光るカタツムリが世界で80年ぶりにタイで見つかった。

発見したのは中部大学(愛知・春日井市)の大場裕一教授とタイのチュラロンコン大学による研究グループ。同グループによるとカタツムリは世界で約3万種が確認されているが、光るのは1943年にシンガポールで見つかった「ヒカリマイマイ」のみと考えられてきた。しかし、タイで採取した個体を調べると、体から緑色の発光が確認されたという。

発光が確認された、プファニア属のカタツムリ
発光が確認された、プファニア属のカタツムリ
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発光が確認されたのは5種で、このうち4種は「プファニア属」に分類されるカタツムリ。足の周囲や胴体と殻の口の間などが連続的に光るほか、休眠中(殻に閉じこもる時期)には、殻の口から見える部分(外套膜と足の一部)が連続的に発光するという。

クォンチュラ・ウェインカフィアナ※画像は下から見た構図
クォンチュラ・ウェインカフィアナ※画像は下から見た構図

残る1種はヒカリマイマイ属だが遺伝子解析によって、ヒカリマイマイとは異なる種「クォンチュラ・ウェインカフィアナ」と判明。こちらは口の付近が緑色に点滅するという。この5種はカタツムリとしてその存在は知られていたが、今回の研究で初めて「光る」ことが分かったという。

これにより、光るカタツムリは合計で世界に6種いることになった。研究成果は2023年9月、科学誌「サイエンティフィック・リポーツ」電子版に掲載された。緑色に光るのはどうしてなのだろう。生態や気になることを大場教授に聞いた。

夜行性でキュウリやニンジンも食べる

――カタツムリの調査をタイでしているのはなぜ?

私は発光生物の専門家で、タイの共同研究グループはカタツムリ、ムカデ、ミミズの世界的な分類学の専門家です。お互いの興味と専門性が一致した結果、今回の発見につながりました。タイの自然は日本と比べると調査が進んでおらず、われわれが知らない新しい生物がたくさん潜んでいると思います。


――光るカタツムリはどんな場所で見つかったの?

クォンチュラ・ウェインカフィアナは地方のヤシ畑で見つかりました。プファニア属は自然の森の中で見つかりましたが、ひとつの種はヤシ畑で見つかりました。2020年ころから、タイ各地でカタツムリを採取してきたのですが、解析の結果などがはっきりしたので、今回の論文として発表できました。

プファニア属のカタツムリ。殻の内側で光っているのが分かる
プファニア属のカタツムリ。殻の内側で光っているのが分かる

――それぞれの生態はどうなっている?

ヒカリマイマイ属とプファニア属は近縁のため、生態は似ています。殻の幅は最大3.5~4cmほど。基本的に夜行性で昼間は地表の落ち葉の下、木の皮の裏、葉っぱの裏などに隠れ、殻に閉じこもってじっとしています。違いは発光の仕方(連続的に光るか、点滅して光るか)や殻の形となります。飼育下ではキュウリやニンジンをよく食べるので、野外でも植物を食べていると考えられますが、実際の野外で何を食べているか、どんな時に光るのかなどはこれからの研究となります。

暗い状態だと緑色の光がより目立つ
暗い状態だと緑色の光がより目立つ

――80年ぶりの発見となったのはなぜ?突然変異なの?

突然変異でなく「元々いた」で間違いないと思います。発光のような特殊な形質(現象)が80年くらいで進化するとは考えにくいです。真っ暗なタイの森に行く人はいないと思いますし、発光するカタツムリは世界に1種だと専門家の間でも信じられていましたから、探す人がいなかったのだと思います。

「自分はまずい」アピールしているかも

――発光するのはなぜ?想定される理由は?

光るのは「自分を食べるな」という防御・警告の役割と考えられます。例えば、ホタルはまずい味を持っていますが、卵やサナギなど動くことのできない時期に、外敵に食べられないように連続的に発光して警告していることが知られます。もしかすると、カタツムリもホタルのふり(擬態)をして「自分はまずい」とアピールしているのかもしれません。

ヒカリマイマイ属は、発光の役割が「群れを作るため」という仮説もありましたが、実験的に証明されていません。発光の役割についても、タイで研究をしていきたいと考えています。

「自分はまずい」とアピールしているのかもしれない
「自分はまずい」とアピールしているのかもしれない

――緑色に発光する仕組みや条件は?

発光反応の化学的メカニズムはまったく分かっていません。われわれの取り組むべき課題の一つだと思っています。タイでは、今回のカタツムリはたくさん取れるので、チュラロンコン大学の研究室と共同で、実験を進めていきたいと考えています。

クォンチュラ・ウェインカフィアナは点滅するように光る
クォンチュラ・ウェインカフィアナは点滅するように光る

――光るカタツムリを見て感じたことは?

光り方が違うことに驚きました。専門家的には、プファニア属に発光種がいたことは驚きではなかったのですが、光る部位や光り方(連続か点滅か)が違うとは想像していませんでした。目や殻が光るカタツムリが見つかっても不思議ではない。そんな気がしてきています。

他の近隣国で見つかる可能性もある

――光るカタツムリはタイ以外にも生息している?

クォンチュラ・ウェインカフィアナは、カンボジアやラオスでも見つかっています。プファニア属は今のところタイからしか見つかっていませんが、東南アジアの国々の多くは陸続きですから、他の近隣国で見つかる可能性は十分にあります。ひょっとすると、われわれが気がつかないだけで、沖縄あたりからも見つかる可能性だってあると思います。


――これからの調査・研究はどう進めていく?

カタツムリは法律的な問題もあり、生きたまま日本に持ち込むことは難しく、研究はタイ現地で行っています。これからは他にも光るカタツムリが見つからないかをタイで調査します。光の役割について、実験や野外観察を通じて研究するほか、発光のメカニズム(化学反応メカニズム)の解明を目指した、生化学的実験も行います。


――今回の研究成果の活用、期待したいことは?

東南アジアの自然には未知の生物や生命現象がたくさんあると考えられます。生命現象を発見していくことで、自然界の生物多様性の理解が深まりますし、新しい生命現象の分子メカニズムを解明することで、新しい応用につながる可能性もあるのです。

例えば、2008年にノーベル化学賞を受賞した下村脩博士は、発光クラゲの光るメカニズムを解明する過程で「緑色蛍光タンパク質」という物質を見つけ、これが基礎生物学や基礎医学の応用研究に役立つことが後から分かり、ノーベル賞へと結びつきました。遠い将来かもしれませんが、何かの応用に結びつく可能性があるのです。そのためにも、私たちは発光生物の探索を続けていくつもりです。



カタツムリが緑色に光るのは、自分の身を守るためかもしれないという。もしかすると、私たちの身近にも知らない生物が潜んでいるかもしれない。
(画像提供:大場裕一教授)

プライムオンライン編集部
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