人気ロックバンド「Dragon Ash」のボーカル Kjこと、降谷建志さん(44)が心臓の不調により休養することを発表した。

降谷さんによると、原因と考えられるのは「狭心症」もしくは「心臓神経症」で、深呼吸をして治まる場合もあれば激痛で救急搬送されたこともあるという。

この2つの病気の原因と症状、さらには予防法について、いとう王子神谷内科外科クリニックの伊藤博道院長に聞いた。

心臓に酸素供給ができない「狭心症」

ーー「狭心症」はどういった病気?

胸の痛みを訴える患者さんの中で、心臓に起因する病態(病気の容態)を言います。

典型的な「狭心症」は、心臓の筋肉を養う血管が狭くなったり、または、一時的に収縮することによって血の巡りが悪くなり“心筋虚血”を起こし、心臓に十分な酸素供給ができないことで起こる心臓の痛みがあります。

降谷建志さん(提供:ビクターエンタテインメント)
降谷建志さん(提供:ビクターエンタテインメント)
この記事の画像(11枚)

ーー「心臓神経症」は?

神経からくる心臓の痛みを「心臓神経症」といいます。

狭心症と同様に、胸の痛みや動悸、息切れ、めまいなどの症状が心臓のトラブルによってあるにも関わらず、心臓の血管や働きなどを精密検査しても明らかな異常所見が見つからないものをいいます。

異常所見がない場合は「心臓神経症」

降谷さんは、「心臓を鷲掴みにされている様な強烈な胸痛と目眩(めまい)、立ちくらみ。それらが日々ランダムに襲ってくる感じ」と訴えるが、詳しい検査をしても数値的な異常は見られなかったという。

提供:ビクターエンタテインメント
提供:ビクターエンタテインメント

ーー数値的な異常がない場合は「心臓神経症」の可能性?

胸の痛みを訴えて我々の外来に来る患者さんの30~50%も、異常所見がない場合があります。

心臓の専門の施設で調べても、やはり30~50%の人は、心臓の血管や心臓の超音波や負荷試験に異常無しと出ます。

いとう王子神谷内科外科クリニック 伊藤博道院長
いとう王子神谷内科外科クリニック 伊藤博道院長

ですから、心臓そのものにトラブルがなくても、なぜか心臓の痛みが起こるケースは少なくありません。どちらかというと、我々のような町医者の診る患者さんでは、実際に心臓の血管が狭くなっている「狭心症」の例は少なく、半分以上は心臓に問題のない患者さんです。

従って、降谷さんの場合も、心臓血管の流れ、心電図、心エコー、造影CT、シンチグラフィーなどさまざまな精密検査をやっても数値上の異常が見られないなら、おそらく心臓神経症の可能性が高いのかなと思います。

提供:ビクターエンタテインメント
提供:ビクターエンタテインメント

ただ、心臓神経症に極めて類似した、「異型狭心症」(別名:冠攣縮性狭心症・かんれんしゅくせいきょうしんしょう)というものがあります。

普通の狭心症は、“労作性狭心症”と言って、運動した後などに血管が相対的に狭くなって、心臓に十分な酸素供給ができない状態です。

しかし、「異型狭心症」は安静時に、血管がわずかに狭くなって、画像検査でもほとんど気付かれることがなく、症状だけが出るというものです。

心臓神経症」はストレスが原因

いつ症状がでるか分からない「狭心症」と「心臓神経症」。実は「心臓神経症」は身近な病気だと伊藤院長は明かす。

(イメージ)
(イメージ)

ーー心臓神経症は身近な病気?

胸痛を訴える患者の半分程度は心臓神経症と示唆されることから、身近な病態、身近な症状だと言えます。

統計的には30代の若い方と50~60代の中年の方にピークがあります。

30代は女性の方が若干多いですが、受診した患者さんの比率が女性の方が男性よりも2倍程度多いということもあり、実際の数字はつかみにくいところがあります。

(イメージ)
(イメージ)

ーー若い女性に多く見られる理由は?

1つは、ストレスにより交感神経が緊張している状態が長いことが発症の要因として考えられます。

交感神経が強く興奮すると感受性が高くなるので、心臓のわずかな変化や動きが敏感に感じられます。そして痛みに意識が集中します。

若い女性の場合は、自分の健康に加えて、仕事や家族、子供の心配事、身体的な負担が大きい時期もあるので、ストレスを比較的溜め込みやすいと思います。

(イメージ)
(イメージ)

ーー発症頻度は?

「今日の臨床サポート」という書物によると、心臓神経症の発症頻度は不明ですが、代表的な類縁疾患である“パニック障害”は、生涯有病率で1~3%となっています。

もう1つ目安となるのは、胸痛で救急外来を受診する患者の17~25%は心臓神経症。また、循環器科を受診する外来患者の30~60%が心臓神経症やうつ病であると書いてあります。

よって、胸痛を訴える患者さんの30~50%は実際の心臓疾患ではなく、心臓神経症であったという報告です。

予防は「食事」と「睡眠」

では日々の生活で何を心掛ければ良いのか。

伊藤院長は、血管収縮の原因となる、たばことカフェインの過剰摂取を控えた上で、バランスの良い食事と良好な睡眠が大事だと話す。

(イメージ)
(イメージ)

ーーたばこは影響する?

たばこを吸うと血管が収縮するので、心臓神経症、もしくは、異型狭心症になるリスクが増します。

また、コーヒーの飲み過ぎはカフェインによって過度に交感神経が興奮してしまい、心臓神経症の頻度が高くなると考えます。

一方、お酒は血管を拡張する要素なので、心臓神経症を起こすとは考えにくいです。しかし過度な飲酒は動悸など循環器に悪い影響を及ぼすので、適度に摂取することを勧めます。

ーー死亡リスクは?

心臓神経症は、他の病気を除外した上で辿り着く診断なので、粘り強い治療は必要かもしれませんが、命に関わる可能性は極めて低いです。

(イメージ)
(イメージ)

ーー予防するためには?

交感神経と副交感神経のバランスを良好に保つ、つまり、自律神経の安定した状態を作ることが非常に重要です。

具体的にいうと、栄養と休養、特に睡眠が非常に大事です。
健康な心を作るためには、バランスの良い食事と入浴で1日の疲れをとります。

交感神経をしっかりとクールダウンして、副交感神経を優位にしてリラックスした状態で良好な睡眠を十分にとりましょう。

睡眠で交感神経をしっかりと休ませて、緊張をリセットすると心臓神経症にはなりにくいと思います。
リラクゼーションを日々追求していくことが、心臓神経症を退ける大事なポイントだと考えます。

(イメージ)
(イメージ)

また、食べ物の中には、幸せホルモンと呼ばれる「セロトニン」を生むものがあります。
セロトニンとは、外からのストレスを緩和してくれるものです。

例えば赤身の肉やマグロにはトリプトファンが含まれ、それがセロトニンを生みます。
セロトニンを増やす食事と生活を心掛けてください。

治療の一部としてセロトニンを補うような治療もありますが、できれば日々の生活の中でストレスをなるべく溜めないようにして、セロトニンを増やす生活習慣を心がけていただくのが良いと考えます。