「皆、警察が嫌いだ」

世界最大のフランスの化粧品グループ「ロレアル」は、6月末、商品名から「美白」「白」「ブライトニング」などの言葉を消すことを決めた。世界的な「反人種差別運動」を意識してのことだ。「差別の波から抜け出すための良い案だ」と評価する人がいる一方、「やり過ぎだ」との声も上がっている。ランコムやイブ・サンローランなどを傘下に持つ世界的な化粧品グループのこうした決定には、衝撃が走った。

世界各地で起きている反差別運動の影響は、様々な分野に広がり始めている。

« Tout le monde déteste la police ! » 「皆、警察が嫌いだ ! 」

最近のデモ行進でよく聞かれる言葉である。5月下旬にアメリカのミネソタ州で黒人男性のジョージ・フロイド氏が白人警官から首を押さえつけられて死亡した事件から抗議活動が世界中に広がり、その余波はフランスにも及んでいる。差別や警察官の暴行にうんざりした何万人ものフランス人が、警察批判の声を上げている。

パリでジョージ・フロイド氏のために正義を求めるデモ参加者

警察への信頼は?

フランスでは警察官はどう見られているのか。

フランスの雑誌レクスプレス(L’Express)が1月29日に公表した世論調査機関Ifopの調査では、2020年1月時点で「警察を信用している」と答えたフランス人は、43%に留まった。また、警察に対して「不安」を感じる人が20%、「敵意を抱いている」と答えた人は10%に及んだ。2019年8月の調査では警察への信頼度は50%に達していたのと比較してみれば、フランス人の警察に対する見方が大きく変化したことがわかる。

パリで差別と警察の暴行を訴えるデモ行進

フランスでの警察による暴行事件

フランスでも警察による暴行問題は、以前から存在する。拷問の廃止を訴えるキリスト教徒団体が2016年に公表した報告書では、外国人やミノリテ・ヴィジブルと呼ばれる少数民族、移民が集中する地区の若者、そしてデモ参加者などが、暴行の被害者となっていた。

パリで黄色いベスト運動の参加者、2018年12月

警察官の暴行事例が再び注目を浴びるようになったのは、2018年10月から2019年前半にかけて、フランス全土を激しく揺さぶった黄色いベスト運動と学生運動、そして2019年後半から始まった年金制度改革に対する反対運動がきっかけだ。警察官が乱暴な態度でデモを取り締まる様子がテレビでしばしば見られるようになった。

実際にデータを見てみる。フランスの警察に対する監察機関 (IGPN)の2019年版報告書では、警察官の行為に対する通報が2018年に比べ26.2%増えた。黄色いベスト運動が影響していると見ていい。また、1460件の捜査のうち868件が警察官の暴行に対する捜査で、これも2018年に比べて41%増加した。警察官の暴行が大きな社会問題となり、警察官による拘束や取り締まりのあり方が問われている。その結果、国民は徐々に警察官を不信の目で見るようになったと言えるだろう。

フランスでも黒人男性死亡で抗議デモが拡大…

6月2日、ジョージ・フロイド氏が死亡してからちょうど一週間が経った日に、パリ裁判所の前で2万人を超える人々が集まった。それは、2016年に警察に拘束され死亡した黒人男性、アダマ・トラオレ氏(当時24)の遺族が呼びかけた正義と反差別を訴える追悼集会だった。当局はこれを許可しなかったが、出身地や人種を問わず多くの人が現場に駆けつけ、警察の暴行に抗議する歴史的デモとなった。

アダマ・トラオレ氏死亡事件を簡単に紹介する。

黒人男性のアダマ・トラオレ氏 (Adama Traoré)は、2016年9月パリ北西部で口論から3人の治安部隊に拘束されたあと呼吸困難を訴え、移送される車の中で意識を失い、その後死亡した。遺族は治安部隊の暴行と拘束方法が死亡の原因だと訴えたが、警察当局は検視の結果、トラオレ氏に持病があったと発表した。

問題はトラオレ氏を拘束した3人以外、逮捕の瞬間を目撃した人も、監視カメラの映像もなく、彼らの証言と検視官の判断のみで死因が結論づけられたことだ。遺族側も担当判事側も死因が「窒息死」という点では一致している。だが、その原因が、暴行なのか持病のためなのかについては対立している。事件が発生してからすでに4年近くが経つが、トラオレ氏の死因については、いまだに真相が明らかになっていない。

こうした中、ジョージ・フロイド氏死亡事件の影響で、この、アダマ・トラオレ氏の死を巡る問題が改めて注目されたわけだ。アダマ・トラオレ氏の姉、アサ・トラオレ氏 (Assa Traoré)は、アメリカとフランスの状況を重ね合わせ、「アメリカで起きたこの事件(警察官による暴行死事件)はフランスでも起きている」と主張する。「アダマのための正義を訴える」デモは警察の暴行に対する抗議に加えて、黒人に対する警察官の差別にも抗議の声を上げた。

パリの反黒人差別デモで「黒人の命も大切だ」などと書かれたプラカードを掲げる参加者

問題への対応に頭を悩ます仏政府

デモ行進が大規模になったことを受け、内務相は警察自体が人種差別主義ではないと主張した。そして、デモ参加者の要求に応じて、警察官の差別的な行為と発言に対しては罰則を科し、そのような疑いのある行為を確認したらすぐに停職させると発表した。また、腕を使って首を絞める拘束方法を禁止することも明らかにした。

こうした対策案に、警察の労働組合は激しく反発した。彼らにとっては、身内から裏切られたようなもので、危険な状況に対応できる拘束方法が不可欠だと訴えた。そして、組織的な差別主義集団のような扱いを受けることに、不満を表した。結局、内務相は決定を翻し、首を絞める拘束方法を禁じることを、断念した。

エッフェル塔の前で抗議するデモ参加者

フランスの警察は乱暴で差別的なのか 

フランスにおける権利と自由の尊重を管理する国内人権諮問委員会などは、警察の行動のあり方、特に差別と過剰な力の使用について、次のように指摘している。まず、フランスでは、アラブ系や黒人の男性が警察に職務質問される割合が、他の市民の20倍に上っている。そして、アラブ系の人々や黒人に対して、過剰かつ差別的な所持品検査などを行い、権力をしばしば不当に行使しているというのだ。

2016年には日本の最高裁判所にあたる破毀院が、人を見た目で判断する差別的な職務質問に関して、フランス政府の責任を明らかにし、強く非難したこともある。

それでも、フランスの警察官は乱暴で差別的だと、画一的に断定するのは難しい。実際、警察官という職業はリスクの高い仕事で、命の危険がある多くの状況にも対応しなければならない。自分自身と国民を守るために「力」を使うことを余儀なくされる場合もある。

フランスの警察官にも、もちろん多様性があり、白人であろうと黒人やアラブ系の警察官であろうと、皆同じく国民の安全と国の治安を守るために不可欠な役割を担っている。残念ながら、差別主義的な警官がいることも事実だが、警察機関や全ての警察官が差別的で乱暴とは言えない。

他の政府機関同様、警察もフランス共和制の重要な理念である自由・平等・友愛のもとに成り立っている。人種や宗教の違いによる差別をせず、助け合っていくのがフランス社会の伝統的な価値観だ。

結局、警察という組織も、様々な人種と意見で成り立っているというフランス社会そのものを反映していると言えよう。 

人権の国と呼ばれているフランス。
しかし、まだまだ、改革していく余地はある。

【執筆:FNNパリ支局 モセ・ルアナ】