人魚伝説のモデルといわれている“マナティー”の器用な食事の様子が、X(旧Twitter)で話題となっている。

投稿したのは、水族館巡りが趣味のかぶつさん(@tan_sui_kabutz)。国営沖縄記念公園(海洋博公園)内にある「マナティー館」で撮影したというのが、エサを食べているマナティーの姿だ。

ヒレ状の前脚(前肢)を器用に添えて食べるマナティー(提供:かぶつさん)
ヒレ状の前脚(前肢)を器用に添えて食べるマナティー(提供:かぶつさん)
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マナティーは、水中にゆらゆらと漂いながらエサをおいしそうに食べている。しかも、エサを持っているかのようにヒレ状の前脚(前肢)を器用に添えているのだ。

“両手”でしっかりと持つようにしながら、口を大きくモグモグと動かして、少しずつゆっくりと食べる姿はとても可愛らしい。

ゆっくり少しずつ食べ進めている(提供:かぶつさん)
ゆっくり少しずつ食べ進めている(提供:かぶつさん)

かぶつさんは、マナティーはどちらかというと口だけで食べに行くスタイルだと思っていたそう。実際に見た姿は前肢を添えており「とても可愛くて上品な食べ方だな」と驚いていた。

このマナティーの食事姿には「可愛すぎる」「癒されまくりました」という声の他に、「手を使って食べるのお上品ですね!!」「もう人やん」とその器用さに、かぶつさんと同じように驚く人が多くいた。投稿には。いいねが5万以上つく話題となっている(10月23日現在)。

マナティーではよく見られる動き

前肢を手のように添えて食べる姿は丁寧で上品に見える。これがマナティーの当たり前の食事の様子なのだろうか?器用な前肢だったが、他にはどんな使い方をすることができるのだろうか?

マナティー担当の真壁正江さんに教えてもらった。


ーーマナティーとはどんな動物なの?

種類:海牛目 マナティー科 アメリカマナティー。
生息域:大西洋地域の熱帯、亜熱帯の河川、湖沼、河口付近の沿岸。
特徴:マナティーは一生を水中でくらす完全水棲で、淡水、海水域の両方に分布。植物食で代謝が低いため、水棲哺乳類の中でも動きは非常にゆっくりとしています。

マナティーのユマ(提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館)
マナティーのユマ(提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館)

ーー投稿で話題となっているマナティーについて教えて。

名前:ユマ(水族館生まれのメスのマナティー)。
2001年10月13日生まれで、22歳の誕生日を迎えました。マナティーにおける飼育下繁殖個体としては国内で最長飼育記録を更新中です。

マナティーは環境刺激に敏感で繊細なところもある動物ですが、ユマはプール生まれというところもあって、好奇心旺盛で大変人懐っこい性格です。簡単な動作を覚えたりする賢さもピカイチです。また、一番の食いしん坊で、誰よりもエサを早く食べてしまいます。時には、他のマナティーの口元にひょいっと手を伸ばし、食べているエサを奪い取ってしまうこともあります。お顔もすごくかわいい美人さんです。

前肢を使ってレタスを食べるユマ(提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館)
前肢を使ってレタスを食べるユマ(提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館)

ーー普段は何を食べている?

飼育下では、レタス、グリーンボール、ハクサイ、カボチャ、ニンジンを主に餌料としています。他にもセロリ、ホウレンソウ、トマト、キュウリ、オクラ、パプリカ、ベニイモなどをあげることもあります。

なんでも食べるように思われてしまうかもしれませんが、嗜好性ははっきりしています。飼育係としては新しく食べる野菜を見つけたりすると、とてもうれしく感じます。

水底で食べているキュウ(提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館)
水底で食べているキュウ(提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館)

ーー前肢を使って食べるのは普通のこと?

マナティーではよく見られる動きですが、ユマは他の個体よりもよく前肢を使って食べるような気がします。中には水底でゆっくり食べるのが好きな個体もいます(ユマの母獣であるマヤは水底で食べる方が好き)。

ユマは食いしん坊だからかもしれませんが、エサがたくさん浮いている水面で食べる方が好みのようです。また、水面で食べているのはリラックスしている証拠でもあるので、ユマのおおらかな性格もあるかもしれません。ユマはお客様が見ているアクリル面近くでよく見えるように食べている姿をよく見かけます。サービス精神も旺盛な個体です。

前肢は短そうに見えるが口まで余裕で届く ユマ(提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館)
前肢は短そうに見えるが口まで余裕で届く ユマ(提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館)

ーーその様子を見てどう思っている?

とてもかわいいですし、ヒトの動きを連想させるような動作は親近感がわきますね。ちょっと短い前肢を一生懸命、しかも指別れしていないパドル式にもかかわらず器用に使いこなす様子は毎日見ていても飽きないです。

歩いたり、折りたたんだり、コミュニケーションでも活用

ーーなぜ添えるようにして食べるの?

