8月27日、愛媛・松山市の中島で4年ぶりに開催されたトライアスロンに、大会史上初めて視覚障がいの選手が出場した。ガイド役のパートナーと中島を駆け抜けた全盲の鉄人の挑戦を追った。

憧れのトライアスロン出場へ

スイム1.5km、バイク40km、ラン10km…その過酷さから、トライアスロンは“鉄人レース”とも呼ばれている。愛媛県の松山市沖に浮かぶ中島で行われた「トライアスロン中島大会」は、新型コロナの影響で4年ぶりの開催だ。

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「スイムから自転車に移る時がなかなか大変。この雰囲気にのまれないように」と語るのは、大会を心待ちにしていた選手のひとり、佐々木一明さん(62)。全盲で目が見えない。佐々木さんにとっては、トライアスロン初挑戦、そして視覚障がい者が参加するのも大会史上初めてのことだ。

佐々木一明さん:
小学校に入るときに身体検査で視力が弱いので、それで調べたら網膜色素変性症ということが分かったんですな。30過ぎだったと思いますね、見えなくなったのはね

愛媛・八幡浜市で鍼灸院を営む佐々木さん。現在はわずかに光を感じる程度だが、トライアスロンを目指すきっかけとなったのは9年前、2人乗りのタンデム自転車との出会いだった。

佐々木一明さん:
タンデム自転車のイベントに出たときに、パイロットの人がトライアスロンをやる方で、それで話をしている内にちょっとできたらやってみたいなという気になりました

当初は憧れだったトライアスロン出場は、地道なトレーニングを重ねることで目標へと変わり、佐々木さんは2020年の中島大会出場を決意する。

「なんか夫婦みたいな感じかな」

そんな佐々木さんのサポート役を買って出たのは、ボランティアパイロットの浅井裕史さん(55)だ。

浅井裕史さん:
ガイドは最初から最後まで1人で、一緒に2人での参加が条件ということで聞いて、それはそれで大変だなあと思ったんですけど

浅井さんはフルマラソンはもちろん、中島トライアスロンにも23年連続で出場した、鉄人の中の鉄人だ。

スタートからゴールまで、2人はまさに運命共同体。佐々木さんがプールで泳いだ後、浅井さんが加わり、バイクとランを練習する。

佐々木一明さん:
もうちょっとですね、バイクの後のランでバテてしまうので、ここがもうちょっとクリアできたらいけそうなんですけど

懸命な努力で、佐々木さんはトライアスロンを3時間半ほどで完走できるペースで走れるようになった。

しかしその矢先、新型コロナの影響で目標にしていたトライアスロン中島大会が1年延期になってしまった。その後も新型コロナの猛威は収まらず3年続けて大会は延期に。そんな中でも2人の大会にかける熱は冷めることはなかった。

浅井裕史さん:
佐々木さんをゴールに連れて行くのが役目なので、僕は佐々木さんが100としたら、120、130以上の力をもってないといけないと思う

佐々木一明さん:
なんか今は夫婦みたいな感じかな。自然に次の行動が一緒に動き始めたりとか、本当にこんなに付き合ってくれるから感謝です。目標はまず完走で3時間20分

2人で完走…4年越しの思いが結実

練習を始めて4年余り。ついに本番がやってきた。佐々木さんは「なんかね、緊張もとれていい感じです。開き直りました」と話す。

2人で必ず完走する。その思いを胸に、レースがスタート。スイム・バイク・ランと2人で呼吸を合わせ、リズムを合わせ、ゴールを目指す。

そしてついに、ゴール。目標の3時間20分には届かなかったが、堂々の完走だ。

佐々木一明さん:
ほっとしました…。もうちょっと速くなるかと思ったけど甘かったね、甘かったです。でもね、自分の中でもそれだけじゃない達成感がありますね。見える見えないに関係なく、62歳で初めてトライアスロンを完走したという

浅井裕史さん:
感動がこみあげてきてちょっと…いろいろこれまでの4年間の…やばい…

佐々木一明さん:
声聞いてたら涙出てくる

浅井裕史さん:
楽しみましたな、楽しかったな。お疲れさまでした

佐々木一明さん:
お世話になりました。またよろしくお願いします

ガイド役のパートナーと中島を駆け抜けた全盲の鉄人。4年越しの思いが結実した瞬間だった。 

(テレビ愛媛)

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