ペットボトルをリサイクルしやすくするために、どのくらいの人がラベルを剥がして分別しているだろうか。中にはこの作業を面倒だと感じている人もいるのではないだろうか。

キリンホールディングス株式会社が開発した「リサイクル対応ペットボトル ダイレクト印刷技術」が広まれば、そんな“面倒”が必要なくなるかもしれない。

ペットボトル直接印刷見本(出典:キリンホールディングス)
ペットボトル直接印刷見本(出典:キリンホールディングス)
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ペットボトルの「ラベル」は商品名や原材料などを表示するために必要なのだが、リサイクルする際には分別して回収する必要がある。

しかし、駅など家庭以外の商業施設から集められるペットボトルは、ラベルが分別されていない物が多く、使用済みペットボトルを回収して新しいペットボトルを作る「ボトルtoボトル」推進の課題とされてきたという。

また、これまでの技術でペットボトルに直接印刷するのは、インクが残るなどして品質が落ちるため、PETボトルリサイクル推進協議会のガイドラインで禁止されている。

(画像はイメージ)
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そんな中、キリンHDのパッケージイノベーション研究所は、富士フイルム株式会社が開発した「剥離インク」を使い、このインクをリサイクル過程の洗浄で分離させる技術の開発に成功。

この「Recyclable Direct PET bottle Printing technology(RDP技術)」と名付けられた印刷方法は、バーコードのような細かな表示も可能で、ペットボトルの透明感も損なわれず、フルカラーで表現できるという。

温室効果ガスを84%削減

さらにラベルの材料である樹脂フィルムが不要になるので、同社によるとペットボトル1本当たりのプラスチック使用量は約8%、温室効果ガスは84%削減できるそうだ。

そこで現在、リサイクルが可能な印刷技術であるRDP技術が同協議会のガイドラインに適合するかどうかの申請をし、審議を受けている状況だ。

今後については「当RDP技術を自社利用に留めず、ライセンスアウトなどの手段も含めて広く展開していくことで、“プラスチックが循環し続ける社会“の早期実現を目指します」としている。

多くの飲料メーカーのペットボトルからラベルがなくなれば、リサイクルの手間が減るだけではなく、環境負荷軽減にも大きなインパクトがありそうだ。

ところで「洗浄」でインクを落とすとのことだが、今のリサイクル過程と同じ「洗浄」というこことなのだろうか? また、ペットボトルのラベルを剥がさないとどんな負担がかかっているのか?

同研究所の吉井孝平さんに聞いてみた。

現状は「目視で検査」「手作業で分別」

――インクを落とすのは今と同じ「洗浄」でいいの?他にリサイクルへの影響はない?

特別な洗浄方法ではなく、これまでと同様のリサイクル工程を想定しております。PETボトルリサイクル推進協議会の定める、リサイクル性評価方法・基準を満たすことを確認したため、同協議会へ申請しました。


――ラベルを分別していないペットボトルは、リサイクルでどんな負担になっていた?

リサイクル業者でのリサイクル処理の工程は「粉砕→洗浄→素材分離(キャップ・ラベル)→除染→再ペレット化」となります。

ラベルが剥がされていない場合、粉砕工程の前後で目視による検査や、ラベルの除去が加えて必要になるため、大きな負担になっています。


――この技術は、どんな形のペットボトルにも印刷できる?

丸ボトルや角ボトルにも印刷は可能ですが、形状に制約はございます。


――84%の温室効果ガスが削減可能とのことだが、現状のラベルではどの工程で温室効果ガスが出るの?

通常のラベル(ここではシュリンクラベル)との比較による試算になります。シュリンクラベルは、フィルムの製造、印刷、輸送、装着といった工程が必要ですが、ダイレクト印刷技術は、この工程が省略できるため、温室効果ガス効果が大きくなります。


――実用化はいつごろを予定している?

まだ基礎技術を開発した段階であり、現時点で今後の展開は未定です。


――この技術は自社利用に留めないということは、他のメーカーにも広めていく?

まだ基礎技術を開発した段階であり、現時点での今後の展開は未定ですが、技術を広く活用いただけることを目指して開発に取り組みました。

(画像はイメージ)
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吉井さんによると、ペットボトルリサイクル推進協議会調べで、ジュースなどを入れたリサイクルできる指定ペットボトルの販売量は2021年度で年間約58万トン。そのうち回収された量は約55万トンで、回収率は94.0%だという。

それだけの大量のペットボトルからラベルを分別する手間がなくなれば、環境保護や資源循環の大きな力になりそうだ。

プライムオンライン編集部
プライムオンライン編集部

FNNプライムオンラインのオリジナル取材班が、ネットで話題になっている事象や気になる社会問題を独自の視点をまじえて取材しています。