したことで焦点となっている減税の扱いだ。今月行ったFNNの世論調査でも、税収増分の使途に関しては「減税」が51.7%と最も多く、「財政赤字縮小」の29.9%、「給付」の16.1%を大きく上回り、国民の減税への期待の大きさが鮮明になった。

ただ、減税議論の中心となっている所得税減税をめぐっては、政府与党内での段取りが、迷走にも映る経緯をたどっている。
岸田首相の減税への意欲に応じて、一時は与党の幹部から続々と所得税減税に前向きな声が出た。
しかし、党内から異論が出たほか、減税は岸田首相から発信すべきだと考える首相官邸側からストップがかかり、与党の提言には盛り込まれなかった。

岸田首相は年末の税制改正議論に向け、20日夜に与党の税制調査会長と政調会長に対し期限付きの所得税減税も含めた検討を要請する方針だが、野党からは政府与党の自作自演だとの批判も出ている。岸田首相が、所得税減税について今後の国会でどこまで具体的な考えを明らかにするかで、論戦の方向性も変わりそうだ。

野党からは「1世帯3万円インフレ手当」「消費税8%」の案も

そして経済対策をめぐっては、野党側も対案を提示していて、これも国会論戦の材料となりそうだ。

立憲民主党は、全世帯の6割にあたる、低所得層と中間層世帯を対象に「インフレ手当」として現金3万円を給付する党独自の対策案を決定した。児童手当を、高校生まで一律で1人あたり月額1万5000円支給し、ガソリン価格を抑えるためのガソリン税のトリガー条項の凍結解除も盛り込んでいて、泉代表は「低所得の人を中心としながらも、幅広く対策の恩恵を届けたい。ただ財政出動すればいいというものではなく、将来世代のことも考え、バラマキはせず、重点的に予算を使うことが必要だ」と述べている。

また、日本維新の会は、消費税の税率について軽減税率を廃止した上で、恒久的に一律8%とすることや、社会保険料を3割軽減・低所得者については5割軽減する案を軸とした経済対策を発表した。藤田幹事長は「社会保険料の減免というのが低所得者も含めて、一番広く恩恵を素早くお届けできる」と狙いを語っている。

立憲の月3万円のインフレ手当や事実上のガソリン減税にしても、維新の消費税減税や社会保険料減免にしても、政府与党の対策とは一線を画すもので、岸田首相らとの国会論戦を通じて、どんな対策が国民生活を支えるのに有効で、かつ今後の経済の好循環につながるかという議論が深まることを期待したい。

旧統一教会の“財産隠し防止法” 被害者の切実な思いと法的な難しさ

そして2つ目の注目ポイントが、旧統一教会の財産隠しを防ぐための財産保全法案に関してだ。

政府は10月13日に、旧統一教会への解散命令を東京地裁に請求したが、現行法では宗教法人の場合、解散命令請求が行われても裁判所が解散命令を決定しない限り、財産保全は適用されない。そのため解散命令までの間に、教団が海外に巨額の送金をするなど、財産隠しをする懸念が指摘されている。

それを防ぐため、立憲民主党は、教団の財産を保全するための特別措置法案を提出する方針で、日本維新の会も、財産保全を可能にするための宗教法人法改正案を提出する姿勢だ

これに対し、政府自民党からは、解散命令が行われていない段階で、憲法が保障する財産権を制限するような措置は難しいとの意見が出ていて、野党案には抵抗が強い。自民党幹部は「かなりハードルが高い。人権問題だと教団が訴えてくる」と述べている。

一方で、教団による被害者が財産保全を強く求めている中で何もしなければ、自民党と旧統一教会との関係が再びクローズアップされてしまうとの懸念も自民党内には強い。先の幹部は「これは被害者救済ではなく、政局の話になっている。野党も政局に使っている」と嘆く。
そこで、自民党からも野党案に代わる何らかの対応策を講じるべきだとの意見が出ていて、岸田首相と自民党執行部がどのように対応するかが問われることになる。

新たに入閣した閣僚の答弁力とスキャンダルに不安の声も

そして、この臨時国会でもっとも先が読めない要素が、9月の内閣改造で新たに入閣した閣僚の答弁力と、野党が仕掛けるだろうスキャンダル追及への対応力だ。

内閣改造では、女性閣僚が過去最多タイとなる5人起用されたが、初入閣した加藤鮎子こども政策相、自見英子地方創生相、土屋品子復興相の3人については、答弁を不安視する声がくすぶる。そして週刊誌は、この3閣僚の政治資金に関する問題を報じており、野党側が追及材料にする可能性がある。

去年の臨時国会では、当時の山際経済再生相、葉梨法相、寺田総務相が辞任に追い込まれ、年末には秋葉復興相も辞表を提出するという辞任ドミノが起き、内閣支持率も下がった。
今年も同じ展開をたどらないとも限らず、論戦の行方が注目される。

政権の浮沈の先に解散総選挙は? 麻生政権での定額給付金の苦い記憶も

このように臨時国会は、岸田首相にとって、一歩間違えれば政権のアキレス腱になりかねない要素が散りばめられている。
経済対策にしても、本来は国民へのアピールになるはずが失望を招く危険をはらんでいる。

2008年 参院外交防衛委員会で答弁する麻生首相(当時)
2008年 参院外交防衛委員会で答弁する麻生首相(当時)

2008年から2009年にかけての麻生政権では、総額2兆円の予算をかけて、国民1人あたり1万2000円、子どもと高齢者は2万円の定額給付金を実施したが、目的が景気浮揚なのか生活支援なのかで迷走したり、給付対象や経済効果に関しての批判が噴出するなどして、麻生政権が思い描いたような政権浮揚にはつながらなかった。その結果、自民党は衆院選で大敗し、下野するという辛酸をなめた。

今回、岸田首相がこの国会を順調に乗り切れば、年内に解散総選挙に打って出ることも可能だとの声は自民党内にある。
一方で、ここで政権が信頼を失うと、来年の自民党総裁選での岸田首相の再選にも黄信号が灯る。

物価高の中、生活に不安を覚える国民に向けて明確な方針を発信し、政権への信頼を回復できるか、岸田首相にとって正念場の国会が開幕する。
(フジテレビ政治部デスク 高田圭太)

髙田圭太
髙田圭太

フジテレビ報道局  政治部デスク 元「イット!」プロデューサー