9月1日から3日まで富山・富山市の八尾町(やつおまち)で繰り広げられた「おわら風の盆」。3日間で八尾を訪れた人は約19万人と、コロナ禍前の2019年を上回り、多くの人を魅了した。
その「おわら風の盆」に特別な思いを持って臨んだ、ある男性を追った。

多くの観光客を魅了「おわら風の盆」

立春から数えて210日目、台風がよく来るとされる雑節「二百十日(にひゃくとおか)」の風を封じ、五穀豊穣(ほうじょう)を願って歌や踊りを披露する八尾の伝統行事「おわら風の盆」。日が暮れた坂の町には哀調を帯びた胡弓(こきゅう)の音色が響き、優美な踊りが披露されていた。

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コロナ禍による制限で、2022年に引き続き演舞場は設けず、各町内で規模を縮小して開催。それでも、2023年は深夜の町流しは各町が自主的に行うことを認められるなど、制限も少しずつ緩和されている。

観光客からは、「ずっと念願だったので、やっと実現した」「風情があって感動した」「おわら風の盆の踊りがきれい。一緒に踊りたい」などの声が聞かれた。

11ある町の一つ、「東町(ひがしまち)」では、女性の踊り子がウグイス色の浴衣に、金と銀の市松模様の帯を締め、とても華やか。男性の法被にはササリンドウが描かれている。

そんな東町で力強く踊るのは、おわらの初日の9月1日に20歳の誕生日を迎えた金厚佑進さん。金厚さんにとって「おわら」は生活の一部。2023年は特別な思いで臨んでいた。

“踊り手”から“地方”へ

本番1週間前。子どもたちに優しく踊りを教える金厚さんの姿があった。所作の一つ一つがきれいに見えるように、丁寧に教えていく。

東町・金厚佑進さん:
次の世代に残していかないといけないということを、若いうちから意識していかないといけないと思っている。使命感を持ちながら指導している

そんな金厚さんには、もう一つの目標があった。それは、三味線や唄を担当する地方(じかた)として胡弓を演奏することだ。

金厚さんが胡弓を始めたのは、中学生の時に所属した郷土芸能部がきっかけだった。2022年のおわらが終わった頃、本格的に地方を目指し、町のベテラン奏者に弟子入りして腕を磨いてきた。

東町・金厚佑進さん:
踊りは25、6歳で一応引退ってことになっていて、そこから胡弓を始めようとなると1、2年では済まないくらい練習を積まないといけない。早くから地方がやりたいなと思って、今やっている

次世代に受け継がれる“おわらの魅力”

公式のおわらでは踊り手のため披露できないが、深夜に有志で行う町流しで、2023年に初めて東町の地方として胡弓を弾くと心に決めていた。

最初は踊りで参加していた金厚さん。ついに胡弓を弾く機会が与えられた。

「胡弓」の師匠・長谷川晃司さん:
緊張するんか。楽しく弾かんまい

有志で行う町流しに地方として参加する金厚さん
有志で行う町流しに地方として参加する金厚さん

深夜1時ごろ、有志で行う町流しに地方として参加した金厚さんは、東町に胡弓の音色を響かせた。

東町・金厚佑進さん:
緊張して、思ったような音色が出せなかったかなという思いはあるが、良い経験になった。楽しかった。みんなで楽しみながら祭りを次の世代に引き継いでいくのが大切だと思う。踊りを卒業した後も(地方として)楽器を続けていきたい

踊り手と地方。両方の魅力を知ることで、おわらの奥深さを実感している金厚さん。300年余りの伝統を受け継ぎながら、次の時代へとおわらの魅力をつないでいく。

(富山テレビ)

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