動画でユマが食べているのはレタスですが、そのままだと水面に浮いて食べにくいですよね?マナティーの口は(マナティーを横にすると分かると思いますが)結構下向きについています。口元までエサをもってきて食べた方が安定して食べることができます。

動物として、水面で顔をあげながら浮いたエサをもぐもぐ食べ続けるのは周囲の状況も見られないというのもあるかもしれません。水底に沈んだニンジンなどはそのまま口をつけて食べています。

下向きについているというマナティーの口 ユマ(提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館)
下向きについているというマナティーの口 ユマ(提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館)

ーー自然界でもする食べ方?

マナティーは野生下では水底に生えているものから水面まで様々な植物を食べますが、特に水面に浮いている水草や中層にある長い植物などは食べやすいように前肢を使います。

水底を進むときに歩くように使ったりもする(提供:かぶつさん)
水底を進むときに歩くように使ったりもする(提供:かぶつさん)

ーーご飯をたべる他にも前肢を器用に使う行動はある?

水中で移動をするときの方向転換、また、水底を進むときには前肢で歩くように進みます。マナティーは比重が重く、水底で安定するような体のつくりになっており、水底で休んだり、エサを食べたりすることも多い動物です。

ちなみに水底で休むときには、前肢をネコの香箱座りのように内側に折りたたんでいたりします。顔や頭、横っ腹まで体をかいたり、口の中に突っ込んで引っかかったエサかすを掃除したりすることもあります。

コミュニケーションで触ったりするのだそう 上:キュウ 下:マヤ(提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館)
コミュニケーションで触ったりするのだそう 上:キュウ 下:マヤ(提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館)

また、マナティーは通常群れで生活する動物ではないのですが、コミュニケーションとして仲間同士の触れ合いが非常に多く、その際にもよく使われています。特に親子は頻繁にお互いの体に触ったり、背中につかまったり、手をつなぐように手と手を取り合っていることもあります。

係員が水中に入ると腕につかまってきたりもします。プールに設置しているフタを器用に外して持ち歩いたり…興味のあるものをつかんだりと色々なことをします。

マナティーたちの未来を明るくするきっかけになれば

ーー実は知られていないマナティーの行動や生態があったら教えて。

・小鳥のような鳴き声で鳴く。
・個体によって寝相の悪い個体もいる(人間のように頻繁に動いたりするという事はないですが寝方は個体ごと様々です。リラックスしているのか仰向けに寝たりすることがあります)。
・うんちも大好物(植物食動物には腸内細菌や栄養の再吸収などのために食糞をする動物は多いのでマナティーに限ったことではありませんが、食べている姿を見た来場者の方は驚く方も多いようです)。
・怒ったときは水中で泡を吐きながら、すごい変顔で激しいヘッドシェイク(威嚇の動作)をする。
などがあります。

手前:ユマ 奥:琉(提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館)
手前:ユマ 奥:琉(提供:国営沖縄記念公園(海洋博公園)・沖縄美ら海水族館)

ーーSNSで話題となっているが、どう感じている?

伺うまで知りませんでした。マナティーは国内では4施設でしか飼育されていない動物ですし、まだまだ認知度が高いとは言えません。マナティーは大型でありながら浅い水域に暮らすという特性もあり、人間の活動の影響を非常に受けやすい動物です。他の動物に捕食される事例というのはほとんど確認されていないようなので、人間が天敵とさえ言われています。保護区域に暮らす個体群でさえ、地球温暖化や海洋汚染による赤潮などの影響を受け、大量死する事例が後を絶ちません。非常に絶滅が心配されている動物です。

マナティーは、見た目こそ地味かもしれませんが、穏やかでのんびり、とても平和な動物です。親子の愛情深いふれあいもそうですが、人に対しても非常にフレンドリーで、軟らかくよく動く口元や手の表情が豊かで、とても魅力的な動物です。よく見ていると、1日中見ていても飽きないですよ。「かわいい」でも「めずらしい」でも「おもしろい」でもいいので、多くの人が興味を持っていただくきっかけになれば本当にうれしいと思っています。

知っていただくこと、興味を持っていただくこと、好きになってもらうことが、マナティーたちの未来を少しでも明るくするきっかけになってもらえたらと願っています。私たちもよりマナティーの魅力を伝えられるように努力していきたいです。

マナティー館では、現在4頭のアメリカマナティーを飼育しており、「マナティー館」地階の水中観覧室で見ることができるという。

ご飯時の可愛らしい様子だけでなく、さまざまなことに器用に使うという前肢の動きを観察してみるのも面白そうだ。

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プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。