400年以上続く「郡上おどり」は、新型コロナの影響で中止や規模縮小が続いていたが、2023年は4年ぶりの通常開催となった。町にはカラカラというげたの音と、踊り助平たちの笑顔があふれていた。
地元の人も県外の人もひとつに

“水とおどりの城下町”、岐阜県郡上市の郡上八幡。

午後3時。“郡上おどり”が始まるまでまだ5時間もあるが、町には早くもげたや浴衣姿の人たちがいた。

愛知県豊橋市から来た20代の専門学生:
郡上おどりに使う、踊りげたが気になっていて。カラカラ音が鳴って面白くて楽しいです
多治見市からやってきた、子供の頃から仲良しの3人組は…。

真新しいげたがお似合いだ。

岐阜県多治見市から来た50代会社員の女性:
いま買ったんですよ。今日デビューの2人が
多治見市から一緒に訪れた50代主婦の女性:
フィットして気持ちいい、痛くない。慣らすためにも今から履いていきます
イケイケに見える地元の高校3年生の姿もあった。

地元の高校3年生(17):
古い歴史があるので、自慢できる伝統だと思っています。夏イコール踊りみたいな感じですね、昔から
一緒に訪れた地元の高校3年生(17):
高3です。ラストの夏休みです。高校ラストなので、たくさん楽しみたいと思っています
移住してきたげた職人も

午後6時、日も落ちかけるこの時間ににぎわっていたのは、郡上おどりに欠かせないげたのお店「郡上木履(ぐじょうもくり)」。

郡上木履の店主の母:
もう在庫が…お客さまに鼻緒をすげる分がなくなってしまったので、工房から持ってきてもらわないと間に合わなかった
郡上おどりのメイン「徹夜おどり」に向けて、約1,000足の“踊りげた”を用意していた。

このお店の踊りげたはすべて手作りで、職人の諸橋有斗(もろはし・ゆうと 35)さんが、一から手掛けている。

諸橋有斗さん:
これで200足分くらい。これを徹夜おどりまでに、あと1週間くらいでがんばって仕上げるっていう感じですね

諸橋さんは愛知・尾張旭市出身で、9年前の2014年から郡上八幡に移り住み、げたを作っている。

諸橋有斗さん:
木工とか森林とか、勉強をしていて、その中で郡上おどりに遊びに来た時に「実は郡上のげたが地元で作られてなくて」っていう話を聞いて、それはすごくもったいないこと。この土地で、何か自分で仕事を作ってやっていきたいなって
郡上おどりに欠かせない踊りげたを「地元で作りたい」と、ここで一から手作りしている。材料も主に郡上産のヒノキと、“メイドイン郡上”がこだわりだ。

諸橋有斗さん:
今年(2023年)は4年ぶりの通常開催ということもあって、例年以上にたくさん出ているので、徹夜おどりに向けて在庫切れにならないように頑張って作っているところです
郡上おどりは江戸時代から400年以上続いていて、戦時中も途切れることなく続いてきたが、新型コロナの影響で2020年と21年は中止になった。

2022年は開催されたが、日程は縮小されていて、2023年、ようやく4年ぶりに通常開催となった。

諸橋さんにとっても、待ちに待った夏だ。
諸橋有斗さん:
全国から踊りを楽しみに来てくださって、うちのげたを買っておどりに参加したいって思ってもらえるお客さんが結構多いので、そういう皆さんにげたをしっかり届けられるように
初めてのげたを喜ぶ3歳の女の子も

踊りが始まる直前、近くの履物店に駆け込んだのは、愛知県みよし市から来た辻さん一家。

3歳の長女、凛乃ちゃんのげたを選んでいた。

店員:
これくらい余る感じ。これから1~2年くらいは履ける感じ

父親の辻龍晟さん:
先余っていても、ぜんぜん大丈夫?
店員:
そうですね
母親の辻美月さん:
ファーストシューズならぬ、ファーストげた!
美月さんの実家が郡上市ということでやってきたが、長女の凛乃ちゃんにとっては、これが初めての郡上おどりだ。
辻美月さん:
絶対楽しいし、この文化があるっていうのを知ってほしいって感じですかね
辻凛乃ちゃん:
ママ!いま履く!

初めてのげたを気に入ったようだ。
うさぎを肩に乗せて参加する理由

午後8時、踊りが始まった。

踊りばやしとげたの音。地元の踊り助平はもちろん、日本全国、そして世界からも踊り子が輪を作る。

地元の女性(26):
郡上おどりでしか聞かない音なので、げたの音とか手拍子の音とか、毎年聞きたくなるなって
愛知県一宮市から来た50代会社員の女性:
こうやって(げたを)鳴らすのがここでしかないから
一宮市から来た公務員の60代男性:
(音が)揃うと楽しい
一体となった踊りの輪の中に、肩にうさぎを乗せている男性がいた。

岐阜県瑞穂市から来た各務敦さん(58):
正直、肩がきついです。きついし、暑いし…

ライオンラビットの千菊丸くん(せんぎくまる オス・2)。郡上おどりにはいつも一緒に訪れているといいます。

各務敦さん:
みんな笑顔になってくれるんですよ。「あれ!?」とか言って。ほんのちょこっとでも、笑顔になってくれたらいいかなっていうのもあります。(ここでは)最近「うさぎのおじさん」で通っています
うさぎをきっかけに、新たな“友達の輪”も広がっているそうだ。
全国から世界から…踊り助平たちが集まる「郡上おどり」

げた職人・諸橋さんのお店「郡上木履」も大忙しになっていた。げたを買いに来たり、緩んだ鼻緒を直しに来たりと、お客さんが絶えない。

諸橋有斗さん:
まだ400年という歴史の中の、自分は10年くらいしかやってないですけど、うちのげたを買ったから、せっかくだから踊りに参加しようみたいな。郡上おどりに頼るのではなくて、うちのげたをきっかけに、郡上おどりを発信していけるようなモノづくりを続けていきたいなと
郡上おどりには、遠い所から訪れる人も大勢います。
ノルウェー出身のエレン・ハウガンさん(30):
東京に住んでいたんですけど、いまは(全国)あちこちに旅をしていて。町全員がみんなで踊るところがすごくいいなと思っています

神奈川県から3世代で踊りにきた家族がいた。おじいさんの“郡上おどり歴”は約半世紀だという。

祖父(77):
孫、この2人も小さいときに来ているんですよ
孫は11年ぶりの郡上おどりだ。

孫(22):
感慨深いものがあります。すごく思い出になるなと。(家族で)これも何回できるかわからないので、一瞬一瞬かみしめたいなと
娘(48)さん:
息子たちも自分の家族ができたら、ぜひお嫁さんとか子供たちと一緒に来てくれて、そこに私が今度はおばあちゃんとして行きたいなと

城下町に響く、踊りばやしとげたの音。郡上おどりは9月9日の「おどり納め」まで続いた。
2023年8月10日放送
(東海テレビ)