役所に行かずに「自宅で相談したり、申請手続きを済ませたい」と思ったことはないだろうか?
こうした願望の実現を感じさせる取り組みを、東京・江戸川区が9月20日に始めた。それがメタバース(仮想空間)上で、相談や申請手続きができる「メタバース区役所」を開設するための実証実験だ。
江戸川区は2023年4月に「江戸川区DX推進指針」を策定し、2028年の新庁舎移転を機に「来庁不要の区役所」の実現を目指し、行政手続や相談業務のオンライン化に取り組んでいる。
その一環として「メタバース区役所」を開設するとのことだが、いつ頃できるのだろうか? また実際に開設されると、区役所に行かなくても、すべてのサービスを受けられるようになるのか?
江戸川区の担当者に“来庁不要”の実現時期を聞いた。
目的は「公平に区役所に来る体験の提供」
――そもそも「メタバース区役所」とは何?
メタバース上に構築した、相談業務や電子申請ができる区役所のことです。
――なぜ「来庁不要の区役所」として、メタバースに着目したの?
メタバースは距離や広さの制約がなく、物理的な障壁をなくすことが可能です。また、匿名性を活かして、気軽に相談できるなどの心理的な負担軽減も期待できます。
区内には身体が不自由で外出が困難など、様々な事情で、現実の区役所に来ることができない方がいます。メタバースであれば、仮想空間ではありますが、そのような区民の方々にも公平に区役所に来る体験(機会)を提供できます。
区民サービスの選択肢を増やし、区民サービスを向上させていくことが狙いです。
――実証実験を行う理由は?
今回のような取り組みは全国初だと認識しております。そのため、利用ルールや運用マニュアルなどが存在しません。
また、対応する区職員も初めての経験であるため、実証実験を通して、課題等を検証し、利用ルールや運営マニュアル等の作成に反映したり、サービスの提供に向けた参考にしたりしていきます。まずは実証実験として、「障害者福祉」の分野から行っていきます。
参加者「行くのは難しいので、とても便利」
――実証実験はどのように行う?
区内の障害者団体と協力していきます。区内の障害者団体の方にモニターとして協力してもらい、「メタバース区役所」を使ってみた感想や意見、改善提案などをいただき、利用ルールや運営マニュアルの作成に反映させたり、サービスの提供の際の参考にしたりします。
実証実験は9月20日から開始し、メタバース区役所を体験する時間割を決めて、障害者団体の方に順番に使ってもらいます。区の職員(障害者福祉課の職員)がアバターとなって、対応します。
――実証実験では、どのようなことを確認する?
「メタバース区役所」として、実際にサービスを提供するのであれば、どのような機能やどのような職員対応が必要かなどを確認します。また、アバターとなって対応する職員のスキルアップも、実証実験を通じて図っていきます。

――実証実験に参加した人は、どのような感想を話している?
「手足に障害があり、電動車いすを使用する女性」から、以下の意見がありました。
・区役所への用事があっても、同行者が見つからないこともあり、不便さを感じていた
・画面の向こうに人がいることが感じられて、リアルな感じがあった
・限られた時間の中で区役所に行くのは難しいので、とても便利だと思う
開設は5年後の2028年を想定
――「メタバース区役所」では、どのようなサービスを受けることができるようになる?
相談業務と電子申請可能な業務です。相談業務は「障害者福祉」から始まり、順次、「子育て」や「教育」、「健康」など、他分野にも拡大します。
2028年までには、区役所のすべての窓口でメタバースのサービスが提供できるようにしていきたいと考えています。
――開設は2028年ということ?
本格的な「メタバース区役所」は、2028年の新庁舎移転と同時開設を想定しています。個別のテーマごとのメタバースを使った相談対応や電子申請は、実証実験の結果、サービスとして提供可能と判断できれば、遅くとも1年以内にはサービスを開始できると考えています。
――「メタバース区役所」が開設されたら、区役所に行かなくてもすべてのサービスを受けられるようになる?
2028年の新庁舎移転時には、本格的な「メタバース区役所」として開設し、現実の区役所と同じ程度のサービスが受けられるようにしていく予定です。そのため、メタバースを使えば、来庁不要になります。

江戸川区によると全国初だという「メタバース区役所」。この取り組みが実現し、そしていろいろな自治体に広がってほしい。