クラフトチョコメーカー「Minimal(ミニマル)」。人気商品は、カカオ豆と砂糖のみで作られた板チョコ「SAVORY(1490円)」だ。

ザクザクとした食感のチョコレート
ザクザクとした食感のチョコレート
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リポート:
ザクザクしていて、ブドウの香りが広がってきました。
別のチョコ頂きます。――全然違う。こちらは、ふわっと口の中に薬草の風味のような。

2つの材料で多彩な味を表現するための隠し味は、「Bean to Bar(ビーン トゥー バー)」と呼ばれる製造方法にある。

生産者と共に豆の味を最大限に

――Bean to Barとは、どういったものでしょうか?

Minimal・山下貴嗣代表:
カカオの豆を自分たちで仕入れてきて、自分たちの工房で、手作りでチョコを仕上げる。この、「豆からチョコまで、一気通貫して生産するスタイル」をいう。

チョコレートの製造は、カカオ豆を仕入れる商社や一次加工メーカーなど、それぞれの役割が分かれているのが一般的。

一方Bean to Barでは、カカオ豆からチョコレートになるまでの行程の全てを自社で担うことで、豆の味を最大限に引き出すことができるという。

Minimal・山下貴嗣代表:
(訪れた生産地で)最初にやるのは、彼らと一緒にチョコレートワークショップ。

「きちんと生産するとおいしくなるから、こういうふうにしてくれたら、僕は高いお金で買う」と、交渉している。

直接豆を買い付けるBean to Barの特長を生かし、生産者と共に、より質の良い豆を生み出しているミニマル。

こうして作られたチョコレートは消費者の共感を呼び、応援購入サービスのMakuakeで新商品を先行販売したところ、購入額は1000万円を超えた。

さらに、9月16日に東京・祖師ヶ谷大蔵でオープンを迎える4年ぶりの新店には、工房を併設。

パティシエが作る様子を見て体感できる
パティシエが作る様子を見て体感できる

パティシエが実際につくる様子を目で見て体感でき、これまで大切にしてきた「風味」に付加価値をプラスすることで、来店客の体験価値向上につなげる。

Minimal・山下貴嗣代表:
豆の味によって、チョコの味が違うって知らないじゃないですか。そのうち、推しの農園がでてくるかもしれない。

今回のお店がまさにそうだが、新しいチョコレートの体験が広がっていって、お菓子や高級ショコラだけじゃないBean to Barのチョコ文化が広がってくといい。

望んでいるのは「満足のいく体験」

「Live News α」では、一橋ビジネススクール教授の鈴木智子さんに話を聞いた。

堤 礼実 キャスター:
おいしそうなチョコレート、たくさん出てきましたね。

一橋ビジネススクール教授・鈴木智子さん:
そうですね。ただ、消費者が本当に望んでいるのは、物やサービスそのものではなく、満足のいく体験なんです。

今回のミニマルの新業態“パティスリー”が、本当にお客様に楽しんでいただきたいのは、高品質なチョコレートではないのかもしれません。

パティエシエたちの手仕事によって生み出される、芸術的なチョコレートの出来上がりに立ち会える工房体験の提供という付加価値に、意味がありそうです。

堤 礼実 キャスター:
確かに、食べておいしいだけではなく、そこにプラスαの体験があると嬉しくなりますよね。

一橋ビジネススクール教授・鈴木智子さん:
ミニマルのチョコレートは、余分なものを引き算するミニマリズムの考えで作られています。

そして、後に残った大切なものがザクザクとしたカカオ豆の新しい食感であり、スキっとしたクリアなカカオ豆の香りなんです。

こうした、五感に訴えるほかにはない体験があると、愛着が深まり、ファンを増やす大きな力になるのです。

堤 礼実 キャスター:
そういったことで支持されているものとして、どのようなものがあるのでしょうか。

一橋ビジネススクール教授・鈴木智子さん:
例えば、スターバックスがそうです。目に映るおしゃれな内装、耳に心地良いBGM、コーヒーの香りやカップの感覚、そして、口に運ぶおいしさ。

こうした五感に訴えることで、自分にとってくつろげる第3の場所・サードプレイスというスターバックスのコンセプトを、顧客は体全体で感じることができるのです。

今回のミニマルの新しい店舗も、ブランドのストーリーを顧客に伝えるためのベストなコミュニケーションを考えたとき、Bean to Barのプロセスを、お客様に実際に見て頂くことが一番だと考えたのではないでしょうか。

心が動く体験があるとロイヤリティ・ループと呼ばれる再トリガー・再購入・再消費の継続的サイクルに顧客を参加させることができます。

物やサービスが他社にまねされることはあっても、ブランド特有のストーリーに密接に結びついた優れた顧客体験の提供を、競合他社が追随するのは非常に困難です。

これは、激しい競争を勝ち抜くための戦略となります。

堤 礼実 キャスター:
さまざまな業界で、さまざまな取り組みが行われている今、私たち消費者も、ほかと違う何かがあるのかを、無意識のうちに考えて選択しているように思います。

こうした一つ一つの体験から、あらゆるジャンルで多くの可能性が広がっていくことを期待したいです。
(「Live News α」9月5日放送分より)