沖縄政治に新たな潮流が生まれるかもしれない。式典に合わせて沖縄を訪れた菅前首相の“極秘会合”を独自にとらえた。参加したメンバーから読み取れる意味とは?保革一騎打の構図が変わり、閉塞感を打破できるのかが焦点だ。

来沖した菅元首相とパイプを持つ選挙の“キーマン”

2023年8月10日正午前。沖縄都市モノレールの3両編成の運行開始に合わせて、那覇空港駅で式典が開かれた。式典には玉城知事をはじめ、沖縄県選出の国会議員や県議などが出席した。

式典開始時間の数分前、居並ぶ政治家たちが一斉に立ち上がり頭を下げた。現れたのは菅義偉前首相だ。

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菅義偉 前首相:
官房長官、沖縄基地負担軽減担当大臣として渋滞解消に全力で取り組んできた。3両化が実現して運行されるのは感慨深い。これからもゆいレールを応援していきたい

式典で祝辞を述べた菅前首相。
官房長官時代、沖縄の政策は“菅案件”といわれるほど、剛腕ぶりを発揮した。その威光は今も健在だ。

午後2時。式典を終えた菅前首相は、ハイヤーに乗り込み、那覇市の老舗ホテルに向かった。

ホテルのエスカレーターを上がり、2階の1室に入室すると、県内9市の市長が、一堂に会していた。
保守系市長で構成する“チーム沖縄”との意見交換がセッティングされていたのだ。
会合に出席したある市長は「菅さんとモノレールとの関わりや、来年に控える県議選の情報交換だった」と話した。

会合後、同ホテルにはその後も次々と、企業や業界団体の代表が現れた。菅前首相は沖縄県経済界とも意見交換をこなし、さらには、八重瀬町、久米島町、宮古島市、豊見城市の自治体の代表者と10分刻みで意見交換を行った。

まさに「分刻み」のスケジュールがこなされている会場に、ある男性が訪れた。翁長県政で副知事を務めた安慶田(あげだ)光男氏だ。

安慶田元副知事は、菅前首相と旧知の仲だ。
「菅さんと会うのですか?」という報道陣の問いかけに対し「取材を受けることは何もないよ」とにべもない。
しかし、この日は水面下で、ある会合がセッティングされていた。

焼肉会合に現れた“革新”の平良識子氏

同日の午後5時
那覇市・松山の国道58号線に、1台の車がハザードを灯して停車していた。車内から、黒いスーツをまとった数人の男が現れた。SPだ。

さらに周辺には、かりゆしウェア姿の警察官が無線で交信を始め、一帯は物々しさを増していった。

午後5時2分
1台の黒塗りの車が、焼肉店のそばに乗り付けた。現れたのは、先ほど市内のホテルでも会合に参加していた、那覇市の知念覚(さとる)市長だ。

午後5時12分
その約10分後。1人の女性が小走りで店の中に入っていった。女性は、地域政党・社会大衆党(社大党)に所属する那覇市議会の平良識子(さとこ)市議。革新の有望株で、玉城知事と歩調を合わせている政治家だ。

午後5時14分
店舗周辺のSPの数が増えた。黒塗りの車の車列が、記者の目の前を横切り、焼き肉店前に横付けた。ひときわ大きいワンボックスカーから一人の男性が降り立った。菅前首相だ。

ほぼ同時に、先導していた車から安慶田元副知事が降り、焼き肉店に入っていった。

なぜ、この4人が一堂に会したのか。

安慶田元副知事と菅前首相は、翁長県政時代からの仲だ。
政府と辺野古移設を巡り、当時の政権と激しく対立していた翁長元知事。
その側近だった安慶田元副知事は、当時の菅官房長官と本音で話し合い、落としどころを探る「裏」の関係を築いていた。
そして、菅前首相にとっても翁長元知事の真意を探るために、安慶田元副知事は必要な存在だった。
二人はその後も関係を継続し、安慶田元副知事は菅前首相の後ろ盾を得て、影響力を保った。
その影響を受けた一人が那覇市の知念市長だ。

安慶田元副知事は那覇市長選で知念支持に奔走した。
当初は静観するとみられていた現職市長は選挙が始まる直前に知念「支持」を表明し、安慶田元副知事は「現職市長の後継指名」を演出した。

反面、自民党県連は、自民党から離れた翁長元知事に付いた安慶田元副知事を「永久戦犯」と批判している。
那覇市長選ではどちらも知念支持を表明していたが、選対事務所は「自民党用」「安慶田用」と2つ構えられるなど、その溝は深い。
安慶田元副知事との連携に県連からは不満の声も聞こえるが、菅前首相の存在もあり、表立って批判する動きは見られない。

一方、この場に似つかわしくない人物が、地域政党・社会大衆党(社大党)の所属である平良識子市議だ。かつて、沖縄の本土復帰を主導した社大党は、復帰後は革新路線へ傾倒し、自民党とは相対する立場だ。

平良市議は革新の有望株として、これまでの国政の候補者としても、度々、名前が取り沙汰されていた。しかし一昨年、那覇市の副市長人事で、身内である革新勢力の一部が反対に回り、人事案が否決された。副市長就任の計画は頓挫し、この一件以降、平良市議は那覇市の与党である革新勢力と距離を置いている。

「菅・安慶田ライン」と「革新若手の筆頭格・平良識子」の接近について、関係者は「安慶田が来年の県議選で平良を担ぎたい思惑がある。菅さんと知念市長を後ろ盾に、革新から鞍替えするのでは」と観測している。

一方の平良市議は、沖縄テレビの取材に対し「菅前総理と会食があったのは事実だが、当日まで誰が来るかは、分からなかった。現時点で社大党を離れるつもりなく、県議選については現時点で白紙、何も決まっていない」と説明した。

何のための“政党”なのか、混沌とする県内政局

沖縄県内では去年、県知事選をはじめとする「選挙イヤー」だった。
その多くは「県政与党勢力(オール沖縄)」と「自公勢力」という構図だった。

選挙は自分の住む街や沖縄の将来を決めるため、有権者が政治に参加する手段だが、県内の投票率は下落傾向にある。これは「県政与党勢力」や「自公勢力」が沖縄の抱える課題を解決できていなという、閉塞感の表れと言えるのではないか。

沖縄の選挙で「常」とされてきた保革一騎打の構図が変わり、新たな潮流が生まれようとしているのか。閉塞感を打破する手立てはあるのか。

沖縄の政治は、新たな局面を迎えようとしている。

沖縄テレビ
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