現存する世界最大の魚類として知られる「ジンベイザメ」。最大で全長18メートル以上にもなるという巨体を誇る一方で、少し離れた両目や大きな口は愛らしくて特徴的。

迫力満点でありながらとぼけた表情も見せてくれる、水族館の人気者だ。

このジンベイザメの目について、両目の表面が大量のうろこで覆われ、さらに眼球を引っ込ませられるという驚きの事実が判明した。自然環境や生物の調査研究などを行う、一般財団法人「沖縄美ら島財団」が取りまとめ、6月29日に学術雑誌「PLOS ONE」で発表された。

目の表面に無数のうろこを確認

この調査研究は、沖縄美ら島財団のほか、「沖縄科学技術大学院大学」、アメリカの「ジョージア水族館」など国内外の協力を得て実現。2019年7月ごろから約1年をかけ、実際に飼育されているジンベイザメのほか、標本の分析なども行われた。

この過程で、目の表面に大量のうろこがあると分かった。その数は片目でなんと約2900枚以上!目の表面にうろこを持つ脊椎動物はこれまで報告がなく、今回が初の事例という。ちなみにうろこが生えているのは「白眼」と呼ばれる瞳孔の周りだ。そして、サメのうろこは、人間の歯のような素材・構造でできているという。

提供:一般財団法人沖縄美ら島財団
提供:一般財団法人沖縄美ら島財団
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さらに、沖縄美ら海水族館とジョージア水族館で飼育されているジンベイザメの個体を観察したところ、眼球を眼窩に引き込み目を隠すことができることも分かったという。

眼球が動く範囲は、眼球の直径の約半分ほどといい、実際には約3~4センチを引っ込ませられることが確認されている。サメが眼球を引き込む事例は、過去に少数の種類で報告されているが、ジンベイザメで確認されたのは今回が初めてという。

眼球が引っ込む前と引っ込んだ後(提供:一般財団法人沖縄美ら島財団)
眼球が引っ込む前と引っ込んだ後(提供:一般財団法人沖縄美ら島財団)

目の表面にうろこがあること、眼球を引っ込められること、どちらも驚くべき生態だが、ジンベイザメにとってどんな意味があるのだろうか。研究チームの中心を務めた、沖縄美ら島財団総合研究センターの冨田武照さんに伺った。

サメのうろこは「歯」と呼んでも間違いではない

――なぜ、ジンベイザメの目を研究した?

水族館の飼育スタッフから、「ジンベイザメの目が引っ込むことがある」という話を聞いたのがきっかけです。水族館では以前から知られていた話のようですが、科学的な解明はされていなかったので、研究することにしました。

目の周囲にうろこがあることは、その過程で発見されました。ジンベイザメの目の標本を調べていたときに研究チームの一人が気付き、高解像度で見られる「マイクロCT」で観察すると、実際にうろこがあると分かったんです。そういう意味では、面白い現象に出会った形ですね。
 

――目のうろこはどんな素材、構造でできている?

サメのうろこは一般的な魚のうろこと違い、人間の歯のような素材・構造でできています。素材はリン酸カルシウムで、構造は表面にエナメル、その中に象牙質、土台に歯根があります。歯と呼んでも間違いではないですが、体外を覆うため、私たちはうろこと表現しています。
 

――目にうろこがあることには意味がある?

うろこの役割として有名なのは、水流などの抵抗を軽減するものですが、ジンベイザメの目にあるうろこは表面が分厚く、摩耗に強い構造となっています。恐らくですが、物理的な刺激などに抵抗するため、簡単に言うとけが防止の役割があると考えられます。
 

CTスキャンで拡大されたうろこ(提供:一般財団法人沖縄美ら島財団)
CTスキャンで拡大されたうろこ(提供:一般財団法人沖縄美ら島財団)

接触を避ける「まぶた」のような役割

――眼球が引っ込む構造はどうなっている?

実はそこはまだわかりません。推定ですが、僕ら人間の目の後ろには目を動かすための筋肉があります。ジンベイザメにも似たような筋肉があり、それで動かしていると思われます。
 

――眼球を引っ込められることに意味はあるの?

ジンベイザメは普段、目が外に出ている状態なので、海中の物などと眼球がぶつかりにくくなる効果が期待できるでしょう。ジンベイザメの目の内側には、ゼリー状の組織があるのですが、眼球を引っ込めるとこの組織がせり出して、表面の一部を覆ってくれます。接触を避ける、人間でいうと「まぶた」のような役割を果たしているのではないでしょうか。
 

――眼球はどんなときに引っ込む?

ジンベイザメが自分の意志で引っ込ませることができます。目に関して嫌なこと、悪いことがあった場合、例えば、海中で目に触られそうになると引っ込むことになると思います。

――目のうろこや眼球に関する生態は、全てのジンベイザメにあること?

今回の研究で調査した個体では、全てで確認できたのでそうだと思います。ただ、いつごろからこのような現象が現れるかは分かりません。ジンベイザメの子供は捕獲が難しいため、成長過程などを追うことがほぼできないのです。

サメの進化を解明する情報に

――ジンベイザメの特徴や生態で伝えたいことは?

今回の研究とは少しそれますが、沖縄美ら海水族館では「ジンタ」というジンベイザメを25年以上飼育しています。ここで、ジンベイザメが大人になるまでの過程が初めて確認されました。ジンタは2011~2012年ごろに、血中の性ホルモンの上昇などが確認されたので、大人になるまでは、十数年間の時間がかかることなどが分かりました。
 

国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館
国営沖縄記念公園(海洋博公園):沖縄美ら海水族館

――今回の研究結果はどんな分野に役立てられる?

これまでにも、サメの仲間はいろいろな方法で目を守ることが分かっています。サメがどのように進化していったのか解明するうえで、基礎になるような情報が得られたと思います。

――今後の目標は?

水族館という場所では、大学の研究機関などにはいない動物を研究することができます。これまでの常識とは違うことを発見して、発信できたらいいなと思います。

 

目のうろこや眼球を引っ込ませられるという特徴は、外敵から自分の身を守るためのものということだった。

また、沖縄美ら島財団は、この調査結果の意義について、「ジンベエザメは、体に対する眼の小ささから、視覚にあまり頼らないと一般的に考えられてきた。一方で近年、近距離の把握に視覚が重要な役割を果たしているとする説も唱えられる中で、本研究は、ジンベエザメが眼を厳重に保護していることを示しており、視覚が重要とする近年の説を支持するもの。」とも述べている。
 

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プライムオンライン編集部
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